なぜ今「ビジネストラベルマネジメント」が注目されるのか 第4回「BTMがもたらす働き方改革」

Chie Tomita |

前回の第3回では、ビジネストラベルマネジメント(BTM)により企業は業務渡航のコスト削減をはじめ、業務効率化を実現できると紹介しました。しかしBTMのメリットは、会社だけに利益をもたらすわけではありません。従業員の“働き方改革”など、ほかにもさまざまなメリットがあるのです。

変わりゆく航空運賃体系

業務渡航に関するすべてを管理する「ビジネストラベルマネジメント(BTM)」を実践することで、企業はコスト削減や業務効率化などさまざまなメリットが得られるようになります。そしてBTMに取り組むには、業務渡航の旅費ガイドラインや購買ポリシーを作成し、BTM事業の豊富な経験とITリテラシーを兼ね備えた旅行会社 ―― TMC(Travel Management Company)の活用が役に立つことを前回までに紹介しました。

こうしたBTMの導入が企業の間で活発化してきた背景には、世界中で巻き起こっている3つの潮流があります。

1つはITの発展に伴う新しい航空運賃の登場です。近年、格安運賃の航空会社 ―― LCC(Low Cost Carrier)が台頭してきたことにより、既存の航空会社 ―― FSC(Full Service Carrier)は「ベーシックエコノミー」など新しい運賃体系を導入し始めています。

「ベーシックエコノミー」とは機内食や飲み物の提供、手荷物預かりといった様々なサービスを切り離した、通常よりも安価な運賃体系のことを指します。切り離された個々のサービスは「アンシラリーサービス」としてバラ売りされ、乗客自身が選択できます。また、航空会社は独自でアンシラリーサービスを組み合わせ、お得感や特別感のある航空会社独自の運賃「ブランデッドフェア」を設定し、販売も始めています。

そして、航空会社と旅行会社間の航空券流通を支えてきたGDS(Global Distribution System。詳しくは第1回)では対応できないこの新しい運賃体系を支える流通規格として、国際航空運送協会(IATA)は「NDC(New Distribution Capability)」を策定しました。つまり、航空会社が自社の判断でより細分化し、差別化を図ったアンシラリーサービスやブランデッドフェアを旅行会社や航空券の購入者等に効率的に販売する仕組みが整備され始めているのです。

TMCなどの旅行会社は、このNDCの仕組みや、GDSを駆使しながらBTMに取り組む企業や乗客(従業員)を囲い込もうと、まさにITを軸にした攻防が繰り広げられています。こうした動きに対し、企業自らが自社に最適なサービスを柔軟に取捨選択できるBTMを実現するための環境を重視するようになったのです。

危機管理と“ブリージャー”の両立

二つ目の潮流は、危機管理(企業の安全配慮義務)の重要性が認識されつつあることです。海外出張や海外赴任など、海外に渡航する従業員の安全確保は、企業に課された義務です。しかし多くの日本企業は、迅速かつ高精度に渡航先の情報を把握できず、どの企業も安全配慮義務への対応に苦慮しています。

企業の危機管理担当者は、頻発するテロ、暴動、災害に心が休まらぬ日々を送り、渡航者も自分の身を守る最新情報を得るために常に緊張を強いられているという現状があります。

このような危機管理を含めたリスクマネジメントを実践するには、セキュリティ情報を専門に提供している第三者機関による情報や、出張者の旅程情報など、あらゆる最新情報を意識せずとも自動的に入手できる、接続性・連携性を備えたオープンプラットフォーム上でのBTMの運用が求められます。

さらに、三つ目の潮流になっているのが「ブリージャー(Bleisure=Businessとleisureをつなげた造語)」、すなわち渡航先でそのまま休暇を楽しむという新しい出張旅行の形態のブームです。

日本企業は従来、管理の観点からブリージャーに難色を示す傾向にありました。実際には、海外渡航のついでに現地のことを良く知りたいと延泊、ついでに観光する、というのはよくあるのですが、費用負担をどう切り分けて精算するか、危機管理はどの範囲を会社の責任とするか、といった部分が曖昧だったため、グレーゾーンとして“見て見ぬふり”をしてきたのが実情でした。

しかし、渡航先でのあらゆる行動がデータとして管理された状態であれば、ブリージャーを否定しないという企業も増えつつあります。いわゆる“働き方改革”の一環としてブリージャーをとらえ、オンとオフを使い分けながら業務以外の経験の機会を与えるという考え方です。

これは、業務からの離脱、業務への復帰、公私の切り分けといったポリシーを明示するとともに、利用した費用内訳に関するファクトが連携されるオープンプラットフォーム上でのBTMの運用によって透明性を担保することで十分に実現可能です。また、業務渡航の際に仕事だけでなく余暇も楽しめるという会社は、豊かな経験を与えてくれる柔軟で魅力のある企業として優秀な人材の獲得にもつながる可能性もあるなど、会社にとってのメリットも大きいのです。

スト削減と働き方改革を同時に実現

上に述べた3つの潮流すべてに対応するのが、コンカーが提供するConcur Travel」「Concur Risk Messaging」「Concur Expenseの一体運用による、BTMの高度化実現パッケージです。

BTMにとって重要なのは、単に一律ビジネスクラス禁止といったダウングレードや、出張の回数削減や禁止による目先のコスト削減ではなく、サービスをバランスよく最適化した持続可能なコスト削減の施策です。また外部サービスとの連携によって入手した渡航先の注意情報などもコンカーのBTMの高度化実現パッケージの中で連動・集約させ、すべてのデータの可視化を図ります。

危機管理については、会社の経費で渡航した人の有事における取り扱いについて、公私の境界を明確にして対象期間を切り分けることが可能になります(なお、休暇中の社員においても「社員」という立場に変わりがないため、把握可能な限り危機管理の対象とし、万が一実費が発生した場合は本人に負担してもらう、という企業も少なくありません)。

ブリージャーによる公私の費用負担の切り分けでは、ポリシーを明確にしながら正しい精算が行えるような仕組みを提示することが重要です。これにより企業側には従来は曖昧だった経費を削減するという効果をもたらし、渡航者である従業員にはモチベーションや幸福感を与えることにつながります。従業員の渡航先での豊かな経験は、会社にとっても必ずやプラスになることであり、決して無駄にはならず、むしろ働き方改革の一環として今後ますます推奨されるべきであるとも言えるでしょう。

企業の間接経費削減、働き方改革などが叫ばれる昨今、BTMの高度化はそれらの取り組みを一挙に成功させるのに最も有効、かつ容易な方法の1つです。ぜひ貴社でもその取り組みを始められてはいかがでしょうか。

なぜ今「ビジネストラベルマネジメント」が注目されるのか(リンク集)

第1回「海外出張の変遷とITの仕組み」
第2回「ITが変えた旅行会社の業務」
第3回「企業の出張経費削減の秘訣とは」
第4回「BTMがもたらす働き方改革」

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