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第5章:AIエージェントと人の共創 ― データが導く新しい経理財務の姿

SAP Concur Japan |

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AIエージェントが本格的に普及し、SaaS が“AIの動作基盤”として機能するようになると、経理財務部門の役割は大きく変わっていきます。
「過去の数字を正しく集める」ことが中心だったこれまでの経理から、「データを読み解き、未来の意思決定を支援する部門」 への変化です。

この変化を支えるのが、AIエージェントと SaaS の融合によって生まれる“人とAIの共創モデル”です。

AIがもたらす「予測型経理」

従来の経理は、発生した事実の記録と集計が主な役割でした。AIエージェントを使うと、過去蓄積したデータから、将来のリスクや機会を先回りして提示することもできるようになります。

例えば、

  • 支出データから来月の“支出超過リスク”を予測 
  • 為替・資材価格の変動からキャッシュフローへの影響を算出 
  • 部門ごとの人件費・交通費を分析し、削減余地を可視化 
  • 請求処理の遅延傾向から、資金繰りの悪化リスクを早期警戒 

これらの分析は、担当者が複雑なシートを作り込まなくても、 SaaS に蓄積されたデータを AI が自動的に読み取り、瞬時に算出することができるのです。さらに、AIは「なぜその予測になるのか」「どの要因が影響しているのか」 まで説明します。

AI は自動化のためのロボットではなく、意思決定を共に行う“共同分析者”にもなっていくのです。

人が担うべき “最後の判断” とガバナンス 

AIエージェントが高精度な予測を行えるようになっても、最終的な判断は人が行う必要があります。理由は次の 3点です。

  1. AIは数値的に最適でも、企業文化に適さない判断を提案する場合がある 
  2. 倫理・ガバナンスの観点で、AI任せにできない判断が存在する 
  3. 最終判断には、人の経験・直感・戦略的意図が不可欠 

Netflixでも、AI が作品企画や需要予測を提示しても、 最終的に作品を採用するのは人間のクリエイターであることが知られています。

経理財務も同様で、 AIが提案するコスト最適化案や予測は、 最終的に 「実行するか、どの程度実行するか」 を人間が判断しなければなりません。AI は『数値で語り』、人は『意図で導く』のです。
これが AI 時代の経理財務における新しい役割分担となります。

データ文化の定着こそ、AI活用の真のカギ 

AIは人の仕事を奪う存在ではなく、組織の知識と判断力を拡張するために使いこなすもの、と捉えると、より良い使い方につながるのではないでしょうか。使いこなすとはすなわち

  • データを共有
  • 分析結果を判断に活かす
  • 改善のサイクルを回し続ける 

こうした『データを元に判断する文化』に基づく行動がそれにあたります。こういった文化が組織の当たり前になることで、AI は最大限の価値を発揮することができるのです。前章までで例に挙げたSHEIN や Netflixも、 AIを動かすためのデータ基盤を整えるだけでなく、それを使いこなす文化も育てていました。

経理部門においても、データの整備とあわせて、 『データで語り、データで判断する』文化 を育てることは欠かせないでしょう。 

第5章まとめ:AI と共に成長する経理財務部門へ 

AIエージェントの登場は、経理財務部門の役割を根本から変えていきます。手作業中心の業務は AI が引き継ぎ、人はデータをもとに未来を描く役割へと移行、SaaSは正しいデータを蓄積して、 AI と人の協働を支える 知的インフラとなっていきます。

AIがもたらすのは、経理の終わりではなく、 経理財務がより戦略的な役割を果たすための新しい始まりであると考えます。

次章では、こうした AI 活用の考え方を経理財務領域で実装している具体例として、 コンカー の取り組みを紐解きます。
SHEIN・Netflix に共通する「AIが学べるデータ基盤」を、経理領域でどのように実現しているのかを詳しく見ていきましょう。

第6章はこちらから!(第6章が最終回!)

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参考出典(第5章) 

  • Cockcroft, S. (2018). Big Data Opportunities for Accounting and Finance. Wiley. 
     
  • Ibrahim, A. (2021). The Convergence of Big Data and Accounting. SSRN. 
     
  • Foidl, H. et al. (2023). Data Pipeline Quality: Influencing Factors. arXiv. 
     
  • Harvard Business Review (2021). How Netflix Uses Analytics to Make Multimillion-Dollar Decisions. 
     
  • Forbes China (2023). SHEIN’s Data-Driven Manufacturing Model.
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経理・財務部門で AI を最大限に活かすために欠かせないのは、データの整備と継続的な蓄積です。ただ、その基盤を自社で構築することは容易ではありません。すでに複数のシステムが混在し、入力者も多く、業務フローが部門ごとに異なる、という企業も多いでしょう。このような場合、統一されたデータ形式を保ちつづけること自体が大きな負担となります。
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ここからは、第2章で触れた「見えないデータの壁」がどこに潜んでいるのか、そしてどのように乗り越えるべきかをご紹介しましょう。 AI活用を阻む最大の障壁は、技術の高度さではありません。 障壁は、第2章の最後でも触れた通り、データ基盤の整備が進んでいないこと=「社内データがAIの“燃料”として使える状態になっていない」 という、「見えないデータの壁」にあります。 多くの企業がAI導入を検討する際、こ
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