【イベントリポート(後編)】バックオフィスほど楽しい仕事はない!企業の成長期に求められる管理部門リーダーの役割

Yosuke Noda |

2018年3月12日に行われたミートアップイベント『企業の成長期に求められる管理部門リーダーの役割とは?』のイベントリポート後編です。ほぼ日の篠田真貴子氏、メルカリの長澤啓氏、コンカーの金澤千亜紀氏をパネリストに議論が進んでいきます。

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リソースが足りている会社は、すでに末期。一生足りないと思うべき

久川:資源調達という話も出ましたが、事前のアンケートの中にも、リソース不足をどう補うか、働き方を何とかしたいという質問が多く見られました。

篠田:リソースが足りることはないと思ったほうがいい。むしろ社内でリソースが余っている状態だとしたら、それは会社がダメになっていく症状が出ているんだと思います。

久川:世の中ではこれだけ働き方改革と言われていますが、成長著しい企業の管理部門にいながら、世の中の働き方改革にどうやってバランスを取っているのでしょうか。

篠田:働き方改革って、みんなが便利に使っている言葉ですが、正直、私は定義がよくわかっていません。働く時間を一定の時間内におさめましょうというのは、国が決めたルールなので当然のこととしてやります。

ただ、会社として世の中に魅力的な商品やサービスを提供しないと、ルールを守っているだけでは存在している意味がありません。だとすると、働くということは、まず今いるメンバーでうまく、おもしろくやりましょうということしかないですよね。結果として、社員が以前よりおもしろい仕事ができるようになったとか、経済的に報われたと思えるようにしたい。働く時間が今より短くなっても、そう言えるところまではいきたいですね。野望ですけど。

久川:メルカリは、みなさん非常に働いているようなイメージがあるのですがいかがでしょう。

長澤:当然繁忙なときはありますが、残業が常態化していることはない会社ですし、比較的効率的に働いていると思います。大事なのは、評価の軸がぶれないことですから、働いている時間はあまり気にしていません。

メルカリは「バリュー」という言葉を大切にしています。「Go Bold(大胆にやろう)」、「All for One(全ては成功のために)」、「Be Professional(プロフェッショナルであれ)」の3つで、常にみんなが自然と口にしている。代表の山田が言っているからではなくて、バリューに沿っているからこの方向だと判断できるようにしたいという思いが強くあります。

メルカリには、フレックス制度はあっても自宅勤務制度はないんです。それはAll for Oneで一緒に働いたほうがいいよねってことでそうなっている。それが正しいかは別として、会社のバリューに沿っているので、みんなが納得して働いています。

 

会社が変わる瞬間には、きっかけや必然的な理由がある

久川:入社後にご自身が変革されたこと、あるいは大きく変わったことを教えてください。

長澤:入社したときは、すべてを自分が把握したいという思いがありましたし、自分以外に担当領域の仕事を実行するスタッフも少なかったので、実際に関わっていたんですけど、少し偉そうな言い方ながら今は信頼できるチームメンバーにに実務の多くを任せることにしています。

人にお願いしてみて、それが100%自分の思ったとおりではなくても仕事は進んでいくということが分かりましたし、一方で自分よりも高いクオリティでその仕事を遂行できる人もいます。任せるという行為を意識してやることで、みんなのモチベーションがすごく上がっていく。会社としてのパフォーマンスも上がっていくんだなと分かりました。それが一番の学びであり、会社を大きく変えたことかなと思います。

篠田:ほぼ日にとって大きな変革のきっかけになったのは、震災です。それまでのほぼ日って、いい感じの規模で、いい感じに仕事がまわっていて、それはそれで楽しい職場だったと思います。でも震災があって、私たちの無力さ、ふがいなさに直面したことで、会社としてどうあるべきか。そして、世の中との付き合い方を真剣に考えるようになっていきました。上場に向けてアクセルを踏んだのは、こんな背景もあったんです。

会社も私も変わったひとつの分かりやすい例が、上場準備の際の規程づくりです。ただ上場基準だから従えと言われてやるのでは、私も、社長をはじめみんなも納得感がないんですよ。でもどんな規程も原始時代からあったのではなく、ある時代に必要があって生まれた。そこに気づき調べていくと、無味乾燥な話ではなくて、人がどうやって経営というものをやってきたのかという歴史、物語になる。そこまで理解すれば、生きたテーマとして社内も証券会社ともみんなで話し合えるんです。時間をかけましたが、関係者全員で積み重ねるようにできたかなと思います。

金澤:コンカーでは、「高め合う文化」というキーワードを軸に、フィードバックの文化を築いてきました。フィードバックというと、上司から部下へのアドバイスとしてのフィードバックがまず思い浮かぶと思いますが、コンカーでは、上から下だけでなく、下から上、横同士、斜めなど、全方向でのフィードバックを実践しています。

日常的なフィードバックに加え、会社としても社員に対してたくさんの調査を行って、社員から会社へのフィードバックを吸い上げる工夫をしています。調査結果が戻ってくると、ここはなんでこんなにポイントが低いのかとか、社長と一緒にチェックしています。答えがなかなか出ないときは、さらにその論点に対し簡単な質問をすることもあります。そういった施策を通じて、社員個人が、また会社全体を高め合っていけたらと考えています。

 

Q&Aセッション

ーー急成長する過程において、スピード感とアグレッシブ感を維持させたい。しかしブレーキをかけるべきところもある。どうやったらスピード感やアグレッシブ感を損なわずにブレーキをかけるというバランスを保てるのか?

長澤:それを聞かれたら嫌だなと思っていました(笑)。メルカリって、ブレーキを掛けすぎるようなルールを敢えてつくらずに、スピード感を持って、アグレッシブにやってきたからこそ成長があったと思っていますが、会社の規模が大きくなると、それだけではどうにもならない。やはり、けん制するときも必要で、ブレーキをかけたいなと思うことなんかはいっぱいあります。

新規事業を立ち上げ、モニタリングしていく過程では、数字を検討したうえで判断するし、私は経営判断の材料となるものを提供するんですけど、最終決定の段階では、経営者・事業責任者がもつ感覚も大切にしてほしいと思います。

定量的な分析だけでは難易度が高いと判断される新規事業でも、メルカリの目指す世界観の足掛かりになるからやるわけで、プロダクトを開発している人たちの感覚や、会社のビジョンなどを織り交ぜて考えるべきです。

その世界観を共有しながら、どこまで引っ張れるのかが私の仕事。株主に説明するときに納得していただくことが一番だから、そこには誠実でありたいと思っています。

ーーこれは自社独自といえるような、人事や評価制度を教えてほしい。

金澤:人事制度をつくるときに、ジョブグレードの定義として、「育成の視点」を入れました。例えば新卒だとジョブグレードは、自分で勉強することがメインになると思いますが、先輩であれば後輩を育成していくといった視点、マネージャークラスなら部門全体の視点など、一つ一つ定義しました。

それから目標設定するときに、4年後にどうなりたいかを書いてもらうようにしています。キャリアアップだけでなく、どういう人間になりたいのか。自分の将来的なゴールを考えることで、今何をすべきなのかを考えてもらうきっかけにと思っています。

長澤:評価でいえば、やはり先ほども挙げた3つのメルカリバリューです。OKRといった目標設定もやりますが、一方でバリューを生み出せているかという視点でも評価しています。

篠田:ほぼ日の場合、制度自体は普通です。「事実が先、ルールが後」という考えを大切にしていて、制度ではなく組織風土に特徴があると思っています。なりたいチームのイメージが、例えば海の中の小魚の大群みたいに、一個一個は弱くて力がないんだけど、集団でばーっと動いたときに大きなトルネードになるようなもの。そのために気を使っていることはあります。

一番大事なのは先にも話した「水曜ミーティング」。それからウェブサイトで糸井が毎日更新している「今日のダーリン」。それの蓄積ですね。びしっと情報系統が決まっているというよりは、社内にじわっと浸透していく感じです。

それから、4カ月に1回、くじ引きで席を全とっかえするんです。私からすると経理担当者が近くにいるほうが仕事は効率的ですが、今の私たちには経理部門の連携よりも、会社全体の一体感のほうが大事なので。

ーー会社が若く、ロールモデルとなるような人材がいない。その場合の目標設定は?

篠田:自問自答しかないと思います。ただ一つ私がやっていることがあるとするならば、社外とのつながりを広げること。今日のようなイベントがあったら、一緒に行こうと誘って、他社の管理部門の人たちと交流することで、自問自答の材料を幅広く共有したいと思っています。

長澤:自分にもロールモデルという考え方はないのですが、山田(会長兼CEO)の立場になって考えないといけないとは思っています。自分の軸だけで物事を判断するんじゃなくて、ひとつ上のレイヤーで判断している経営者視点でもう少し想像力を働かせると、成長になると思いますね。

 

バックオフィスヒーローたちは、交流の場を求めている

パネルディスカッション終了後には、同会場にて懇親会が行われました。大盛り上がりの会場では、パネリストの方々に、直接尋ねる参加者が多くいました。参加者同士でも情報交換やアドバイスをしあい、このミートアップから次々と新しい価値が生み出されていく予感がします。

懇親会やアンケートなどで参加者からいただいたフィードバックには、以下のようなものがあります。

  • 「自身も成長過程にある会社に所属しているので、トップの意向をどのように伝えるのかなど、同じ課題を抱えているので勉強になりました。真似できないかもしれませんが、特にメルカリさんのバリューの徹底は素晴らしいと思いました(IT/女性)」
  • 「バックオフィスから、どう戦略を立てていったらいいのかが分からなかった。でも話を聞いて、経営者の夢を実現するために自分にもできることがあるとヒントが得られた(製造業/男性)」
  • 「自分の担当部門以外の、バックオフィスの方々と話す機会はめったにない。だからすごく勉強になりました(制作/男性)」
  • 「バックオフィスのヒーローにどんどんスポットライトを当ててほしい(スタートアップCFO/男性)」

イベント当日は、本メディア「Back Office Heroes (バックオフィス・ヒーローズ)」の開設日でもあり、編集長の野田からは、メディアの趣旨説明と紹介を行いました。優秀で意欲的な管理部門が活躍する場をもっともっと広げていくために、次に取材してほしいヒーロー、ミートアップで取り上げてほしいトピックを推薦してくださいとお願いしました。

 

5月16日には第2回ミートアップ「働きがいのある会社の作り方」を開催します。2018年の働きがいのある会社ランキングの企業規模別で各1位の企業に、根掘り葉掘り聞くチャンスです。ご参加をお待ちしております。

 

執筆・吉川ゆこ/撮影・柿野拓/企画編集・野田洋輔