出張・経費管理トレンド

なぜ今「ビジネストラベルマネジメント」が注目されるのか 第1回「海外出張の変遷とITの仕組み」

Chie Tomita |

海外出張がごく当たり前になり、企業は今、かつてないほどコスト削減や従業員の安全を確保するための管理体制が求められています。そこに不可欠なのが「ビジネストラベルマネジメント(BTM)」の考え方です。そこで本連載ではBTMの重要性について解説していきます。第1回の今回は、その前提となるビジネストラベルの歴史やそこに欠かすことのできないITの仕組みを振り返って見たいと思います。

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海外に後れを取っていた日本のBTM

近年はビジネスのグローバル化が急速に進んでいます。世界各地に生産・販売拠点を構える企業のみならず、海外と直接取引関係にある企業も含めると、国外に拠点を持つ企業は相当な数になります。それに伴って海外出張・海外赴任などの機会が増え、業務や研修・視察目的で海外へ渡航する日本人は、毎年300万人近くにも上っています。

このような業務渡航の機会が増えるにつれ、企業の間では渡航経費やリスクを管理しようという機運が高まっています。これが「ビジネストラベルマネジメント(BTM)」という考え方です。業務渡航に特化した旅行会社が、企業から委託を受けチケットやホテルの手配を行う業務を指してBTMと呼ぶ場合もあります。

BTMはもともと、1980年代に米国で始まったと言われています。当初は経費削減が主な目的でしたが、次第に出張中の利便性向上を図る行程管理、渡航先での安全を第一に考慮する危機管理なども含め、業務渡航を総合的に管理することを表すようになりました。

日本では1990年代に外資系企業からの要望に応える形で一部の旅行会社がBTM事業を開始し、バブル経済崩壊後の景気低迷によって経費削減に取り組む企業が増える中、2000年前後からようやく日本企業の間でもBTMの価値が注目され始めてきました。

旅行会社にとっても、BTM事業への参入は重要なビジネス課題でした。旅行会社の大きな収益源だった航空会社の販売手数料が軒並み廃止される、いわゆる“ゼロコミッション”時代になって、これまでの渡航手配が中心だった代理業から渡航全般を扱うコンサルティング業への転換が迫られていました。また出張に限らず、国際会議への出席や国際展示会への視察といったMICE(Meeting、Incentive tour、Convention/Conference、Exhibition/Event)の需要を取り込むことも急務でした。こうしてBTM事業を開始し、企業のBTM運用を担当する旅行会社が増えていったのです。

「CRS」の誕生で加速する航空会社のIT化

BTM事業の発展過程において、最も重要な役割を果たしているのがITです。特に航空業界におけるIT化の進展は、BTMが誕生するきっかけにもなりました。

航空会社がITを初めて導入したのは、50年以上前の1960年代のことです。急速な航空需要の拡大や機材の大型化によって煩雑化した予約業務を効率化するために、各航空会社が個別にコンピュータ予約システム(CRS=Computer Reservation System)を構築したのが最初です。CRSの登場で、それまで人海戦術に頼っていた予約業務が自動化され、大幅な業務効率化とコスト削減が実現されることになったのです。

その先駆けになったのが、アメリカン航空が1963年にIBMと共同開発した「Sabre(セーバー)」であり、その後多くの大手航空会社が追随。日本でも1964年に日本航空が「JALCOM(ジャルコム)」の運用を開始しています。

1970年代になると、CRSは航空券の予約・販売ツールとして旅行会社に開放されます。旅行会社の業務はそれまで電話と手作業に依存していましたが、CRSの開放によって大幅に効率化されることとなり、旅行会社は先を争って各航空会社のCRSを導入しました。その結果、CRSは戦略情報システムとして航空会社の中核的な地位を確立しました。

CRSの独立、そしてGDSへ

CRSは、1978年の米国航空規制緩和(運賃自由化)によってさらに普及します。ところがCRSを持つ航空会社が自社便を優先表示していたことが自由競争を妨げるとして問題になりました。この問題を解決するために、米国運輸省はCRSを航空会社から分離・別会社とする「CRS規制法」を施行しました。1980年代になると欧州でもCRSに対する法的な規制が導入され、自社を優先表示した販売を禁止するルールが設定されました。

こうした規制の下では、航空会社にとってはもはやCRSを運営するメリットはありません。CRSは航空会社から資本も切り離され、独立経営の道を歩み始めます。そして旅行会社からのシステム利用料、航空会社からの予約手数料を収益とするビジネスモデルを築き上げ、中立的な立場で旅行業界の流通システムを担う存在となっていきました。

しかし2000年代に入ってインターネットが広く普及すると、高額な予約手数料を嫌う航空会社の多くがオンラインによる直販に注力するようになります。そこでCRS各社は航空だけでなく、ホテルやレンタカーなどの予約も取り込むといった事業の多角化に乗り出し、システムについても、航空券だけでなく、旅行全般を取り扱う「GDS(Global Distribution System)」へと発展することになるのです。

現在の世界のGDS事情

CRSからGDSへと進化する中、経営統合や買収によって集約が進み、現在は前述のSabreのほか、「AMADEUS(アマデウス)」「Travelport (トラベルポート)」が「3大GDS」と呼ばれています。

Sabreは上述のとおり、アメリカン航空のCRSから発展したGDSです。AMADEUSは、エールフランスやルフトハンザなど欧州系航空会社が共同構築したGDSであり、もう1つのTravelportは、ユナイテッド航空のCRSから発展した「Apollo(アポロ)」、ブリティッシュ・エアウェイズやKLMなど欧州系航空会社の「Galileo(ガリレオ)」、デルタ航空の「DATAS(ダータス)」と旧トランスワールド航空の「Pars(パーズ)」を統合した「Worldspan(ワールドスパン)」を傘下に持つプロバイダーで、現在も3系統のGDSを運営しています。

国・地域ごとのCRS/GDSも存在しています。日本ではCRSとしてJALCOMから発展した日本航空グループの「AXESS(アクセス)」、全日空の国際線とアジアの主要航空会社11社が利用する「INFINI(インフィニ)」、全日空が独自開発した「Able(エイブル)」などがあります。

今後のGDSの課題とは?

すでに航空会社だけでなく、ホテルやレンタカーの予約システムとの統合が進むGDSですが、課題も残されています。GDSは今後、台頭の著しいLCC(Low-Cost Carrier)や高速鉄道への対応、Airbnbなど民泊の取り込みなど、多様化する旅行業界のサービス事業者や利用者のニーズに応えていくことが求められています。

しかし、安価な航空券をオンラインで直販するLCCの独自システムとGDSを連携させるのは、ローコストでの運営を狙うLCC側に費用負担が発生するため難しい現状があります。鉄道についても欧州ではGDSと連携しつつありますが、日本のJRの予約システム「MARS(マルス)」との接続はできておらず、唯一JR東日本が訪日外国人向けに販売する「JR EAST PASS」のみが対応しているという状況です。

また、基本運賃とそれ以外の付帯サービス(座席指定、優先搭乗、機内食、アメニティ提供など)を切り離して課金する「アンシラリーサービス」、各航空会社のアンシラリーサービスをセットした「ブランデッドフェア(航空会社の独自運賃)」などもサポートしていかなければなりません。さらにモバイル対応や機内Wi-Fi接続といった新しいテクノロジーへの対応も欠かせません。

このような課題を少しずつクリアしながら進化し続けるGDSは、旅行会社のBTM事業、および企業のBTM運用にとってなくてはならない存在なのです。次回は、企業のBTMの話に進む前に、ITの進歩によって旅行会社の業務がどのように変化してきたかを押さえておきたいと思います。

なぜ今「ビジネストラベルマネジメント」が注目されるのか(リンク集)

第1回「海外出張の変遷とITの仕組み」
第2回「ITが変えた旅行会社の業務」
第3回「企業の出張経費削減の秘訣とは」
第4回「BTMがもたらす働き方改革」

BTMについて詳しく知りたい、BTMの実現方法について質問したい、という方は、お気軽にこちらまでご連絡ください。

 

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