経理・総務の豆知識
請求書の保管期間は何年?法人・個人事業主の違いや電子保存のルールを解説
請求書は、税務調査や会計処理の証拠資料として重要な書類であり、法人・個人を問わず、法律に基づいて一定期間の保管義務があります。
本記事では、請求書の保管期間について、法人税法・所得税法・消費税法などの根拠法令をもとに、法人・個人事業主それぞれの保存期間、起算日、インボイス制度への対応、電子保存の導入ポイントなど、実務に役立つ視点から詳しく解説します。
請求書の保管期間は何年?
請求書は、税務調査や会計処理の根拠資料として重要な役割を果たすため、一定期間の保管が法律で義務付けられています。保管期間は、法人か個人事業主かによって異なります。
法人の場合は原則7年間
法人が発行・受領する請求書は、法人税法や消費税法により、原則として7年間の保管が義務付けられています。これは、法人税の申告に関連する帳簿書類の保存期間として定められているためです。
ただし、赤字(欠損金)が発生し、それを翌年度以降に繰り越して控除する場合には、請求書などの証憑書類を最長で10年間保存する必要があります。これは、繰越控除を適用するために、欠損金の金額や発生年度を裏付ける書類の保管が求められているためです。
したがって、法人における請求書の保存期間は、原則7年、欠損金の繰越控除を行う場合には最長で10年となります。
個人事業主の場合は原則5年間
個人事業主の場合、請求書の保管期間は、所得税法および消費税法に基づき、原則5年間とされています。これは、確定申告に関する帳簿書類や証憑類の保存義務として定められた期間です。
ただし、個人事業主であっても消費税の課税事業者に該当する場合は、消費税法により7年間の保存が求められるケースもあります。一般的には、所得税に関わる保存義務が5年であるため、最低限5年の保管が必要であると認識しておくとよいでしょう。
請求書の控えの保存期間は?
請求書の控えについては、インボイス制度の導入に伴い、発行事業者に対して作成および保存が義務付けられるようになりました。保存期間については、控えであっても請求書原本と同様に、税務上の帳簿書類として扱われるため、次のとおり定められています。
法人の場合:原則7年間(欠損金の繰越控除を行う場合は最長10年間)
個人事業主の場合:原則5年間(消費税課税事業者に該当する場合は7年間)
請求書の原本と控えは、どちらも取引の証拠資料として税務調査などで求められることがあるため、保存期間に差はありません。
保管期間の起算日に注意!
請求書の保管期間を考える際に見落とされやすいのが、「いつから年数を数えるか」という起算日の取り扱いです。書類に記載された発行日を基準とするわけではないため、注意が必要です。
請求書を含む帳簿書類の保存期間は、その書類が属する事業年度の終了日の翌日から起算します。たとえば請求書の発行日が2023年5月1日であり、それが2023年4月1日〜2024年3月31日までの事業年度に該当する場合、保存期間の起算日は2024年4月1日となります。
法人の場合、保存期間は原則7年間のため2031年3月31日まで、個人事業主であれば原則5年間のため、2029年3月31日までの保存が必要となります。
書類に記載された日付を基準に計算すると、誤って早く廃棄してしまうおそれがあります。必ず「事業年度末の翌日から年数を数える」という原則に基づいて管理しましょう。
請求書の保管に関わる主な法律
請求書の保管期間は、複数の法律によって定められています。ここでは、特に関係の深い3つの法律を取り上げ、それぞれの内容や対象者、請求書との関係について解説します。
法人税法・所得税法
法人の場合は「法人税法」、個人事業主の場合は「所得税法」に基づいて、帳簿や証憑類の保存が義務付けられています。請求書は、これらの法律において保存が義務付けられている証憑類のひとつとなります。
請求書は取引内容を証明する資料として税務調査などで確認される可能性があるため、法定保存期間を遵守する必要があります。
消費税法
消費税法では、課税売上や課税仕入に関する帳簿および証憑の保存が求められます。特に、インボイス制度(適格請求書等保存方式)の導入により、請求書が「適格請求書」に該当する場合には、より厳格な保存義務が求められるようになりました。
仕入税額控除を受けるには適格請求書の保存が必須となるため、事業者にはその発行・保存体制の整備が求められます。
電子帳簿保存法
電子帳簿保存法は、帳簿や書類を電子データで保存する場合の要件や手続きを定めた法律です。紙の帳簿類と同様に、請求書なども一定の要件を満たすことで電子保存が可能となります。
電子帳簿保存法においては、以下の3つの保存区分が定められています(詳しい内容は別の章で解説します)
- 電子帳簿等保存(会計ソフトなどで作成された帳簿類を電子のまま保存)
- スキャナ保存(紙で受領・作成した証憑類をスキャンして保存)
- 電子取引データ保存(電子メールやWebで受け取った請求書などのデータを保存)
これらの区分ごとに保存条件が異なるため、自社の運用に合った方法を選び、法的要件に沿った対応が必要です。
インボイス制度の導入より「適格請求書」への対応が必要に
2023年10月のインボイス制度(適格請求書等保存方式)の施行により、消費税の仕入税額控除の適用に「適格請求書(インボイス)」の保存が義務付けられるようになりました。
適格請求書には、登録番号、取引年月日、取引内容、税率ごとの消費税額などの記載が必須とされており、従来の請求書よりも厳密な形式が定められています。保存期間は通常の請求書と同様に、法人は原則7年間、個人事業主は原則5年間(ただし課税事業者は7年間)です。
適格請求書を発行できるのは「適格請求書発行事業者」として税務署に登録された事業者に限られます。またインボイスの発行者(=売り手)に対しても、その写しを保存する義務が明文化されています。
制度対応のためには、適格請求書発行事業者としての登録申請および請求書の形式遵守が求められます。また受領者(買い手)だけでなく、発行者側でも請求書の保存が求められるようになった点が大きな違いです。
電子帳簿保存法における請求書の保管方法
電子帳簿保存法では、帳簿や書類を電子データで保存する際の方法が3つの区分に整理されています。ここでは、請求書の保管に関係するそれぞれの保存方法の特徴を確認します。
詳細な制度内容については、国税庁の電子帳簿等保存制度特設ページもご参照ください。
電子帳簿保存
会計ソフトなどで電子的に作成した帳簿・書類をそのまま保存する方法です。請求書をPDF形式で発行した場合などが該当します。タイムスタンプの付与や事務処理規程の整備など、改ざん防止の措置が必要とされます。
スキャナ保存
紙の請求書をスキャンして(画像データに変換して)保存する方法です。読み取り後の原本破棄が可能になる一方で、解像度や保存期限、真実性の確保といった技術要件・運用ルールが細かく定められています。
詳しい要件は国税庁の「適用要件」に解説されています。
電子取引データ保存
電子的に受け取った請求書などのデータを、そのまま保存する方法です。メール添付やWeb発行されたPDFファイルなどが該当します。検索性や改ざん防止措置の確保が必要とされます。
電子化した後の紙の領収書や請求書などの書類の保管期間は?
紙の領収書や請求書を電子化した後は、最低年1回以上、定期検査を行い、紙の原本を破棄することが求められています。すなわち、電子化した後の紙の書類の保存期間は1年以内となります。
領収書・請求書の電子化を進める最大の目的の1つは、紙の原本の保管及び関連コストの削減です。これらのコストの削減は、領収書・請求書の電子化及び、定期検査の後に紙の原本を廃棄することで実現可能となります。定期検査は、法的要件では最低年1回実施する必要があるため、年に1回は廃棄することができます。したがって、電子化した後の紙の領収書や請求書などの書類の保存期間は、1年以内となります。
一方、「電子化後のデータ」の書類の保存期間については、どうなるでしょうか。データでの書類の保存期間は、「電子化しない場合の紙」の書類の保存期間と同様になります。
「電子化しない場合の紙」の書類の保存期間については、通常は7年間(欠損金の繰越控除を受ける場合は最長10年間)となっています。したがって、電子化する場合の電子化後のデータの書類の保存期間についても、通常は7年間(欠損金の繰越控除を受ける場合は最長10年間)となります。
定期検査については、電子帳簿保存法はこう活用する!領収書電子化ガイド 第5回「紙の領収書を廃棄するための定期検査はどうすればいい?」をご確認ください。
電子帳簿保存法について詳しく知りたい方はこちらをご覧ください。
書類の保管期間に関する詳細は、「電子化スマートガイド〜電子帳簿保存法・インボイス制度対応〜」をご覧ください。
請求書の電子保存を導入する際のポイント
請求書の発行や保存を電子化するには、社内外の調整や制度への対応が必要になります。以下のポイントを押さえることで、電子保存への移行をスムーズに進め、業務効率化につなげることができます。
保存方法のルールを設計する
電子データの保存ルール設計は極めて重要です。保存ルールが曖昧なままだと、電子帳簿保存法の要件を満たさないデータが発生したり、必要なファイルをすぐに見つけられないといった問題が起こるおそれがあります。
あらかじめ社内で保存ルールを設計し、関係者全員に周知しておくことが重要です。特に、次の3パターンについては取り扱いを明確にしておく必要があります。
- 紙で受け取った場合の原本保管方法やスキャンの有無
- 紙の請求書をスキャナ保存する場合の要件と手順
- 電子データで受け取った場合のファイル名や保存先のルール
文書名の付け方、保存フォルダの構成、検索性の確保など、必要な運用ルールを定めておきましょう。
取引先に通知して事前に合意を得る
請求書の電子化は、自社だけで完結する取り組みではありません。特に受発注のやり取りが継続的に発生する取引先に対しては、運用の変更内容をあらかじめ伝え、事前に合意を得ておくことが望まれます。
電子化の進め方は企業ごとに異なり、相手先の理解度や社内体制もさまざまです。これまで紙で発行していた請求書をPDFに変更する、インボイスを導入するなど、タイミングと方法を検討したうえで通知しましょう。
段階的に進める
電子化への移行は、一度にすべてを変えるのではなく、段階的に進めるのが現実的です。たとえば、まずは自社で発行する請求書のみを電子化し、次に紙で受け取った書類のスキャナ保存を検討する、といった進め方が考えられます。
どの業務から手をつけるか、いつから電子保存に切り替えるかといった計画を立て、関係者の習熟度や社内の対応状況に応じて徐々に範囲を広げることで、スムーズに移行を進めることができます。
法律に対応したツールを導入する
電子帳簿保存法やインボイス制度に対応したツールを導入することで、法的要件に即した請求書の発行・保存が可能になります。
多くの法対応ツールには、タイムスタンプの自動付与、訂正・削除履歴の記録、スキャナ保存要件に沿った入力チェック、取引先や金額による検索機能といった、実務を支援する機能が備わっています。
これらの機能を活用すれば保存作業の正確性が向上し、担当者の負担を抑えながら法令順守が図れます。
ツール選定の際は、自社の業務フローや保存ルールに適合するかどうか、導入・運用コストとのバランスを比較・検討することが重要です。
経費精算業務を効率化する Concur Expense
請求書管理を効率化する Concur Invoice
法律に適った保管・運用ルールを整備しよう
請求書の保管には、法人税法・所得税法・消費税法・電子帳簿保存法など、複数の法律が関係しており、それぞれに保存期間や保存方法の要件が定められています。さらにインボイス制度の導入により、請求書の発行・保存において、より厳格な対応が求められるようになりました。
業務を効率化しながら、法令にも適切に対応するには、自社の業務フローや社内体制に即した運用ルールを整備することが欠かせません。紙と電子の双方を取り扱う場面では、スキャナ保存や電子取引の要件を正しく理解し、適切な保管体制を構築することが重要です。
請求書の電子保存に関する実践的なノウハウや、定期検査による紙原本の廃棄手順などについては、以下のガイドで詳しく解説しています。貴社の実務に合わせて、ぜひご活用ください。
電子化スマートガイド〜電子帳簿保存法・インボイス制度対応〜
