社長の右腕がぶっちゃける成長企業の組織論 - 第3回ミートアップレポート(1)

2018年9月11日、ザ・プリンスパークタワー東京で開催された「SAP Concur Fusion Exchange 2018 Tokyo」 展示会場内の特設ステージにて、3回目となるBack Office Heroesミートアップを開催しました。

当日行われた2つのセッションから、まずは「社長の右腕がぶっちゃける成長企業の組織論」のレポートをお届けします。

今回、「社長の右腕」という意味では共通点がありつつも、業務領域の異なるCOO、CFO、CMOによるトークセッションを通じ、トップと仕事をするうえで重要なことは何かを探りました。

【パネリストの紹介】

株式会社SmartHR 最高財務責任者 玉木 諒 氏

1982年生。京都大学文学部卒。公認会計士。2007年よりあらた監査法人(現PwCあらた有限責任監査法人)にて上場企業や外資系企業の法定監査業務に従事。その後、山田ビジネスコンサルティング株式会社にて国内企業の事業再生コンサルティング業務を、株式会社サムライインキュベートにてスタートアップ投資及びファンド管理業務を経て、2017年10月よりSmartHRに入社。

株式会社ウィルゲート 専務取締役 COO 共同創業者 吉岡 諒 氏

1986年生まれ、岡山県岡山市出身。慶應義塾大学経済学部卒業。 小学1年生からの幼馴染の小島梨揮氏と共に高校卒業3日後に起業。 2006年、19歳で株式会社ウィルゲート設立。2012年に記事作成特化型クラウドソーシング「サグーワークス」、2014年に暮らしのアイデア投稿プラットフォーム「暮らしニスタ」をリリース。設立10年で3,100社を超えるwebマーケティング支援実績のあるコンテンツマーケティング事業部の最高責任者を務める。

株式会社コンカー マーケティング本部長 柿野 拓

株式会社コンカー マーケティング本部 本部長。大学卒業後、SAPジャパン株式会社に入社、ERPからインメモリーテクノロジーまでマーケティングを中心に幅広い業務に従事。 2013年6月に株式会社コンカーへ入社、PR、マーケティング、インサイドセールスを統括。現在、出張・経費管理クラウドの新市場創造に取り組む。セールス&マーケティングプラットフォームの構築と活用、PRドリブン経営の実践を通じ、コンカーの成長を支える。

 


 

ビジネスで重要なポイントを3つ挙げるとしたら?

柿野:はじめに、会社を立ち上げた経緯や創業時の思い、社長との苦労話などをお聞きしたいのですが?

吉岡:弊社は現在13期目で、社員は140人になります。代表の小島(株式会社ウィルゲート代表取締役CEO?小島梨揮氏)と私は、小学校1年生からの幼馴染かつ親友です。高校を卒業してすぐに小島のマンションに閉じ込められまして、パソコンを買って「これからはITで起業するぞ!」と仕事を始めて今に至ります。

玉木:まるで、スティーブ・ジョブズのようですね!

柿野:吉岡さんが経営において大事なことを三つ挙げるとしたら、何をあげますか?

吉岡:一つ目は仲間。仲間と採用です。二つ目は組織カルチャー。三つ目はビジネスモデルかな。

柿野:お、三つすぐ出てくるのはすごいですね。玉木さんはどうでしょう?まず、SmartHRに入社した経緯から教えてください。

玉木:公認会計士として監査法人で最初のキャリアを積み、その後、事業再生のコンサルティング会社とベンチャーキャピタルで投資やファンド管理を経て、昨年の10月にSmartHRに入社しました。

柿野:CFOの役割はいろいろあると思いますが、三つの大事な役割が特に重要だと思っています。一つは資金調達、二つ目は経営管理、三つ目はリスク管理、これらをきちんと管理してどう会社を動かすか。業務の標準化やIT化を進めながらだと思うのですが、玉木さんがこの三つの中で一番注力しているのはどれでしょうか?

玉木:ベンチャー企業の多くが、IPO(新規株式公開)を目指しますが、上場準備のフェーズになると、規定や稟議フローの策定など今まで曖昧だったものをきちんと整備していかなければならない。でも、ベンチャーには、それが嫌で転職してきた人が多いはずです。「フットワーク軽く」という文化と「上場するためにきちんと」という、ある意味二律背反のような面を、どうバランスを取って会社を成長させていくか。資金調達や経営管理、ガバナンス構築といったバックオフィスを整えること全般に関わってくる部分かなと思っています。

 

成長企業で経営の要となるCFO、存在価値は、情熱と現実のバランスにあり

柿野:吉岡さんの会社にCFOの方が入社されたことで、大きく会社は変わりましたか?

吉岡:弊社は三年前にCFOが入ったのですが、「ウィルゲートは事業推進がない」と言われました。今まで、現場の予算策定は事業責任者がエクセルで予算管理シートを作り、最後に管理部門側がエクセルを足し合わせて予算を作っていました。

私も小島も学生起業家でポジティブな性格なので、「今期は二倍成長!」と、高めの予算を引きがちでしたが、井口(取締役CFO兼CSO?井口善文氏)は事業理解が深く、過去2年分のデータを基に「営業受注率はこの推移だから、今期から受注率が急に高くなるはずがない」と指摘してくれます。

予算は、過去のトレンドからふまえてCFOがしっかり予算策定する。その上で、モニタリングすべきKPIをしっかり固め、その推移を見る。事業推進として、そのような要素が加わったことで予算の精度が上がり、売上とコスト管理がしっかりできるようになりました。

玉木:だいたい創業陣は、「やってやれ!」「受注率二倍!いや三倍だ!」「気合で行くぞー!」という感じが多いのですが、そこをちゃんと現実と合わせてくれる。創業チームとのバランスが絶妙ですね。

柿野:過去の成功体験はなかなか捨てられないので、管理のプロであるCFOが経営の現場を分かってくれるのはすごくありがたいですよね。ベンチャーは経営資源に限りがあり、人がお互いを補完しあって進めるところに面白さと難しさがあり、大企業は組織体が大きく、人というより仕組みをしっかり回すことが重要になります。会社が大きくなるにつれ、標準化が進んで、横展開、そしてグローバル展開していくうちに、だんだんそれらが業務の重しになって、イノベーションが生まれにくくなる現状があるのかなと、お二人のお話をうかがって思いました。

 

成長企業がさらに成長する今後のチャレンジは?

柿野:コンカー、ウィルゲート、SmartHRは現在、成長フェーズにいると思いますが、今後、ウィルゲートでチャレンジしたいことや抱えている課題があれば教えてください。

吉岡:二つのチャレンジがあります。一つ目は採用、二つ目はマーケティングです。採用の話をさせていただくと、弊社は組織づくりにはとても力入れていますが、それでも社員の新陳代謝はあるので、離職率は10%前後です。優秀なメンバーが独立して辞めていくことがあるため、いかにして優秀な人材を中途採用するかという課題があり、当社はリファラル採用(縁故採用)にチャレンジしています。

二つ目のマーケティングに関しては、SEOコンサルティングが労働集約型であるのに対し、コンテンツビジネスではオンライン上でライター会員を構築・活用することで、社員数が増えなくても売上が上がるというビジネスモデルができました。今後は、TV-CMやイベント出展などでプロダクトの認知度を拡大し、いかにしてリードを獲得するかが、二つ目のチャレンジです。

柿野:SmartHRの今後の成長へのチャレンジを教えてください。

玉木:私も大きく二つ挙げると、事業の多角化と組織の拡大です。SmartHRというプロダクトはリリースしてから2年半ほどが経ちますが、プロダクトの中にユーザー企業の従業員データベースが蓄積されています。そのデータベースを使ってアプリケーションを構築していく、もしくは他社のサービスとの連携をさらに深めていくことが、次のフェーズかなと思っています。

自社で周辺のアプリケーションを作っていくことで、プロダクトが多角化し、それぞれのチームのカラーも出ます。事業をどうやって多角化するかというチャレンジが一つです。

それから、急速に社員数が増加しているので、どうやって組織の文化やスピードを落とさずに拡大させるかも大きなチャレンジだと思っています。

 

人材と情報共有とコミュニケーションが成長のカギになる

柿野:成長企業が抱える問題も解決策も人材という印象を受けました。その意味で「情報共有」は大きなポイントになると思うのですが、チームワークを向上させるための工夫は何かありますか?

吉岡:経営データをどの程度まで社員に伝えていくかが重要だと思います。当社では、PL(損益計算書)まではマネージャー以上の役職者とスペシャリストメンバーには開示しています。社風として、土日に部活動で集まることも多く、社員同士の仲が良いので、自然と情報共有が活発に行われます。お客様からのフィードバックを朝会や定例ミーティングで共有したりもしています。また、Slackを使って他部門との情報共有も行っています。

柿野:実はコンカーも同じことをやっていまして、キャッシュフローを含めて、経営情報を社員にすべて開示して、社員にマネジメント感覚を持ってもらうという取り組みをしています。そうすると、自分の仕事を全社視点で捉えることができますし、なにより就業感だったり、マインドセットが変わってくるのは重要なポイントだと思います。

あと、社員の仲が良いというのは大事ですよね。コンカーも週末に皆で出かけたり、とにかく仲が良い。文化部、麻雀部、ガンダム部などの部活動もたくさんあり、何気ない会話やコミュニケーションが仕事上の悩みだったり、ストレスを解消してくれていると思いますし、結果的に個人のパフォーマンス改善に繋がっていると思います。

それから、ITで無理やり仕組み化すると、やらされ感も出てなかなか定着しないケースもありそうですが、玉木さんはどのようにお考えですか?

玉木:情報共有の観点でいうと、我々は全社員に向けて情報をフルオープンにしています。開示していないのは、個人の給与額と、上長との1on1ミーティングの内容だけですね。週に一度経営会議を行い、売上や主要KPIだけでなく、前日までの会社の銀行口座の残高なども開示しています。今のフェーズだと、会社の情報をオープンにして、それをもとに各メンバーが判断したほうが、自発的な動きも高まりますから。

もう一つオープンにしている理由は、現場と経営層の判断基準の乖離は、持っている情報量や情報レベルの違いから生じるからです。例えば、現場はA案を推しているのに、経営層はB案を推している。そうなると、「せっかく実行しようとしているのに」と、現場と経営側の意思決定の乖離を、情報の粒度を揃えることで防ごうとしています。

柿野:先程、吉岡さんからCFOは社長のブレーキ役というお話がありましたが、社長の意思決定に対して、玉木さんがCFOとしてブレーキを踏むのはどのようなタイミングですか?

玉木:実は今のところ、ブレーキを踏むタイミングがあまりないんです。SaaSを始め、クラウドサービスが重視する経営指標のノウハウは大変充実していて、どの指標を見たら正しい判断ができるのかなど、先行指標が開示されているので明確に判断できる。それもあって、「ブレーキを踏みましょう」というよりは、「踏む時はみんな合意のもとで」という緩い合議制でできているかなと。

柿野:ちょっと話し変わりますが、ウィルゲートさんは様々な新規事業を展開していますが、新規事業を生み出す秘訣みたいなのはありますか?

吉岡:創業事業であるSEOコンサルと5年前にサービスを開始した記事作成サービスのサグーワークスが売上の主軸で、新規事業としてはメディア事業があります。SEO事業以外の二つの事業は、社員のアイデアから生まれた新規事業です。サグーワークスに関しては、会社の業績が悪化して倒産危機に陥った時に、現場メンバーが自主的に立ち上げてリリースしたという経緯があります。

柿野:それはすごいですね!

吉岡:会社へのエンゲージメントの高さというか、「会社がピンチだったら自分たちがなんとかしてやろう」という思いを持った社員がいてくれて良かったと思っています。

社長との関係、やらないことを決める勇気

柿野:お話をうかがっていて、社長さんがビジョンを作り、吉岡さんが動かす。番頭とリーダーの関係でとても良い印象を受けました。

吉岡創業時に印象的なエピソードあって、ある日、代表の小島が「俺は実務をやるのはやめた」と宣言したんです。「二人で船に乗ってオールを漕いでいても、行き先を見失って座礁するだけだ。俺は未来のことを考えるから、オールを漕がない」と言い始めて。

柿野:面白いエピソードですね。「やることを決める」より「やらないことを決める」方が全体が見えていないとできないことですよね。玉木さんと宮田社長とはどのような関係でしょうか?

玉木:社長の宮田は、基本的に自分よりも得意なメンバーに任せるスタンスです。ファイナンスは私ですし、ビジネスはCOOの倉橋(最高執行責任者 倉橋隆文氏)、開発は開発リーダーに任せています。社長は俯瞰でボトルネックのポイントを自分から埋めに行くという動きをしています。我々としては、任せてもらえているのでやりやすいですし、とはいえ任せっぱなしではなく、社長が全体を見てくれているので、安心していられますね。

柿野:ちなみに私と社長の役割でいうと、社長は一言で言えば、アイデアマン。いろいろな視点からアイデアをもらえます。私はそのアイデアをどちらかというと、社外から見ていて、市場に受け入れられるように補正して、マーケティング施策に反映させる努力をしています。リーダー(CEO)、財務(CFO)、施策の展開(COO & CMO)が成長と制約条件の中でバランス感覚を持って、意思決定と現場での遂行をスピード感持ってやって行くのが成長企業には必要だと感じました。

参加の皆さまとの質疑応答

吉岡さんの「やらないことを決める」という話が印象的でした。やらないと決めたことを本当にやらないというのも、実際はなかなか難しいと思います。SmartHRでやらないと決めたことはありますか?

玉木:製品上の話ですと、よくお客様から「給与計算や勤怠管理はやらないのですか?」と聞かれますが、今のところはやらないと決めています。我々のUIやUXを見て、「SmartHRさんなら良い製品を作ってくれるはず」という期待感を込めておっしゃっていただいていると思いますが、給与計算や勤怠管理に関するクラウドツールは、すでに世の中に溢れていて、ニーズもある程度満たされているので、その市場には参入しない方針です。逆に、最近リリースしたオンラインで雇用契約を締結する機能のように、世の中にまだ大きい課題があるのに、ソリューションが存在しない分野には積極的に取り組んで行きます。

柿野:コンカーのケースだと、私が入社した時は来るものは拒まずという方針でした。ただ、冷静に考えると私たちのクラウドサービスは海外製なので、そもそもグローバルビシネスを展開している大企業の方が受けられるメリットが大きい。そこでまず、中堅・中小企業向けのビジネスは捨てるという決断をしました。結果、リソースの最適化や製品開発の効率が上がり、順調に大企業向けのビジネスが立ち上がって行きました。現在では、当時やらないと決めた中堅中小企業向けのビジネスの立ち上げを進めています。

吉岡:お二人の話に近いのですが、弊社も創業時は既存のお客様の御用聞きになって、お客様が求めることはなんでも受注していました。SEOも制作も広告もやる。提供するサービスの範囲が広くなればなるほど、顧客対応をする社員教育が大変になっていくので、自社の事業としてSEOしかやらないと決めました。その後、SEOの業務フローを分解して役割ごとに担当者を決めていきました。その結果、教育コストは大幅に下がり、サービスを提供する仕組みができていったので、サービスの提供範囲をSEOに絞った判断は正解でした。

柿野:ご質問、そしてご回答ありがとうございました。選択と集中には勇気が要りますが、集中しないとそもそもビジネスが立ち上がらない、これも成長企業なりの問題解決の一つの方法だと感じました。

吉岡さん、玉木さん、本日はお忙しい中、貴重なお話をいただきありがとうございました。(拍手)

(執筆:出澤由美子 / 企画編集:柿野拓)

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