社員の海外出張時の安全をどう確保するか 前編「聞こえてくる危機管理担当者の嘆き」

海外に生産拠点を構えたり、海外市場でビジネスを展開したりするグローバル企業が増える中、多くの企業は海外出張・業務渡航における「安全配慮義務」の課題に向き合うことが避けられなくなりました。特に危機管理部門の担当者は、いつどこで発生するか予想できない従業員のリスクとその対応について頭を悩ませています。本稿では、企業の危機管理の実情と実践のポイントを紹介したいと思います。

海外出張も例外ではない安全配慮義務

企業には、従業員が安全に業務を遂行するための「安全配慮義務」が存在します。これは企業と従業員の労働契約に関する基本的事項を定めた「労働契約法」にも明記されており、同法第5条には
「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」
という条文があります。

これは、海外出張や業務渡航も例外ではありません。かつてはどの企業も国内勤務が圧倒的多数でしたが、現在は拠点を海外に置いてグローバルにビジネスを展開する企業が増え、海外出張・業務渡航は当たり前になりつつあります。そうした中、日本国外で発生するさまざまな緊急事態に対する安全配慮義務は、より一層重要性を持つようになっています。

もし、安全配慮義務を怠ったことで社員の身に何か起こってしまったらどうなるでしょうか。それは会社の業務へ影響を与えるどころか、会社の信頼低下や訴訟問題にも発展する可能性さえあります。


自然災害・交通事故だけでない、海外ならではのリスク

言うまでもなく、海外渡航は国内以上に多くのリスクを伴います。大地震や豪雨による水害・土砂災害の発生、航空機・鉄道・自動車など交通機関の事故といったリスクは国内でも想定できますが、海外ではさらに政治的・宗教的な理由によるテロや暴動、銃や爆弾による無差別犯罪、感染症・伝染病の流行(パンデミック)など、日本では想定できないようなリスクもあります。特に近年は、南アジアや中東、アフリカなどの政治的に不安定な国や地域だけでなく、欧州や北米などの先進諸国でも大惨事を伴う事件・事故が頻発するなど予断を許さない状況です。

緊急事態は何も大惨事を伴う事件・事故に限ったことではありません。ストライキの発生など航空会社の都合による航空便の欠航、渡航中の病気や怪我といったトラブルも含まれます。

2017年7月、世界最大のビジネス旅行・会議業界団体 Global Business Travel Association(GBTA)の調査部門であるGBTA財団とコンカーが企業を対象に共同で実施した調査「リスクから出張者を守るために~ 知っておくべきリスク管理の課題と対処法」によると、

  • 出張者の87%が過去12カ月間に飛行機で何らかのトラブルに見舞われ
  • 24%避難または予定よりも早い帰国が必要になり
  • 24%が出張中に病気や怪我を経験した

と回答しています。


不十分な安全配慮の実態が明らかに

海外出張・業務渡航をする際には、企業は起こり得る緊急事態に対して相応の安全確保に万全を期す必要があります。しかし実際には、すべての企業が十分に危機管理をできているとはいえないのが実情です。

先に紹介した調査では、海外出張・業務渡航中に安全が脅かされるような緊急事態が発生し、支援が必要になった場合、最初に連絡をとる相手は誰なのかを尋ねています。すると、回答者の58%が「上長に電話をする」という結果が出ました。会社の危機管理部門や危機管理担当者、会社が契約する危機管理会社やビジネストラベルマネジメント(BTM:Business Travel Management)事業を展開する旅行管理会社(TMC:Travel Management Company)に連絡することを決めている企業もあるものの、過半数は上長に助けを求めているわけです。

当然のことながら出張者の上長の多くは危機管理担当者ではないので、どんな支援を行えばよいのかわかりません。そのために適切な指示が出せず、リスクを高める結果も招きかねません。緊急事態を見越して発生時に何をすべきなのか先手を打っておくべきで、事が起きてから対応するのでは遅すぎます。

また、緊急事態の際に危機管理会社やTMC、あるいは保険会社が提供する何らかの支援サービスを提供しているという企業は多いものの、回答者の31%は会社から旅行保険や支援サービスの提供はないと答えています。このように緊急事態の際に、最初に上長に連絡するという企業、あるいは出張者に支援サービスを提供していても、それが活用できていない企業は、安全配慮義務を確実に果たしているとはいえません。

※「リスクから出張者を守るために~ 知っておくべきリスク管理の課題と対処法」GBTA財団 2017年7月より
 

危機管理担当者からも不安の声が挙がる

海外出張・業務渡航における安全配慮義務を果たせていない企業は、危機管理担当者も困惑させています。調査では、「出張者に何らかの緊急事態が発生した際の安否確認にどれだけ時間がかかるかわからない」と回答した危機管理担当者は29%に上るという結果も出ています。

実際に危機管理担当者に話を聞くと、さまざまな“嘆き”が聞こえてきます。海外出張者が緊急事態に見舞われた経験のある企業の危機管理担当者からは、
「出張者がどこにいるのか、どうすれば連絡がとれるのか、正確な最新情報を入手するすべがないために、どのように対応したらよいかわからなかった」
「社内規程に基づいて対応したものの、本当にこれでよいのか、どこまで対応すべきか、ほかに打ち手はないのかという気掛かりがあった」

といった声も挙がっています。

また、
「緊急事態の発生に対して、24時間365日自分が担当しなければならないのかという不安がよぎった」
「対応を誤れば、会社が訴えられたり信頼が失墜したりするのではないかと心配になった」​

と話す危機管理担当者もいました。

日本企業の危機管理部門は、社内の労働安全衛生や国内の災害対策に注力していますが、こうした危機管理担当者の声からも明らかなように、海外出張・業務渡航に関する安全配慮義務には目が行き届いていないのが実情なのです。

出張者を守り、ひいては企業自身を守る業務渡航の危機管理。これはどのようなアプローチで進めればよいのでしょうか。後編では緊急事態の発生時における従業員の出張管理・危機管理のあるべき仕組みを改めて考えていきたいと思います。

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