第16話(最終話)- 収益認識基準で「重要性の判断」はどうする? - 公開道中「膝経理」

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こんにちは、有限会社ナレッジネットワーク 公認会計士の中田清穂です。

「公開道中『膝経理』」は、16回目の今回で、新しい「収益認識に係る会計基準」の解説を終えます。連載を通じ、「収益認識に係る会計基準」で従来の会計基準から変わる重要な論点について、会計に携わる方にとって実務上の影響範囲や大きさを説明してまいりました。

前回は「収益認識に係る会計基準」の影響で、これまた大きな影響を与える「延長保証の取り扱い」について解説しました。

そして「収益認識に係る会計基準」解説の最終話になる今回は、「重要性の判断」について解説します。

プロローグ

キンコンカン株式会社の幸田社長と、田中経理部長。そして幸田社長の悪友である山下社長が、社長室で話し込んでいる。「収益認識に係る会計基準」が適用されたことで生じる実務上の影響の大きさを実感した2人と田中経理部長の話は、さらに深みを増していく。

明確な判断基準がない「重要性」

幸田一郎社長 幸田

田中さんにいろいろ話を聞いてきたけれど、収益認識における新基準は解釈が難しいところが多いなと感じています。以前ちょっと聞いた「重要性」ってやつも難しかったな。

田中清経理部長 田中

返品の見積を考慮した売上計上」についてご説明しているときに、重要性の判断については軽くご説明しましたね。覚えておいでですか。

幸田一郎社長 幸田

もちろんですよ。「会社にとって重要性がない場合にはこの会計基準に従う必要がない」という文言が基準で明確に記載されているというものですよね。

田中清経理部長 田中

そのとおりです。もちろん条件はありますが、重要性に関しては各会社の判断に任されています。

幸田一郎社長 幸田

従来の会計基準には、重要性がなければ厳格に対応する必要はないという規定はなかったんですか?

田中清経理部長 田中

ありましたよ。「企業会計原則」に「重要性の原則」がありました。ただ、数値で明確に規定された判断規準が、個々の会計基準で示されていました。

山下悟 山下

うちは上場していないから会計基準に従う必要がなくて、関係ないんですよね?

田中清経理部長 田中

上場していなければ関係ない話かもしれませんが、山下社長にもぜひ聞いていただきたい。私、山下社長も上場をひとつの目標にされてもいいのではと思っているんですよ。

山下悟 山下

マジ!? もし上場できたらカッコいいよな~。

幸田一郎社長 幸田

悟はそうやってすぐに調子に乗るんだから。上場って本当に大変なんだぜ。

山下悟 山下

そりゃそうかもしれないけど、資金調達だって楽になるでしょ。うちは工務店で1つの案件で扱う金額も大きいし、融資が受けやすいと助かるんだけどな~。お客様の信頼も上がるだろうしね。

田中清経理部長 田中

もちろん上場はすべての会社が達成できるものではありませんが、いろんなルールに従う必要があって、窮屈な面もありますが、上場を目標にされるのは悪いことではありませんよ。

山下悟 山下

男たるものそれくらいの気概は必要なんだよ、一郎ちゃん!

幸田一郎社長 幸田

はいはい、わかったから。でもよくわからないのは、どうやって重要性を判断するのでしょう。僕がいくら重要性がないから厳格な対応はしたくないと思っても、監査人の方で重要性があるって判断されてしまったら、厳格な対応をしなくちゃいけないわけでしょ…。

財務諸表を見るのは投資家と経営者

田中清経理部長 田中

重要性がないということで、厳格な対応を回避するためには、重要性があるかどうかを検討する必要がありますが、新しい会計基準には、数値で明確に示されたものはありません。

幸田一郎社長 幸田

ややこしいな。自分たちで判断してもいいのに、判断が間違っていたらダメなんて。

田中清経理部長 田中

確かにややこしいのですが、判断基準を自社でどのように設定すればいいのかについては、いくつか考え方があるように思います。

幸田一郎社長 幸田

一番わかりやすい考え方が知りたいです。

田中清経理部長 田中

「重要性が乏しい」と判断する事業はどれなのか。一番わかりやすいのは結局のところ、その事業が、会社全体に影響を与える程度の売上や利益を上げているかどうかだと思います。

幸田一郎社長 幸田

会社全体の売上から見て、これは微々たるものだなと思える事業に関しては重要性が乏しいと考えるってことですよね。

田中清経理部長 田中

そうです。投資家など外部のステークホルダーは、わが社の財務状況を確認する際に何をご覧になりますか?

幸田一郎社長 幸田

まず財務諸表を見るでしょうね

田中清経理部長 田中

はい。経営者である幸田社長ももちろん、財務諸表も参考にして、限られた経営資源をどのように使うのかを決められますよね。

山下悟 山下

経営資源って何?わかりにくいなぁ。

幸田一郎社長 幸田

ヒト・モノ・カネのことだよ。これらをどこに使えば、一番儲かるかを考えるのが経営者だってことだよ。

山下悟 山下

あー。優秀な社員は一番儲かる部門で働いてもらいたいもんね。

田中清経理部長 田中

投資家の方々も財務諸表を重要な情報源としてご覧になりながら、わが社の株を「買うのか」「売るのか」を判断されると思います。

幸田一郎社長 幸田

そうか。新しい会計基準をきちんと適用しなかったら、財務諸表に反映されないから、経営者も投資家も間違った判断をしちゃうってことになりますよね。

田中清経理部長 田中

そのとおりです。ですから経営者や投資家といった財務諸表に目を通す方に多大な影響が出るかもしれない事業に関しては、重要性が十分にある。つまり新しい会計基準を適用しなければならないのです。

幸田一郎社長 幸田

田中さんの言いたいことはわかるけど、会社にとって重要なのかどうか、客観的に納得できるようにすることは難しいな~。

新しい会計基準を軸に明確なルールづくりを

田中清経理部長 田中

会社経営にとって重要である事項は、通常、取締役会や経営会議での検討事項になります。

山下悟 山下

うちなら「幹部会議」だな。毎週月曜の朝にやってるよ。

田中清経理部長 田中

新しく資産を買うことも「幹部会議」で議論されるでしょう?

山下悟 山下

そりゃそうさ。高いモノを現場が勝手にバンバン買ってたら、アッとゆう間に倒産しますからね。

田中清経理部長 田中

「高いモノ」っていくらくらいですか?

山下悟 山下

特に決まってないよ。

幸田一郎社長 幸田

おいおい「決裁権限規定」とか、作ってないの?

山下悟 山下

うちは上場してないからそんな面倒くさいものないよ。

田中清経理部長 田中

発注する前に「幹部会議」で報告してもらうようにしているのは、だいたいで良いのですが、いくらくらいですか?鉛筆や消しゴムを買うことまで、「幹部会議」で報告はさせていないでしょう?

山下悟 山下

そりゃそうですよ、う~ん・・・。50万円くらいかな?

田中清経理部長 田中

それです!

山下悟 山下

えっ!?

田中清経理部長 田中

山下社長の会社では、50万円が、社長判断の際に「重要」だと考えられる「規準」になるでしょう。

幸田一郎社長 幸田

悟の会社では、50万円が「重要性の規準」になるかもしれませんが、うちの会社では、50万円以上の取引をすべて厳格に対応すると、めちゃめちゃ大変ですよ!

田中清経理部長 田中

わが社では、経営判断は幸田社長の独断ではなく、取締役会で審議して決めていますね?

幸田一郎社長 幸田

そうですね。役員の意見を聞いたうえで、取締役会で決議します。

田中清経理部長 田中

取締役会に提出される資料の金額の単位は、百万円単位でしたね?

幸田一郎社長 幸田

こそうです。細かい金額だとわかりにくいから、資料は全部百万円単位にしてもらっています。

田中清経理部長 田中

それです!

幸田一郎社長 幸田

えっ!?

田中清経理部長 田中

わが社では、百万円未満の金額は、経営判断には必要ないということです。

幸田一郎社長 幸田

これはわかりやすい「規準の設定方法」ですねぇ。でも、百万円ではまだちょっと細かい感じがします。

田中清経理部長 田中

資料の単位は百万円単位でも、取締役会で実際に議論される金額は、百万円単位ですか?

幸田一郎社長 幸田

いいえ。意見を言うときには、だいたい億円単位ですね。

田中清経理部長 田中

それです!

幸田一郎社長 幸田

えっ!?

田中清経理部長 田中

つまり、経営判断では1億円以上で判断しているということになるでしょう。だから、わが社の「重要性の数値規準」は、1億円にするという考え方ができるでしょう。

幸田一郎社長 幸田

言わんとすることはわかります。

田中清経理部長 田中

このような考え方は新しい会計基準に明記されているわけではありませんが、適切に対応させていくには、経理部の社員や経営者が、財務諸表の本質を踏まえて自分たちのルールを構築していかないといけません。

幸田一郎社長 幸田

教科書に書いてある通りの会計処理ができていればOKという時代は、終わったのかもしれませんね。僕も「経営と会計を結びつける」思考力をもっと磨かなくちゃな。

田中清経理部長 田中

そのとおりです。私も経理部の社員に常に話していますが、電卓をはじいて数字が合ったら終わりなんて考え方では、経理マンとしてこれからの時代で食っていくことはできません。数字から未来を読み解く力、思考力が大事なんです。

幸田一郎社長 幸田

田中さん、僕がずっと考えていたことがあるんですけど。

田中清経理部長 田中

何でしょう。

幸田一郎社長 幸田

田中さんさえ問題なければ、田中さんに名実ともにわが社のCFOになってほしいんです。

田中清経理部長 田中

幸田社長…。

幸田一郎社長 幸田

今までずっと話を聞いてきて、僕には会計や経理の知識が乏しいと痛感したんですけど、これからの会社経営にはとても重要な知識だってことがわかりました。でも僕は社長だから、他にも勉強しないといけないことがたくさんある。だから田中さんには、経理だけはなくて、会社全般を見渡して、数字の根拠をもって経営を導くCFOとして、今まで以上にアドバイスしてもらえたらなって思っていたんです。

山下悟 山下

CFOってカッコいいな~。まさに社長の右腕!

幸田一郎社長 幸田

もちろん受けていただけますよね?

田中清経理部長 田中

スーパー経理部長として長年、キンコンカン株式会社の成長を推進しようとしてまいりました。CFOへの就任とは、ありがたきお言葉です!

山下悟 山下

良かったな~。じゃあ一郎、田中さん。これから居酒屋でお祝いしよう。

幸田一郎社長 幸田

悟はさ、結局飲めたらいいんでしょ。

山下悟 山下

違うよ、思考力アップのためのエネルギーチャージだよ!

 

中田の一言

今回で「収益認識に係る会計基準」の解説は終わります。

「公開道中『膝経理』」として、読者の皆さんにお話する機会として、最初のテーマが「収益認識に係る会計基準」であったことは、とても重要な意味を持つと考えています。それは、従来の日本の会計基準とは、全く異なる考え方だからです。特に「重要性の考え方」については、従来の日本の会計基準との違いがハッキリしてきます。今までは、「オカミが規準を決めてくれていた」のですが、今後は「自分たちで規準を決めなければならない」のです。しかし、今の経理の現場では、「規準」を自分で考えることがとても不得意な方々が多いように感じています。しかし不得意だから面倒くさがっていると、監査法人の指示に従うしかなくなります。監査法人の「重要性の尺度」は“厳しめ”です。会社にとって重要ではないかもしれないことにまで「厳格に」対応しなければならなくなる可能性が高まります。

「ルールは与えられるもの」から「ルールは自分たちで作るもの」になったのです!
自分たちでルールを作る「権利」を得たのです。
まさしく「経理は奴隷解放時代に突入した」と言っても過言ではないと考えています。

公開道中「膝経理」(リンク集)

第1話「慣習に過ぎなかったこれまでの売上計上手続 」
第2話「収益認識基準の影響は? 損益に偏った経営情報の落とし穴(前編)」
第3話「収益認識基準の影響は? 損益に偏った経営情報の落とし穴(後編)」
第4話「日本の会計制度に影響を与えているIFRS(国際会計基準)とは?」
第5話「収益認識基準における売上計上への5つのステップとは?(その1)」
第6話「収益認識基準における売上計上への5つのステップとは?(その2)」
第7話「収益認識基準における売上計上への5つのステップとは?(その3)」
第8話「見逃せない、収益認識基準が法人税・消費税に与える影響とは?」
第9話「収益認識基準の影響で、付与したポイントの引当金計上は大幅見直し」
第10話「収益認識基準への改正で割賦販売の延払基準が廃止に」
第11話「収益認識基準では返品の見積を考慮した売上計上が必要に」
第12話「収益認識基準で売上計上が禁止になる有償支給取引とは?」
第13話「収益認識基準の登場で工事進行基準は廃止」
第14話「収益認識基準では、本人か代理人かで売上が激減することもある」
第15話「収益認識基準では、延長保証サービスの会計処理も変わる」
第16話「収益認識基準で「重要性の判断」はどうする?」

監修者プロフィール

中田 清穂(Nakata Seiho)

BOH_hero_nakataseiho_small_01.jpg公認会計士、有限会社ナレッジネットワーク代表取締役、一般社団法人日本CFO協会主任研究委員

1985年青山監査法人入所。1992年PWCに転籍し、連結会計システムの開発・導入および経理業務改革コンサルティングに従事。1997年株式会社ディーバ設立。2005年独立し、有限会社ナレッジネットワークにて実務目線のコンサルティングを行う傍ら、IFRSやRPA導入などをテーマとしたセミナーを開催。『わかった気になるIFRS』(中央経済社)、『やさしく深掘りIFRSの概念フレームワーク』(中央経済社)など著書多数。

ちなみに、連載タイトルは「東海道中膝栗毛」からです。「膝経理って何?」という質問が多かったので、お知らせです。(編集部)

 

監修:中田清穂 / 執筆:吉川ゆこ / 撮影・企画編集:野田洋輔

 

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