ダイバーシティは大事じゃない!? 必要なのはインクルージョンだった

Saori Ideyama |
今回お話を伺った方
左:ライフネット生命保険株式会社 人事総務部長 岩田佑介氏 
右:ライフネット生命保険株式会社 人事担当マネージャー 関根和子氏
 
多様性はしばしば「ダイバーシティ」という言葉に置き換えられ、日本でもダイバーシティという言葉をよく耳にするようになりました。ダイバーシティとは、多様な人材を積極的に活用しようという考え方のこと。 もとは、社会的マイノリティの就業機会拡大を意図して使われることが多かった言葉です。しかし、ダイバーシティの必要性は理解したとしても、自分の会社がどのように多様性のある組織を体現していくのか、具体的なイメージを持てない(=いまいちピンとこない)方も多いのではないでしょうか。

今回Back Office Heroes編集部では、経済産業省が発表した「新・ダイバーシティ経営企業100選(平成29年度)」にて表彰されたライフネット生命保険株式会社の人事総務部にインタビューし、多様性のある組織へのヒントをうかがいました。
 
 

人はそれぞれ違うのだから、ダイバーシティは自然に存在


――ライフネット生命様で実践されているダイバーシティとはどのようなものか教えてください

岩田:当社は創業時に、親子ほど年の離れたキャリアが全く違う創業者2人の異色コンビが出会ったことが原点であり、会社のDNAそのものがダイバーシティであると思っています。特徴としては、ただ単に属性によるダイバーシティを推進するのではなく、オピニオンダイバーシティ*を大事にしています。
 
 *オピニオンダイバーシティ:一般的に「意見の多様性」を指し、組織の一人ひとりの個性的で多様な見方・意見を表明することで、相乗効果を生み出し、意思決定に活かしていこうとする考え方のこと

岩田:またダイバーシティは創り出すものではなく、もともと違う人が集まれば自然に存在しているはずという考え方から、一人ひとりが個性的で多様な見方、意見を発露できる心理的安全性を作ることが重要だと考えています。

――多様な人材が集まるように、採用の段階から多様性を意識されているのですか?

岩田:当社の採用方針 に「インクルージョンリクルートメント」というものを掲げております。一般的な採用では〝こういう人材が欲しい″という企業側のメッセージを記載することが多いですが、当社ではインクルージョンリクルートメントとしてありのままの個性に向き合う採用を行うということを前面に明記しているのが特徴です。
実際に働く社員の年齢も幅広く、現在社員約150名のうち、60歳以上の者も10名以上います。


100年後も続くお客様サービスのために


――多様な個性を持つ社員が、同じ組織・目標に向かうためにマネジメントにコツはありますか?

関根:こちらが当社のマニフェスト(行動指針)です。ダイバーシティを実践することで生命保険の価値をお客さまに届けるために必要であると確信しており、創業当時からここに明記しています。
 
*(5)の赤枠部分がダイバーシティに関するマニュフェスト
関根:例えばこれまで対面営業が当たり前だった生命保険サービスも、保険に関する問い合わせをLINEからできるようにしたり、スマートフォンから申込み手続きを可能とするサービスを展開するなど、時代や世代に合わせてサービスの形を変化させてきました。これらは多様な価値観を持った社員がいるからこそ生まれてきたサービスであると考えています。


制度設計はアジャイル方式

――働き方の制度や施策で工夫されていることはありますか?
 
岩田:当社は制度自体もユニークなものが多くありますが、制度が作られる過程が非常にユニークです。労務担当の関根を中心に、人事が社員と個別に面談を行います。もし社員が何かに困っていて、今後ほかの社員でも起こりうるから会社として制度が必要という判断になれば、トライアル導入を行った上でスピーディに制度を作るという考えを持っておりまして、いわゆるアジャイル方式*で制度設計します。
 
*アジャイル方式:小さい単位で実装とテストを繰り返して開発を進める方式を指す。前工程が完了しないと次工程に進まないウォーターフォール方式に比べて開発期間が短縮されるため、アジャイル(素早い)と呼ばれています。
 
関根:働きがいのある会社であるための制度は、人事が作るのではなく、社員が人事と一緒に考えるというスタンスで社内公募から集まった意見から検討を始めることが多いです。
検討や実施した結果〝もし良くなければ制度は取りやめることもある″というスタンスを持ちながら、とりあえず始めてみます。この方式で在宅勤務制度は約3ヵ月で制度化しました。


休暇制度は毎年見直し


関根:当社の休暇制度は毎年見直すことを社内規則に記載しています。これは休暇のニーズは社員や時代と共に変わるからです。

例えば、以前「7DAYS休暇」という制度を設けていましたが、これを廃止しました。これは 年次有給休暇等暇の取得日数が7日以下の人に休んでもらうことを目的とした休暇で、社員に対しライフとワークのバランスがとれた心身ともに充実した状態で、能力を十分に発揮できる組織づくりをしたいというメッセージを伝えたくて制度化しました。
この制度によって計画的に休暇を取得する風土がより一層強く定着したため、休暇制度としての役目は果たしたと判断し、廃止にいたしました。その一方で社員の新たなニーズにこたえるべく、新たに下記の休暇制度を新設しています。

※がんを治療しながら働き続けるための新人事制度の概要
 
――元々あった休暇制度がなくなると困る社員はいないのでしょうか?
 
関根:人事として難しいのは、制度変更を柔軟に行う場合に、社員にとってこれが「『労働条件の不利益変更』に該当するのではないか?」を常に意識しなくてはなりません。そこで社員の価値観や会社の成長などによって、人事施策ニーズは変わるものなので、これに対応できるようにするために、私は社内規則に毎年制度を見直すことを明記 しました。

毎年見直すということを社内規則に予め記載 することで、社員からのニーズに柔軟に応えることができる仕組みにしました。
 
 

何かの制約がありながらも頑張って働く人を応援したい


――何かダイバーシティを実施するにあたって気を付けておくべきことなどアドバイスはありますか?

岩田:一般的なダイバーシティの議論においては、ある将来の一時点での組織のスナップショットを切り取って、たとえば何年後に「●名の女性管理職を!」等と“属性のダイバーシティ”を目的化しがちです。しかしながら、今いる社員も既に多様な価値観を持っていて、しかもその社員のライフスタイルや価値観、ニーズは常に移り変わっていくものであるという視点を、人事は持たなければなりません。

ダイバーシティを目的にするのではなく、社員一人ひとりの「今ここにある違いをどう生かすか?」「変わっていく社員の価値観・ニーズにどう対応するか」というインクルージョンに焦点を当て、人事施策・制度をスピード感を以てリリースしていくことが重要であると思っています。

 関根:何らかの制約はあるけど頑張って働きたいと思っている人を応援したいので、そのために必要な取り組みは今後も継続していきたいと思います。
 
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どんな人でも受け入れるという姿勢を表す「インクルージョンリクルートメント」と、何らかの制約はあるけど頑張って働きたいと思っている人を応援する姿勢、この両輪がライフネット生命保険株式会社 を働きがいのある会社としている源のようでした。
 
 
参考:ライフネット生命保険株式会社 https://www.lifenet-seimei.co.jp/
 
(執筆・企画編集: 出山沙織 / 写真:野田洋輔)