RPAしくじり先生と経理財務のプロに聞いた業務革新成功の秘訣 - 第4回Back Office Heroesミートアップレポート

Yosuke Noda |

2019年1月21日、コンカー本社のセミナールームにて4回目となるBack Office Heroesミートアップ「RPAによる業務革新の現実と未来」を開催しました。今回は、そのレポートをお届けします。

昨今、ホワイトカラー業務をロボットに代行させる「RPA(Robotic Process Automation)」を導入している企業が増えています。RPAを活用してどのように変革を進めていけばよいのか、RPAの活用に造詣が深い二人の有識者に話をうかがいました。

  • 経理財務領域におけるRPAの当初導入で、多いのは「レポーティング」
  • RPA導入の失敗例は?
  • RPAをやめる判断基準とは?
  • RPAによってやらなくてよくなった作業をしていた人はどうなるの?
  • IT部門が、現場のRPA活用に統制を効かせるベストなバランスは?
  • Q&Aセッション

●パネリスト

株式会社アカウンティング アドバイザリー
マネージング ディレクター
日本CFO協会主任研究委員
デジタルテクノロジー部会幹事(旧AI・ロボティクス部会座長)

 櫻田 修一

ディップ株式会社
次世代事業準備室 / dip AI.Lab室長

 進藤 圭

●進行

株式会社コンカー
Back Office Heroes 編集長

 野田 洋輔

 

経理財務領域におけるRPAの当初導入で、多いのは「レポーティング」

野田:まず、なぜRPAが期待されているかを考えてみたいと思います。働き方改革がここ数年叫ばれている中、現場主導で比較的導入しやすいところが追い風となっていると感じています。また、弊社の親会社であるSAPによるRPAベンダーの買収や、その日本法人SAPジャパンによるRPAテクノロジーズやアイ・ピー・エスとの協業の話など、ベンダー側の動きも活発です。

櫻田:RPAがなぜ今もてはやされているかというと、「業務改革をするのにIT投資のコストが少なくて済む」からだといえます。RPAの導入コストは現在、従来型の基幹システム投資の10分の1以下の投資規模で導入が可能です。PoC(コンセプトの実証)から部門で導入するまで、既存のIT投資に比べてコストが少なくて済むのです。

 また、個々の作業をロボットに置き変えるという現場改善であるという観点から、日本企業の多くが持つ風土に合っていると思います。働き方改革で残業を減らし効率化しなければという状況で、RPAを導入すると短期的に効果が出てくるので、受け入れられているのではないでしょうか。

進藤:クラウドの活用が当たり前になり、数多くのツールが市場に出てきたことも大きいと思います。企業内で様々なシステムを使うようになり、独立して使われるものばかりではありません。そのすべてに連結するためのAPIを用意するのにはコストがかかってしまうということもあります。EUC(エンドユーザーコンピューティング)で進められるRPAの方が、人的なコストでも有利に働きます。

櫻田:日本CFO協会では、1年前にRPAに関するアンケートを取っています。経理財務領域においてRPAを導入した業務の上位を見てみると、最も多かったのが「レポーティング業務」(38%)でした。例えば、基幹システムやデータベースにログインしてデータをダウンロードし、Excelに転記するという業務です。PoCやパイロットプロジェクトを実施する際に、一番簡単なシナリオであることが上位となった理由です。経理関連においては、定型業務があるほとんど領域でRPAが適用できます。

 また、これからRPAを導入する際に期待することとしては「人的なエラーやオペレーションミスの削減」が高い割合を示しました(77%)。一度ルールを策定したら、繰り返し業務をロボットに代行させてミスを削減するということが期待されています。ミドル層や現場の担当者でこの回答が多かったと思います。

進藤:経営層に聞くと逆の結果になるでしょうね。雇用の話が上位に来ると思います。

 

RPA導入の失敗例は?

野田:RPAを導入したとしても、すべてがよい話ばかりではないと思います。失敗したからこそ分かる、しくじらないためのポイントについて、具体的な例を聞かせてください。

進藤:経理や総務の業務は、経営者が思っているよりも単純ではありません。多くの経営者は「経理・総務の業務を効率化しろ」と言いますが、実際に現場を見てみるとそれほど単純作業ではなく複雑なことをしていることが多いです。経営側から見えている観点と、実際の現場でのRPAを導入する際の観点のズレが失敗する大きな要因だと思います。空から見ている「鳥の目線」と地上にいる「虫の目線」では全く違うことを、現場にいる人が経営層に教える必要があります。

 また、導入する会社と、ツールを提供するベンダーとの目線の違いも失敗の元です。多くのベンダーが「RPAでは何でもできます」とよく言いますが、ベンダーが想定する簡単さと、それぞれの会社が考える簡単さは違います。機能は豊富だけどすごく難しいツールを入れて、現場が火だるまになっている会社を知っています。


ディップ株式会社 進藤圭 氏

野田:細かい部分を見ていない上層部の場合、「良きに計らってくれるのがRPAだ」と思っているケースが多そうです。しかし実際は、ロボットにやらせる業務を仕分けしなければ、代行させることはできませんね。結局、現場の担当者がどれだけ自分の業務を分解して捉えられるかにかかってくる部分もありますね。

進藤:「プロセスをどれだけ細かく見られるか」「マニュアル化ができているか」「現場でPDCAを回す仕組みができているか」という基本的な話になります。

櫻田:業務プロセスの分解という視点でいえば、単に業務一覧レベル程度の把握ではだめで、作業レベルまで分解することが大事です。業務フローを書くのが好きな人は多いですが、作業ステップを全部書き出せるかどうかが重要ですね。

 ただ、「なぜそこまでやらなければいけないのか」と言われることが多いですが、何か改革を実施するとき、日本企業では上層部(トップマネジメント)のコミットメントが必要となります。とりあえずやり始めて便利そうだった。しかし、そこから先に進めるなら他の改革プロジェクトと一緒で、どうすればトップが動いてくれるかをしっかりと考えなければいけないと思います。


株式会社アカウンティング アドバイザリー 櫻田修一 氏

野田:RPA導入に限らず、改革を進める上では避けては通れない道ですね。昔からあるBPR(業務改革)と同じ。ツールは変わってもやるべきことは変わらないですね。

進藤:RPAを入れたら、要らない業務が見えてきたという企業も多いです。社内業務の棚卸しができたといいます。要らない業務が分かっただけで、人的コストを浮かせることもできます。

野田:業務を棚卸することで無駄を省くことができるとなると、RPA導入という行動による「作業が洗い出せること」自体に価値を見出せますね。

櫻田:私が特に経理財務の作業レベルで面白いと思うのは、コミュニケーションをRPAが置き変えられることも多いということです。例えば何かシステムから会計数値について異常値が出たら、それに関するメールの案内を出すだけで一日つぶれることもあります。その作業を定型化してしまえば、RPAが自動的にメールを出すこともできます。

進藤:勤怠管理の作業でも同様のことが起こっています。過重労働の管理に勤怠管理システムを使っている場合、労働時間超過者に対してメールを送る機能をオプションで付けることができます。ただ、それにはかなりのコストになることもあります。それが嫌だから、RPAでメールを送るようにする企業が多いです。櫻田さんがおっしゃるように、多額のコストをかけてシステム開発するほどではないけれど業務を効率化したい部分は、RPAの使いどころなんだと思います。

 

RPAをやめる判断基準とは?

野田:進藤さんがお勤めの会社でのRPAプロジェクトのしくじりを聞かせていただけませんか?

進藤:自社ではこれまで作成したロボットのうち、1/4ほどが失敗ロボットになってしまっています。失敗するポイントは、大きく2つに分けることができます。一つが「マネージャーが思いつきで作る」ケースです。業務の細部が細かく見えていないのに、思いつきでロボットを作るというものです。

 もう一つが「業務フローがものすごく長い」ケースです。私たちは「5分ルール」というものを設けています。人が説明して5分以上かかる業務の場合は、ダメなことが多いです。RPAを導入しても、システムをまたぐ業務フローの連結部分でこけたりします。連結したフローは、SaaS(クラウド上のアプリケーション)が利用されていると、比較的上手く行く傾向がありますね。

野田:ロボットの屍が積みあがる状況もありえるのですね。エラーが多く発生してロボットに任せきれない割合が増えると、ロボットの利用を止めることになると。その判断はどうすればいいでしょうか。

進藤:止める判断も大きく2つに分けられます。一つは、バッチプログラムを組んだ方が早いなど「システム化ができると判断した」場合です。もう一つが「エラーが多発して話にならない」場合です。それを起こさないためには、業務フロー自体を改善することが考えられます。「現在はWeb画面からスクレイピングしてデータを取っているが、一度データベースから抜いてフォルダに置いたデータをRPAが取りに行ったら早くなる」というパターンなどが考えられます。

野田:経理財務の領域での失敗プロジェクトについて、聞いたことはありますか?

櫻田:経理財務は、比較的失敗が少ないと思います。この領域では、定型化できる業務には、色々な規制やルールがあり、ドキュメントも割と残っているのでRPA化しやすいと思います。ただ、凝った人がロボットを作ってしまうと、他の人からは分かりづらいロボットができてしまうこともあります。野良ロボット問題は、やはり聞いたことがあります。

野田:中小企業の場合、IT投資の余力に乏しく、システム化が進んでいないところも多いと聞きます。中小企業も経理財務の領域でRPAに取り組んだほうがよいでしょうか。

櫻田:これから大きく成長を目指す企業は、RPAの導入は後回しにしてもいいと思います。まずは、標準化されたパッケージソフトやクラウドサービスを積極的に活用することです。社内のデジタル化を先に進めるべきです。例えば、社内が紙だらけなら紙をなくすことに取り組んだ方がよいと思います。パッケージソフトを使いこなすためには、支払いや売り上げ、経費処理を標準化してルール化することです。そこまでやって残った部分に、RPAを取り入れることを考えればよいでしょう。経理財務領域では、RPAを検討する前に業務の標準化や見直しが絶対です。

野田:アナログのものをデジタル化することが最初ですよね。

進藤:AI/RPA領域で多くいただく仕事が、実はOCRです。不要だと思われるFAXをAIの計算領域を使ってやる悲しさは何とも言えないですね。そもそも基幹ソフトを早く入れ替えたほうがいいとアドバイスすることも多いです。

櫻田:AI-OCRでいうと、その手書きの識字率の実態は大体70%ほどだと言われています。特に経理財務の場合、その程度ではAI-OCRで情報を読み込んだ後に、人間の目視が必要となるのが問題です。OCRで情報を入力しても、人間が結局チェックするので工数が変わらないという話もあります。今後はもっと精度が上がると思うので、そのタイミングで紙データのデジタル化が動いてくるのではないでしょうか。

野田:今後は、そもそも紙を極力発生させないという姿勢も必要となってきますね。

 

RPAによってやらなくてよくなった作業をしていた人はどうなるの?

野田:RPAを導入すると、元々やっている仕事がなくなる人がいるのではという話をよく聞きます。その人たちは、どうなるのでしょうか?

進藤:よく聞かれる質問です。皆さんはスマホを使っていますか?スマホを使う前の仕事のやり方を覚えていますか?きっと覚えていないと思います。スマホ以前の仕事のやり方は、既に失われているのです。AIやRPAによって仕事が奪われるのは間違いないと思います。ただ、奪われた相手側の人間には、「適応する能力」がある。別の仕事をやることになるかもしれないし、ロボットを作る人になるかもしれないし、親を介護することになるかもしれません。ただ、確実に仕事は奪われるというのが私の見解です。

 しかし、ロボットをお世話をする人は必要です。先ほどのOCRのように、ロボットがやった仕事を確認するタイプの仕事は残り続けます。それでも、10人でやってきた仕事を3人でやるような未来が見えています。残りの7人には雇用の流動化が出てきます。そこは機械に代替されないような仕事、古くから人間がやってきた仕事や対面の仕事などに流れていくと思います。

櫻田:経理財務の領域では、それこそ30年ほど前から、システム化の波が来るたびに高付加価値業務にシフトすると言われ続けています。「高付加価値業務は何か」というと、明確に答えられないのが今まででした。

 日本CFO協会でも、高付加価値業務やこれからの経理財務人材に求められるスキルについて議論しています。これからは「デジタルファイナンス」の時代が到来すると定義していて、そこで求められるスキルが「データ」「ビジネス」「イノベーション」「リーダーシップ」の4つだと考えています。

 従来の経理財務は、簿記や連携会計処理をベースにするものでした。会計基準と開示やIR、財務戦略/税務戦略とその実行、内部統制/リスク管理、経営会計などの分野を担っていました。今後は、こうした業務の多くはシステムが処理することになってきます。当然、IT知識も必要となってきます。

 会計財務の知識を強みにして、環境変化に応じた会社の仕組みに変えていくというのが「イノベーション」です。また、今後は色んなものがデータ化されていくので、財務会計データだけではなくて非財務データ、マーケットデータなどから分析したり考えたりする「データサイエンティスト」に近いスキルも必要となります。「ビジネス」のスキルは、新しいモノやサービスを作りだせる人をサポートするというスキルです。また、イノベーションを推進するためには、チームをまとめ上げる強い「リーダーシップ」も求められます。

 ただ、1人でこのすべてを身につけるのは難しいと思います。自分の得意領域を見つけて伸ばしていくことが重要と思っています。

 声を大にして言いたいのは、従来型の会計人でやっていくのであれば、より高度な専門性が求められ、監査法人や税理士法人と同じくらいの知識がないとダメということです。企業がこういった人たちをトレーニングして雇用して給与を払い続けるという、内製化されている必然性があるか。この部分だけに固執すると、将来失業してしまう可能性もあります。企業の経済合理性がなくなってくるんじゃないかなと思います。

進藤:こうした変化は、他の領域でも起こりつつあります。「総務アウトソーシング」というサービスがあるのをご存知ですか? 戦略的なオフィスを構築するためには、不動産や経営コンサルタントの知識も求められます。総務業務にも高度化が起きているため、外部に任せた方がいいというケースも生まれてきています。

野田:現状のままで逃げ切る未来はないという悲観的な意見とも取れますが、逆に危機意識をもって、先ほどの4つのスキルのどこかに力点を置けるような人材になれば道は開けそうですね。

進藤:「全ての職種がIT化する」と言っている人もいますが、まさしくそういうことが起きつつあるといえますね。

 

IT部門が、現場のRPA活用に統制を効かせるベストなバランスは?

野田:先ほど、野良ロボットの話が出ました。全社的なITを統括・管理する部門の立場では、自由にやらせすぎるのも問題という見方もありそうです。その辺をどう整理するとよいのか、ご意見をうかがいたいです。

櫻田会計財務領域は、パッケージソフトウェアが非常に進歩していてよくできている領域です。パッケージをまず使い倒すということを考えた上で、その後、RPAをどう使うかを考えたほうがいいと思います。また、IT投資のライフサイクルを考えて、基幹システムの入れ替えが近ければそちらで吸収、基幹システムの更改が先で待てないならRPAを使うなど、タイミングを計るという考え方もあります。

進藤:RPAの管理には大きく2つの方法があります。一つは「情報システム部門が主導となる」方法です。いわゆる基幹システムと同様に、IT統制をしっかりと行うというものです。もう一つが「現場と情報システム部門が一緒に管理する」方法です。現場はマクロを作り、情報システム部門がその監査を一緒に行うというやり方です。

野田:野良ロボット化する原因の一つに、技術に詳しい人がほかの誰も触れないロボットを組んでしまうというケースがあるかと思います。そういった例はありませんか?

進藤:ゲーム会社でのお話です。たまたま任せた人がすごくこだわり屋の人で、訳が分からないRPAができてしまったことがあります。その解決方法はただひとつ、「ゼロに戻してやり直す」ことです。最近、よくやる方法が、対象の業務フローの設計を動画に撮って見える化することです。ブラックボックス化させず、業務の継続性が担保されます。

 

Q&Aセッション

――社内でのロボット開発にあたり、設計書などのドキュメントのレベルまで作るか悩んでいます。詳細なものを作り込むとスピード感が失われますし、全く残さないのも野生化のリスクがあると思います。現在は、ロボットごとの簡単な業務フローと一覧での管理を行っていますが、よりよい方法がありましたら教えてください。

進藤:まずは先ほども挙げた「動画を撮る」というのが、1つのやり方です。動画をもとに仕様書を作ってください。後々動画を見ても分からないことは意外とあります。ここは皆さんの勘の方が鋭いです。「動画を撮って説明してみて、分からなければ仕様書を作る」のがよいのではないでしょうか。

櫻田:RPAツールの中にあるフローチャートで、重要なところにコメントを残すことにするのも方法の一つでしょう。そうしたルールを徹底するという、ちょっとした努力をすることで改善できることも多くあります。

 

――上層部からRPAについての理解を得るのに苦労しています。これまでに見てきた例のなどから、上手くやるポイントがあれば教えてください。

進藤:難しいですね。理解がありすぎるのが問題になることもあるんですけどね。まずは、自分の業務から始めることが一番やりやすいです。それを自分の同僚に広げ、自分の部署に広げるというパターンが1番スムーズに動いていると思います。役員会に完璧な資料を上げてクロージングしてスタートというやり方は、期待値を上げすぎて夢のような世界が待っていると経営陣に誤解されてしまうことになりがちです。

 

――中小企業のバックオフィス業務で、仕事の種類が多くてそれぞれの業務が少ない傾向です。導入メリットはありそうですが、スケールしないということになりそうです。そうした考えが変わる視点がありましたら、教えてください。

櫻田:システムエンジニアや外部の人ではなく、自分たちがどんな些細な業務改善であっても、RPAで対処できるようになると変わってくると思います。例えば、3時間の仕事を5分で終わらせるRPAを導入するなど、こうした細かなものを積み上げていく方がいいと思います。もう一つネックになるのはコストだと思いますが、あと1年ぐらい待つと今よりもツールのコストは下がってくるはずです。もう少しだけ待つという考えもあります。

進藤:フリーウェアやシェアウェアを使うという方法もあります。ベンダーが進めるパッケージソフトは、非常に安定性も高く、メンテナンス性もセキュリティ面もよいです。それなりの規模で使うなら、お勧めです。ただ、費用対効果の問題があります。フリーウェアやシェアウェアでは、年間9,800円といったものがたくさんあります。それを使って自動化するのも中小企業の道だと思います。

 

――グループ会社で経理財務のシェアードサービスをしています。そこでは、障害者を雇用しています。ツールが入ってくると業務が改善されて、仕事がどんどん減っていくため、雇用していかなければいけないという視点からは悩ましいです。何か方向性となるヒントがあれば教えてください。

進藤:障害者の雇用というのは、とても意義があることです。個々人の障害の状態は考慮されるものですが、彼らを「RPAハンドラー」にしていくというのが、ひとつの新しい未来だと思っています。また会社としては、グループの外部からも受注していくというのが特例子会社の生き残り方になるのではないでしょうか。

 

――小売業で経営企画を担当しています。社内のRPA導入は、後方支援の分野で始まったばかりです。自分の課題意識としては、営業部門での導入もメリットがあると思っています。ただ、一方で業務の目的や定義などを行うなど、RPA導入よりもっと先にやるべきことがあるのではと思って進んでいない状態です。そこから前に進むためのアドバイスをお願いします。

櫻田:RPAの導入が既定路線だということであれば、営業担当者の報告書作成や集計業務に導入してみてはいかがでしょうか。資金的な余裕や利益が出ているのであれば、とりあえず始めてみることです。まず始めてみて、小さなところから積み重ねてくるということが大事なので、早くPoCをスタートさせる方が私はいいと思います。

進藤:在庫や棚卸しの自動化をAIで進めた方が、実は売上インパクトが大きいと思います。棚卸しにAIを導入したデパートでは、出庫と入庫の予測ができるようになり、在庫ロスが減ったことで人件費が2割減ったという事例もあります。

野田:周囲で一番困っていそうな人の仕事から小さくでも始めていくこと、売り上げインパクトのある領域に導入することの2つが考えられるということですね。

 

応えきれなかった質問にも、後日、回答いただきました

――経理業務にRPAを導入して成果を上げた事例が聞きたいです

 経理・財務業務においては、定型的もしくはロジックが明文化可能な業務であれば全般にわたって適用可能です。マネジメント視点では次に挙げるような成果が出ています。

  • 月次決算時に恒常的に残業が発生しているが人員の補充は難しいため、RPAにより定型業務を自動化し、残業を大幅に削減した
  • 従来、「人間でないと判断できない」と考えられていた外貨建て売掛金の入金消し込みについて、RPAにより多くの部分を自動化できた。
  • シェアードサービスセンターでの手作業での大量伝票入力について、事業側での手書伝票をExcel伝票に置き換える事によりRPA化し、大きな工数削減効果があった。
  • 従来、人が実施していた単純繰り返し業務について、RPA化することによりエラーの発生が削減できた。

 

――会社規模などに依るとは思いますが、 実際の業務をRPAで動かすまでにかかるざっくりとした導入予算、導入期間は、一般的にどのくらいと見積もられているものなのでしょうか。

 2018年1月の日本CFO協会のアンケートでは、初期導入(PoC実施+初期展開の数ヶ月)のコストは1,000万円以下という企業が6割、500万円程度の企業も見受けられました。現在では、クラウド化等により低コストなケースで100~200万円程度まで下がってきています。

 

――RPAツールがいろいろあるが、どれが最適かを判断する基準は?

 導入の規模が大きく、構築する業務プロセスが複雑であれば、サーバー管理のRPAが必須となります。規模が小さく、細かな業務をRPA化するのであればPCで稼動するRPAでもよいですが、全社的な展開が必要になればやはりサーバー管理が望ましいです。また基幹システムとの連携(ログイン・入力など)、Webからの情報取得などについて得手・不得手があるので、その点はRPAベンダーの説明を十分に聞く必要があります。

 

――RPAを導入していく過程で起きやすい紛争や、障害になる規制法について聞かせてください。

 経理・財務領域であれば、J-SOXもしくは会社法の内部統制上の取り扱いは重要です。また、外部監査を受けている場合、監査証跡など監査上の取り扱いにも留意が必要となります。

 

――在庫・出荷データを用いて、工場の生産計画や損益管理を行なう業務ツールとしてRPAを活用できないかと考えています。同様の導入事例や、アドバイス等をお願いします。

 RPAのデータ活用で最も簡易なのは、基幹システムや情報DBにログインし、データを出力、定型のExcelフォーマットに転記するという業務があります。その後、人がExcel上で作業、もしくは予め設定されたマクロをRPAが起動といった流れです。RPAやExcelの組み合わせでデータ処理を実行することもできますが、生産計画や損益管理などは、その領域の専門アプリケーションパッケージも数多くあるため、RPA化することが本当に望ましいか、十分に検討する必要があると思います。

 

――従来のシステム開発と比べてRPAのメリットまたは明らかに違う点を教えて下さい。

 基幹システム導入の1/10以下のコストと、スパイラル型(アジャイル)の改善が可能という点にあります。RPAで業務を構築する場合、人間との協働を前提とすると100%を目指さなくてよい(90%はRPAで困難な10%は人が実行)ので、導入の自由度が高いといえます。

 

――ロボットは誰が作るのが正解ですか?

 導入プロジェクトの初期段階においては、外部のRPAエンジニアもしくは情報システム部門の方が構築するのが通常です。しかし、RPAの設定標準が定まれば、RPA設定の研修を受けた業務側の人が構築するのがよいと考えます。大規模導入であれば社内外を問わずRPAエンジニアが導入する方がよいケースもありますが、経理・財務部門など小さな改善を積み重ねる場合は、外部人材を活用するとROIが成り立たないケースもあります。導入局面と規模によって解は異なります。

 

――RPAを導入のコストと比較して、それに相当する規模の業務がないかもしれないと思ってしまいますが、それを判断する基準みたいなものはありますか?

 伝統的なシステム導入のコストの判断は、導入による工数削減効果を金額換算することにより、ROIを判断します。RPA導入による効果について、工数削減による定量効果だけではROIが成り立たない場合、工数削減の結果、より高付加価値な(実施していなかった/不十分だった)業務にシフトしていくことによる効果を説明します。また、残業時間の速やかな削減など、単純な導入コストのROIだけでない、他の経営上の目的から導入可否を判断する場合もあります。

 

(執筆:翁長潤/写真:遠藤智範/企画編集:野田洋輔)

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