出張・経費管理トレンド
【イベントレポート】コンカーで実現する経費管理基盤のAI戦略
2025年1月28日にイベント「コンカーで実現する経費管理基盤のAI戦略」(主催:株式会社コンカー)を開催し、オンサイト32社34名、オンライン180社197名の皆様にご参加をいただきました。当日はデロイト トーマツ コンサルティング合同会社 ディレクター 富田 吉隆 氏にご登壇いただき、ファイナンス領域におけるAI活用についてご講演をいただいた後、コンカーよりAI活用戦略と具体的なサービスをご紹介しました。本ブログ記事では当日の様子をご紹介します。
【冒頭挨拶】本日のテーマについて
冒頭、株式会社コンカー 営業統括本部 クライアントエンタープライズ営業部 部長 柳 宗行より開会挨拶を述べました。
昨今、中国のAI企業がChatGPTとほぼ同スペックのAIの開発に成功したニュースが話題になっています。私たちコンカーも、お客様からコンカー自身のAIの取り組みについて、非常に多くのお問い合わせをいただいています。またお客様とご意見交換をさせていただく中で、今年の取り組みテーマとしてAIを掲げていらっしゃるお客様が非常に多いと感じています。そこで今回は、AIが経理部門にもたらす最新のトレンドとその活用方法をご案内させていただきます。コンカー自身が提供するAIソリューションのご紹介、デモンストレーションを通して、業務の効率化と高度化をどう実現するのかお伝えします。
参考レポート:出張・経費管理にビジネスAIを活用して、競争優位性を獲得する方法
【基調講演】ファイナンス領域におけるAI活用について
デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 ディレクター 富田 吉隆 氏より、「財務会計プロセス」「経営管理」「生成AIの経理・財務領域での活用事例」それぞれのテーマで、AI活用の最新状況をご紹介いただきました。
財務会計プロセスにおけるAI活用
財務会計領域は、販売管理、調達管理、決算処理といったプロセスの効率化、高度化により全社へ高い付加価値を提供可能な業務領域です。近年マーケットに出ているAIを活用したソリューションをご紹介すると、入金自動消込、契約リスク自動検知、発注・納品・請求情報のマッチング、請求受領から支払処理の自動化、異常仕訳の自動検知、内部取引照合の自動化などのソリューションがあります。
入金自動消込のソリューションについては、累積されたマッチングデータの機械学習により、答えを類推して候補を出します。これまで熟練の方が担ってきた業務を学習し、その方の部下のように動きます。
発注・納品、請求情報のマッチングについては、電子の請求書ではなくポータル上で請求データをやりとりするツールが出てきています。請求書のもとになる納品書、発注書、契約書、これらのデータと事前情報を含めてポータルに蓄積し、請求書が正しいものなのかチェックする機能の開発が進んでいます。
異常仕訳の自動検知については、子会社を含む日々の仕訳情報をAIに覚えさせることで、めったにない仕訳へのアラート発出や、金額の増減分析で桁が間違っていないか、この時期の仕訳計上はおかしいとか、ピンポイントで上げるAIが出てきています。
経営管理におけるAI活用
経営管理は、企業の戦略立案・実行に関するプロセスを指し、経理財務組織が積極的に価値貢献に寄与すべき業務領域です。予算策定では、将来の予算をどう策定していくべきか、過去実績からシミュレーションしたり、事業別収支管理やプロダクト別収支管理など複数属性で分析していくところをAIに分析させたりするなど、個々の特性に合わせたシミュレーション結果を当て込んで経営に提言していく部分で活用余地があります。
過去の社内実績や社外指標から、過年度の予測実績をシミュレーションさせて実際の実績との照合を繰り返すことで、シミュレーションの確度を上げていくことができるようになります。
生成AIの経理・財務領域での活用事例
生成AIの文章・画像・動画を作らせるといった汎用的機能を用いることで、汎用的なファイナンスの世界で更なる活用余地があるのではないかと考えています。
活用事例をご紹介すると、たとえば経理規定や旅費マニュアル、会社の中のQ&A集をAIに覚えさせることで、各部門からの問い合わせに答えられるAIが開発されています。さらに、職位ごとに知れる情報を限定して回答するようにしたり、単純なQ&Aだけでなくデータ入力の手伝いができるAIを導入したりしようとしている事例もあります。
あるお客様では、決算整理仕訳をAIにやらせる取り組みが行われています。インプットとアウトプットを定義しトライを繰り返しながら、実際の仕訳起票を任せるチャレンジです。
実際の仕訳を繰り返すことで、必要な仕訳作業や、外部向け開示資料のドラフトを作るAIの開発が進んでいます。たとえば、有価証券報告書の文言をAIに作らせる取り組みです。各章立てを担当している部門の情報をAIに学ばせることで、その部門のように記載ができないかチャレンジしている事例もあります。
SAP ConcurのAI戦略 これからの出張経費精算
株式会社コンカー カスタマー&ソリューション統括本部 プロダクトマーケティング部 部長 舟本 憲政より、SAP ConcurのAI戦略と具体的なサービスをご紹介しました。
AIに対する意識・投資動向
ボストンコンサルティング社が「実施したAIが仕事に与える影響に対する意識の変化」を調査したところ、「楽観的である」と回答した人が2023年には多かったのに対して、2024年は少なくなりました。一方で「効果を確信している」「不安を感じている」の回答が増える結果となりました。
回答者の立場別に見ると、「効果を確信している」と回答した割合は経営層で高く、「不安を感じている」と回答した割合は従業員で高い結果となっています。また日常的に使っている人は「効果を確信している」と回答した人が多く、利用していない人は「不安を感じている」と回答した人が多いい傾向が見られます。
さらにCFOの方々を対象としたAIへの投資動向のアンケートをコンカーが実施したところ、2023年に投資する回答が33%だったのが、2024年には63%となり急速に投資が拡大していることが分かっています。ガートナー社では、生成AIを社内業務で活用する割合は、2023年に5%だったのが、2026年には80%まで拡大すると予想しています。
SAP グループのAI戦略
SAPグループとしては、AIエコシステムの連携パートナーとして、Amazon、Microsoft、Google、NVIDIAといったパートナーと協業し、AIの自社開発はしない方針です。そうすることで、最新の生成AIのエンジンLLM(Large language Model)の機能をお客様にご提供していく戦略をとっています。
SAPグループは、こうしたパートナーとの連携をベースに、独自のAIの開発基盤を用意しています。SAP製品にアドオンするパートナー様のアプリなどは、この基盤上で開発されます。独自の開発基盤を用意することで、グループ全体の統一性と質を維持するだけでなく、パートナーのエコシステムと当社の開発基盤を分離し、外部に機密情報が漏れないように対策しています。
さらに、SAPグループはAIチャットボット「Joule(ジュール)」をリリースしました。こちらから問いかけると、生成AIがリアルタイムで回答を作ったり、次のアクションを起こしてくれたりします。
SAP ConcurのAI戦略
コンカーは、10年前からAI-OCRに取り組んできており、大量のデータを活用して高精度の算出を実現してきました。そして次のステップとして、今年は不正検知の領域に取り組みます。今年の春に「Verify(ヴェリファイ)」を日本でスタートします。
「Verify」の後に見据えているのは、自律運用です。設定やサポートを、できるだけ人手を介さずにAIで対応できるように進化させていく構想です。先ほどご紹介したJouleを使うことでカバーできると考えています。
さらに、AIが予測・改善提案を行う世界も見据えています。AIがユーザーに示唆を与える考え方です。コスト削減するためにはどのような手を打つべきか、購買戦略はどうしたらいいか、サステナビリティはどのような状況でどういった改善が必要かなど、AIが改善提案をしてくれるようにしていきたいと考えています。
AI不正検知「Verify」ご紹介
Verifyはアメリカで3年前に発売されていて、すでに2000社が利用している実績あるサービスです。申請者の方が経費申請をすると、Verifyが申請に問題や異常がないかチェックをします。チェック項目は30種類以上の選択肢があり、その中から選べます。
導入企業事例:Chobani様
たとえば、申請金額と領収書の突合、重複した領収書の検知、ホテルオプション使用有無の確認、会食費用と市場平均価格との比較、私的利用の有無、映画館など業務にそぐわない不適切な店舗でのカード使用有無、グリーン車利用、偽の領収書を作るWebサイトで作られたものではないか、などをチェックできます。
SAP ConcurのAI活用例のご紹介
出張経費精算に関するSAP ConcurのAI活用例を、プロセスごとにご紹介します。
まず出張手配では、Jouleが最適なフライトを提案してくれ、コンカートラベルで予約する流れを想定して開発に取り組んでいます。
出張の事前申請や経費精算における旅費見積もりのプロセスは、領収書明細の読み取りなど、すでにリリースされている機能があります。また出張先などを指定すると、市場価格を調べて出張にかかる旅費をAIが提案してくれる機能もあります。今後は会社の規定に合わせたり、コンカートラベルの価格を取ってきたりするなどの進化を予定しています。
管理者サポートもAIで強化しています。まだ日本語対応していませんが、現在取り組んでいるのでご期待ください。管理者のサポートポータルで問いかけをすると、これまでは記事しか出てこなかったのが、リアルタイムで回答を作れるようにもなりました。
【パネルディスカッション】AI時代の経理業務:AI活用の実態と不正監査
「AI時代の経理業務:AI活用の実態と不正監査」と題して、デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 富田氏と株式会社コンカー舟本による対談形式でディスカッションを行いました。
経理や監査におけるAIの活用状況についてどのようにお考えですか?
(富田氏)監査業務の1つのプロセスとしてAIを活用出来ないかと検討を始めたり、経理業務においても、本日ご紹介した内容など、さらなる活用の余地があると考えています。各種のファイナンス情報がデータ化されてきたことが大きいと考えており、基盤が整ってきたため、AIを活用しやすくなってきていると思います。
具体的に、どのような業務でAIが活用されていて効果がありますか?
(富田氏)先ほどご紹介した内容を補足すると、マッチング関連の業務と、データが多く蓄積して残る業務、大量データが定量的な形で存在し、答えが明確に出る業務で効果が出やすいと考えています。
経理や監査の方々のAIに対する意識はどのようなものか教えてください。
(富田氏)私のクライアントにおいてもAI活用について自身の仕事を取られるのではないかという見方をする方もいらっしゃいました。。しかしやればやるほど、「どう使いこなすか」、「ツールや武器、パートナーとしてどう活用するか」といった位置づけにシフトしていきました。「自分の仕事を脅かす存在にならないだろう」、「どこかで線が引かれるだろう」という感覚になっていきます。とはいえ経理の方の中には、自分の仕事が取られるのでは、と頑なな姿勢になってしまい検討が進まないところがあるのも現状だと思います。
AIを利用する上での課題はどのようなものか教えてください。
(富田氏)課題は2つあり、1つは工程がブラックボックス化されがちなことです。「なぜこの結果を出しているのか」を論理的に説明しにくくなってしまいます。経営層に数字を説明する時、AIが出した結果を紐解いて説明することに課題があると思います。AIが出した結果に対して説明責任を果たす枠組みが必要になると考えています。もう1つ、予測数値は過年度のデータと同じ環境下では高い精度が期待できますが、パンデミックのように予想し得ない環境に晒されると読みが利かなくなる課題もあります。
AIを使った不正検知についてですが、実際には活用されているところはありますか?
(富田氏)何件か不正関係のプロジェクトに関わらせていただいています。Verifyのような不正検知ツールを入れて、横領や使い込みへの牽制になるソリューションを入れていこうとしています。実際に起きている不正のケースや、その要因になっている事象をシステムデータから呼び出し、リスク偏差値として出して、内部監査・業務監査にレポートを上げる形です。不正になる予兆を検知してアラートを上げるソリューションが今後も増えていくのではないかと考えております。
(舟本)不正は非常に限られた人がやるもので、1%に満たないと思います。それ以外の善良な人の申請を手間暇かけてチェックするのは良くないので、AI技術で効率化していく取り組みは相性がよいと考えています。
AIの不正検知を普及させていく上ではどのような課題がありますか?
(富田氏)業務プロセスとシステムに、不正検知のサービスをうまく載せられるかにかかっていると思います。汎用的なAIが、ポンポンとおかしそうな経費をアラートで上げてしまうと、業務を妨害するノイズにしかなりません。会社の規定や業界・会社の商習慣、ルールを正しくAIが理解し、経理・監査部門がチェックしている業務プロセスに入り込み、システムデータにリーチして結果を出せる。この一連の取り組みがないと、AIがどれだけ利口でも、活用させられないまま終わってしまうと思います。
最後に AIによって仕事がなくなっていくというような話も出ていますが、このような時代に経理の方々は、どのような意識をもって過ごすべきと思いますか?
(富田氏)AIを自分のサポート役や部下のように使いこなしていくのが、望ましい姿だと思います。今私は、日本の郊外に会計センターを作るプロジェクトにも携わらせていただいています。現場では、コスト削減のために業務センターを作ろうとしているのではなく、人材不足が理由として取り組んでいます。人を雇用出来るところで集約してやっていかなければならなくなっているのです。それくらい経理側は人材不足になっており、担い手が少なくなっていく中で、AIに領域を任せてサポートや部下のように使っていく流れになりつつあります。AIを管理していくまたは教え込ませるためのスキルを持とう!、という意識をもっていただくのがよいと思います。
さいごに
最後にコンカーの柳よりご参加いただいた皆様、ご登壇いただいた富田様にお礼を申し上げ、閉会の挨拶とさせていただきました。イベントの終了後は簡単な懇親会の場を設け、代表取締役社長 橋本も同席してご参加者様同士の活発な情報交換が行われました。
コンカーでは今後もこのようなイベントを多数開催していく予定です。ご関心お持ちのお客様はぜひお問い合わせください!ご参加いただいた皆様、ご登壇いただいた富田様、この度はありがとうございました。
