出張・経費管理トレンド

出張管理の新時代:イノベーションと成長の鍵とは?〜BTM HUB Japan 8月定例会レポート〜

SAP Concur Japan |

はじめに 

BTM HUB Japan( https://btm-hub-japan.com/ )は「出張管理の高度化」をテーマに、ナレッジの共有や議論をおこなえる場として2021年に発足したオープンコミュニティです。 
メンバーは「企業」で出張管理に携わる方が中心となって構成されていますが、その出張を支える航空会社、ホテル業者、旅行会社などの「サプライヤー」にも参加していただいています。 毎月の定例会には、ユーザーとサプライヤーという立場の違いを超えて様々な企業が集まり、出張管理のあるべき姿について闊達な意見交換を行っています。 

8月29日に開催されたBTM HUB Japan定例会では、参加企業11社、サプライヤー12社からなる計35名が一堂に会し、A・B・Cの3つのチームに分かれて、チームごとに設定したテーマで議論を行いました。 

普段はWeb会議での開催が主流ですが、今回は大手町のビジネスラウンジを貸し切っての対面企画です。2時間に及ぶ熱のこもった議論の後は、各々、名刺交換をして親交を深め合っていました。 
これを機に各社間での継続した交流が行われ、非競争領域である出張管理分野でのナレッジ交換が加速することを願っています。 

※なお、本文中の各社参加者のコメントは、各社を代表するコメントではなく、担当者個人の見解となります。 

Aチームテーマ:「コストセービングメソッド」 

Aチームでは「コストセービングメソッド」をテーマに、IBMの調達部門で長年出張マネジメントに携わってきた田中氏がファシリテーターを務めました。議論は大きく3つにわかれました。 

Aチームの様子

1.国際線割引契約とグローバル統一化の是非 

食品製造の企業から「日本独自契約からグローバル契約へ切り替えるメリット・デメリットは?」という問いかけがありました。航空会社からは「必ずしも有利になるとは限らず、日本発のシェアやアライアンス調整次第では独自契約のほうが有利な場合もある」との指摘。一方で田中氏は、契約プロセスには標準的なテンプレートがあり、数字の把握と実績管理を通じて再現性のある交渉が可能になると解説しました。特に「3年契約の中で実績を可視化できなければ、次に続かない」という言葉は、参加者に強い印象を残しました。 

2.推奨プランと最安値のせめぎ合い 

電気機器製造の企業からは、「従業員から、推奨ルートより安い運賃を見つけたと主張された場合どうするか」という現場ならではの課題が提示されました。田中氏は「まずは運賃種別が正しく比較されているか確認することが前提」としつつ、近年ではOBT(オンラインブッキングツール)の進化により、最安値+一定の幅を許容する柔軟なルール設計が可能になっていると説明しました。ただし、「企業契約が常に最安値であることを従業員に保証するのは不可能。全体最適化の観点から、推奨ルートの遵守を原則とすべき」と強調しました。 

3.日本における「トラベルマネージャー」の不在 

最後に、総合メーカー企業からは「専任のトラベルマネージャーを置いている企業はあるか」と問いかけがありました。参加各社からは「購買や総務が兼務しているケースがほとんどで、専任者は存在しない」という回答が大勢を占めました。旅行会社からも「日本企業においての専任トラベルマネージャーは聞いたことがない」との声があり、制度的な成熟度の低さが浮き彫りになりました。田中氏は「IBMではHRや購買が役割分担しながら実質的にTravel Management機能を担っている」と紹介し、日本企業においても組織横断で役割を定義していく必要性を示しました。 

 

Aチームの議論を通じて浮き彫りになったのは、日本企業のBTMにおける「構造的な遅れ」です。欧米では出張コストは企業の戦略的支出領域とされ、専任のトラベルマネージャーが調達・安全管理・ESGまでを統括しています。対して日本では、個別対応や慣習に依存するケースが多く、結果としてグローバル交渉力を発揮できない状況がみられます。 

コストセービングは単なる価格交渉の技術ではなく、企業としてどのように「全体最適の仕組み」を作るかにかかっています。割引率だけを追い求めるのではなく、データを基盤に実績を可視化し、柔軟かつ戦略的にポリシーを運用できるかどうか、この点が日本企業に突き付けられた課題だといえるでしょう。 

【関連ホワイトペーパー】コスト削減策: 旅費 / 経費のベンチマーク 

Bチームテーマ:出張管理初心者企業はまず何から手を付けるべきか 

Bチームの議論は、横河電機の澤田氏をファシリテーターに迎え、出張管理の「第一歩」に焦点を当てて進められました。参加者の多くは「そもそも出張管理を体系化できていない」「現場任せで不透明」という課題を共有しており、どこから取り組むべきかを模索しました。 

Bチームの様子

1.データの可視化がスタート地点 

多くの企業で共通していたのは「出張に関するデータが分散している」という実態でした。航空券は旅行会社、ホテルは現場手配、カード決済は経理、といった断片的な管理のため、全体像を把握できないのが現状です。澤田氏は「まずはどの程度の出張があり、どのルートが多いのか、費用の規模間を数字でつかむことが出発点」と指摘しました。Excelでも構わないので、最低限の集計から始めるべきという現実的なアドバイスもありました。 

2.社内の「旗振り役」の必要性 

議論の中で浮き彫りになったのは、日本企業における出張管理の「だれが責任を持つのか」という問題です。購買部、人事総務部、経理部がそれぞれ関わりつつも、明確なリーダーが不在のケースが大半です。澤田氏は「トップダウンがあることが望ましいが、それがない場合はどうするかを考えたい。出張管理の導入は部門横断のテーマになる。まずは小さくてもよいので、社内で旗を振る人を決め、定期的に関係者を集めることが重要」と強調しました。 

3.ガイドラインはシンプルに 

初心者企業にとって、詳細な出張規定や複雑なルール作りは現実的ではありません。むしろ、「利用する旅行会社を統一する」「出張後の精算方法を一本化する」など、シンプルなルールを明確化することか始めるべきとの意見が多数を占めました。そのうえで、実績を蓄積しながら段階的に規定を拡充するのが現実的なアプローチです。 

 

日本企業にとって、BTM導入は「突然の大改革」ではなく「小さな見える化かとルール化の積み重ね」が成功の鍵です。欧米の成熟したトラベルマネジメントをいきなり模倣するのではなく、自社の規模や文化に合わせた最初の一歩を踏み出すことが重要です。特にデータの収集と旗振り役の明確化は、どの企業にも共通する出発点といえるでしょう。 

【関連ホワイトペーパー】効果的な出張管理のガイドライン 

Cチームテーマ:企業が求めることと、サプライヤーが提供するサービスの乖離 

Cチームの議論は、中外製薬の福岡氏をファシリテーターに迎え、企業とサプライヤーの間に横たわる「ズレ」をテーマに行われました。企業側は調達効率や安全管理、サステナビリティを重視する一方、サプライヤーは販売促進や付加価値サービスの提供を優先しがちです。この「ギャップ」が出張管理の効率化を阻む大きな要因であることが浮き彫りになりました。 

Cチームの様子

1.価格以外の価値をどう評価するか

企業は「割引率や単価の安さ」に注目しがちですが、サプライヤーは「付帯サービス」「データ提供」「ESG対応」などを価値として提案します。しかし多くの参加企業から「評価基準が価格偏重になりがちで、サービス価値をうまく評価できていない」

という声があがりました。福岡氏は「調達のKPIを『価格削減率』だけで設計すると、サプライヤーの工夫を引き出せない」と指摘し   ました。

2.双方向のコミュニケーション不足

サプライヤー側からは「企業は契約時だけ条件を求め、利用状況や改善要望を共有しない」との意見も出ました。結果として、提供されるサービスが企業の実態に合わないまま固定化されるケースが多いとのこと。福岡氏は、「契約後も定期的にモニタリングの場を設けることが、持続的なコストセービングと品質向上につながる」とまとめました。

3.サステナビリティ対応の遅れ

議論の中で注目されたのは「ESGやサステナビリティ対応」に関する乖離です。サプライヤー側は二酸化炭素排出量データやカーボンオフセットプランの提供を進めていますが、企業側では「まだそこまで必要性を感じていない」との声もありました。海外では規制や開示義務化の流れが進んでいる一方で、日本企業の意識は依然として価格優先。ここに将来的なリスクが潜んでいることが示唆されました。

 

企業とサプライヤーの乖離は単なる認識の差ではなく、日本企業の調達文化の特徴でもあります。短期的なコスト削減を優先するあまり、中長期的な付加価値やリスク対応を軽視してしまう傾向が強いのです。欧米では、価格・サービス・サステナビリティを統合的に評価する調達モデルが主流となっており、日本企業もその方向に舵を切らなければ、グローバル企業群における競争力を失う恐れがあります。

【関連ホワイトペーパー」【出張管理者インサイトシリーズ】出張のサステナビリティに関する問題の解決

日本企業の出張管理における現状と未来像

「コストセービング」「初心者企業の第一歩」「企業とサプライヤーの乖離」という3つの議論から、日本企業ならではのBTMの課題と可能性が見えてきました。

1.コスト管理は「価格競争」から「全体の仕組みづくり」へ

 Aチームでは、国際線契約や最安値ポリシーをめぐる議論から、単なる価格交渉には限界があることが明らかになりました。重要なのは、実績を正しく把握し、それを基盤に契約やルールを設計することです。これは「一回きりの交渉術」ではなく、継続的にコスト構造を見直す日本企業らしい「改善型アプローチ」といえるでしょう。

2.小さく始めて、着実に積み上げる

 Bチームの議論では、出張管理初心者企業の多くが「データが見えない」「旗振り役がいない」といった悩みを抱えていることが浮き彫りになりました。ここで確認されたのは、「最初から完璧な制度は不要」ということです。まずは出張データを集め、社内で小さなルールを定める。そこから徐々に理解と納得を積み上げていく「社員起点の改善力」を生かしたアプローチが有効そうだと意見がまとまりました。

3.サプライヤーとの関係を「価格契約」から「協働」へ

 Cチームでは、企業が価格を重視する一方で、サプライヤーは付加価値やESG対応を提案しているという「認識のずれ」が明らかになりました。ここで鍵となるのは、契約の瞬間だけでなく、その後も対話を続ける関係性づくりです。ニーズを正しく共有し合うことで、真に有効なマネジメントを共創できるのだと思います。

欧米型のBTMは専任のトラベルマネージャーや明確な役割分担に基づいていますが、日本企業ではそうはいきません。代わりに、「部門横断の柔軟さ」や「」現場改善の積み重ね」「長期的パートナーシップ」は本来得意なはずです。データを基盤にしながら現場の声を聴き、これらの要素をBTMに取り込むことで、日本独自のマネジメントスタイルを確立できるのではないでしょうか。日本型BTMが実現すれば、国内はもちろん、アジアや世界に向けても新しい標準を提示できるかもしれません。

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