第8話 - 見逃せない、収益認識基準が法人税・消費税に与える影響とは? - 公開道中「膝経理」

こんにちは、有限会社ナレッジネットワーク 公認会計士の中田清穂です。

ここしばらく収益認識基準について解説してきましたが、読者の中には非上場企業にお勤めであったり、中小企業の経営者だという方がいらっしゃるはずです。「非上場企業や中小企業の人間には、収益認識基準の話は関係ない」と決めつけて、このコラムを読んでない方もいらっしゃったかもしれません。

あまり知られていないことなのですが、収益認識に関する会計基準は非上場企業や中小企業にも大いに関係があります。それは法人税や消費税といった税金です。関係ないと決めつけていると、あなたの会社は損をしてしまうかもしれませんよ。

 

プロローグ

年の瀬が迫ってきた。キンコンカン株式会社の幸田社長は、今年1年を振り返りながら、決算に向けて経理部から上がってきた資料に目を通していた。キンコンカン株式会社の決算は12月で、毎年この時期になると幸田社長はソワソワと落ち着かない。「今年も厳しい局面があったな…」と考えていたとき、急に社長室の扉が開いた。

 

非上場の中小企業に「収益認識に関する会計基準」は関係ない?

山下悟
山下

一郎ちゃん、いる?

幸田一郎社長
幸田

また~、来るときはちゃんと連絡してって言ってるじゃん。

山下悟
山下

そうだっけ?

幸田一郎社長
幸田

それから社長室に入るときは、ちゃんとノックしてくれって何度も言ってるだろ? どうしてわかってくれないんだよ。

山下悟
山下

あ~悪い、悪い。だけど一郎ちゃん。俺たち幼なじみなんだから、そんなに気を使わなくてもいいっしょ。

幸田一郎社長
幸田

悟は気を使わないかもしれないけれど、僕は気にするの。

山下悟
山下

そうなんだ。なあ、いまから飲みに行こうよ。

幸田一郎社長
幸田

うちは12月が決算なのもあって、年末のご挨拶やら会食やら数字の追い込みやら重なって、いまめちゃくちゃ忙しいんだよ。毎年言ってるだろ? 決算の資料に目を通していたところだから、今日は飲みに行けない。

山下悟
山下

ふ~ん。うちは3月決算だし、一郎ちゃんのとこのように上場もしていない小さな会社だから、そんなのささっと済んじゃうの。

幸田一郎社長
幸田

収益認識基準に会計基準が変わったせいで、税務上の問題とか本当にややこしくて、僕は理解がおいつかなくて大変なの。だから今日はもう帰ってよ。

山下悟
山下

大変ですね~、上場企業さんは。うちなんか上場していないから監査法人の監査も受けていないし、会計基準が変わっても関係ないから楽だな。

田中清経理部長
田中

失礼ですが、山下社長。関係ないってことはありませんよ。

山下悟
山下

うわ~、田中さん。いつからそこに立ってたんですか? 気づかなかった。

田中清経理部長
田中

山下社長が扉を開けっぱなしにされていたので、私が社長室に入ってきたことに気づかれなかったのです。話を聞いていたら、山下社長の会社は上場していないから新しい「収益認識に関する会計基準」は関係ないと! 聞き捨てならない発言が耳に入ってきたものですから、驚きました。

 

新会計基準の適用で、税金が下がる?

幸田一郎社長
幸田

田中さん、その話、僕も興味あります。悟の会社は上場していません。だから監査は受けないはずです。それなのにどうして、この新しい「収益認識に関する会計基準」が関係あるんですか?

田中清経理部長
田中

おっしゃるとおり、新会計基準は、公認会計士による監査を受ける上場企業や大会社にしか関係がありません。会計基準に沿って財務諸表が正しく作成されているのかを、会計士が確認します。それでお墨付きをもらわないと監査を終えることができません。この際に判断基準となる会計基準とは何ですか?

幸田一郎社長
幸田

それはもちろんASBJ(企業会計基準委員会)が作成している日本の会計基準です。

田中清経理部長
田中

その通りです。だけど非上場の会社や中小零細企業は、この会計基準に従う必要はありません。しかし、税制となるとどうでしょうか?

山下悟
山下

税制って、要は法人税とか消費税ということですか? それならうちの会社にも大いに関連があります。

田中清経理部長
田中

今回の新会計基準の内容は、広い範囲で税制にも取り込まれていて、大きな影響を及ぼしました。、新会計基準である収益認識に関する会計基準が適用されることで、値引きや割戻しなど、売上計上できなくなった項目が増え、会計上の利益が減ることになったからです。利益が減るということは、課税所得が減ります。つまり税金が減るのです。

山下悟
山下

それってお得じゃないですか!

田中清経理部長
田中

はい、お得です。

 

税金対策に新しい「収益認識に関する会計基準」を活用

田中清経理部長
田中

ちょっと話はそれますが、日本の収益認識における会計基準が、ASBJから公表されたのは2018年3月30日です。今年から早期適用して売上高を計上しても、税制上で認められなければ、税務申告が複雑になります。したがって、会計基準の公表に併せて2月の通常国会に税制改正法案が提出され、国会で成立しました。

幸田一郎社長
幸田

そうなんですか。でも新会計基準を適用する必要のない非上場企業が、どうやって税制上のメリットを受けられるんだろう?

田中清経理部長
田中

まずは義務ではないけれど、非上場企業でも認められている新しい会計基準で決算書を作成するのです。そうすることで売上と利益が減らせます。

幸田一郎社長
幸田

そんなことできるんですか?

田中清経理部長
田中

できます。今年度の税制改正では、新しい会計基準で売上高を計上して利益が減った場合、一部を除いて、税制上も課税所得が減ることを明文で認めたのです。この取り扱いには、上場・非上場の区別はないのです。

山下悟
山下

よくわからないけど、とにかく得する手があるってことでしょ! すごいな。税金が減るなんて、すごく嬉しい情報だな。よし、税金が浮くぶんで飲みに行こう。一郎ちゃん、行こうよ。

幸田一郎社長
幸田

だから僕は決算で忙しいんだってば!

~次回、「ポイント引当金の廃止」に続く~

 

中田の一言

国が今年度の税制改正に踏み切ったのは、新会計基準の早期適用が今年度から認められていることが要因でした。

新会計基準を早期適用するのはどんな会社かというと、IFRSを任意適用している会社。つまりグローバルに活動する日本の代表的なトップ企業たちです。連結財務諸表をIFRSで作成しても、親会社の個別財務諸表は、日本基準の従来の売上で作成しなければいけない状況では、非常にややこしい手続きが必要になります。そして、個別財務諸表を新基準を早期適用して作成しても、税制上で認められなければ、税務申告が複雑になります。そんな面倒なことにならないために、国が日本を代表するトップ企業に配慮して動いた結果といえるでしょう。

しかし、なぜ税制改正が行われたのか。その真意を理解していないと、税制を上手に活用するという発想に行きつくことができません。上場企業や大会社の税務を行っていない税理士では、このような税務上のメリットを理解している人は少ないと思います。

非上場企業に知人をお持ちの方は、ぜひこの有用な情報を知らせてあげてください!

公開道中「膝経理」(リンク集)

第1話「慣習に過ぎなかったこれまでの売上計上手続 」
第2話「収益認識基準の影響は? 損益に偏った経営情報の落とし穴(前編)」
第3話「収益認識基準の影響は? 損益に偏った経営情報の落とし穴(後編)」
第4話「日本の会計制度に影響を与えているIFRS(国際会計基準)とは?」
第5話「収益認識基準における売上計上への5つのステップとは?(その1)」
第6話「収益認識基準における売上計上への5つのステップとは?(その2)」
第7話「収益認識基準における売上計上への5つのステップとは?(その3)」
第8話「見逃せない、収益認識基準が法人税・消費税に与える影響とは?」
第9話「収益認識基準の影響で、付与したポイントの引当金計上は大幅見直し」
第10話「収益認識基準への改正で割賦販売の延払基準が廃止に」
第11話「収益認識基準では返品の見積を考慮した売上計上が必要に」
第12話「収益認識基準で売上計上が禁止になる有償支給取引とは?」
第13話「収益認識基準の登場で工事進行基準は廃止」
第14話「収益認識基準では、本人か代理人かで売上が激減することもある」
第15話「収益認識基準では、延長保証サービスの会計処理も変わる」
第16話「収益認識基準で「重要性の判断」はどうする?」

監修者プロフィール

中田 清穂(Nakata Seiho)

BOH_hero_nakataseiho_small_01.jpg公認会計士、有限会社ナレッジネットワーク代表取締役、一般社団法人日本CFO協会主任研究委員

1985年青山監査法人入所。1992年PWCに転籍し、連結会計システムの開発・導入および経理業務改革コンサルティングに従事。1997年株式会社ディーバ設立。2005年独立し、有限会社ナレッジネットワークにて実務目線のコンサルティングを行う傍ら、IFRSやRPA導入などをテーマとしたセミナーを開催。『わかった気になるIFRS』(中央経済社)、『やさしく深掘りIFRSの概念フレームワーク』(中央経済社)など著書多数。

ちなみに、連載タイトルは「東海道中膝栗毛」からです。「膝経理って何?」という質問が多かったので、お知らせです。(編集部)

 

監修:中田清穂 / 執筆:吉川ゆこ / 撮影・企画編集:野田洋輔

 

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