出張・経費管理トレンド

第4章:SaaS の進化と AI エージェント時代 ― データを『資産』に変える第一歩

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第3章では、経理財務部門がAI活用において越えるべき『データの壁』についてお話ししました。

経理・財務部門で AI を最大限に活かすために欠かせないのは、データの整備と継続的な蓄積です。ただ、その基盤を自社で構築することは容易ではありません。すでに複数のシステムが混在し、入力者も多く、業務フローが部門ごとに異なる、という企業も多いでしょう。このような場合、統一されたデータ形式を保ちつづけること自体が大きな負担となります。

この課題を解消してきたのが、これまでの SaaS(Software as a Service)です。

SaaS は単なるクラウドアプリケーションではなく、データを一貫した形式で収集し、整える“仕組み”そのものとして進化してきました。ここ最近のAIエージェントの普及によって「SaaSは不要になるのでは?」という論調も聞かれるようになりましたが、実際にはその逆ではないでしょうか。
AI が高度化するほど、安全で正確なデータが永続的に蓄積される環境=SaaS の重要性はむしろ高まっていくと考えられます。

SaaS は AI の『データ母艦』に

AIエージェントがどれほど賢くても、学ぶためのデータが整っていなければ何もできません。 
企業活動に関するデータを安全に保管し、アクセス権限を管理し、履歴を残し、統一された形式で蓄積できる仕組み──これを担うのが SaaS です。つまり、AIエージェントは SaaS を『置き換えるもの』のではなく、SaaS の中に組み込まれる形で進化していきます。
実際、次のような変化が現れ始めています。

1️⃣ SaaS × AIエージェントの融合 

たとえば、経理担当者が SaaS に向けて 
「今月の交通費で異常値がある部署を教えて」 
と自然言語で指示するだけで、 AIエージェントが SaaS 内のデータにアクセスし、異常分析とレポート生成を自動で行います。人が複雑な画面操作を覚える必要はなくなります。

2️⃣ 『クリック操作』から『会話操作』へ 

これまでの SaaS は、ユーザーが画面をクリックしながら操作する前提で設計されていました。 
しかし将来的には、AIエージェントが SaaS 上の操作を代行していくので、ユーザーは 「聞く・指示する」 だけで業務が完結する世界が到来します。図形 

3️⃣ データの自動クレンジング 

AIエージェントは SaaS 上のデータを監視し、 

  • 重複 
  • 入力ゆれ 
  • 不整合 
  • 欠損 

といった問題を検知して自動で補正するようになります。これにより、SaaS 全体のデータ品質が『勝手に維持される』状態が実現するでしょう。

SaaS がもたらす「データ資産化」の3つの効果 

SaaS を導入することで、経理・財務データは次の 3つの変化を遂げると思われます。

1️⃣ データの自動収集と統一 

請求書、経費、旅程、発注などのデータが自動的に取得され、 フォーマットが標準化される。 AI が学習しやすい“構造化されたデータ”が日々蓄積されていく。 

2️⃣ リアルタイム分析 

クラウド上にデータが集約されるため、 レポートや可視化はリアルタイムで自動生成される。 AIエージェントは異常傾向やリスクを即座に検知し、 担当者にアラートを出す。 

3️⃣ 未来予測への活用 

過去データが統一形式で揃っていることで、 AI は支出、キャッシュフロー、部門別のコスト推移などを予測し、 経営の意思決定を支援できる。 SaaS は、単なる業務効率化ツールではなく、 『AIが価値を生み出すためのデータ母艦』へと進化していく。

第4章まとめ:AI時代のSaaSは“消える”のではなく“基盤”になる 

SHEIN や Netflix が整えたような 『クリーンデータが絶えず蓄積される環境』 がなければ、AIは本当の価値を発揮できません。 経理・財務の領域でも同様に、 SaaS は AIエージェントの動作環境として進化し、 企業全体のデータを学習のサイクルにのせるための『AIネイティブ基盤』になっていくことが重要です。

次章では、この SaaS と AIエージェントの融合が、 経理財務部門の働き方をどのように変え、 『人とAIの共創モデル』をどのように実現するのかを掘り下げていきます。

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参考出典(第4章) 

  • USU (2024). What is SaaS Management? Benefits, Challenges, and More. 
     
  • Aptemiz (2024). How SaaS Technology is Transforming Cost Management. 
     
  • ArtsylTech (2023). 7 Cost-Saving Benefits of SaaS. 
     
  • Wired (2023). Shein’s Secret Algorithm: How It Uses AI to Outpace Fashion Trends. 
     
  • Netflix Tech Blog (2022). Personalized Recommendations at Netflix. 
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AIエージェントが本格的に普及し、SaaS が『AIの動作基盤』として機能するようになると、これまでの「過去の数字を正しく集める」経理財務部門から、「データを読み解き、未来の意思決定を支援する部門」へと、経理財務部門の役割は大きく変わっていきます。 この変化を支えるのが、AIエージェントと SaaS の融合によって生まれる『人とAIの共創モデル』です。
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ここからは、第2章で触れた「見えないデータの壁」がどこに潜んでいるのか、そしてどのように乗り越えるべきかをご紹介しましょう。 AI活用を阻む最大の障壁は、技術の高度さではありません。 障壁は、第2章の最後でも触れた通り、データ基盤の整備が進んでいないこと=「社内データがAIの“燃料”として使える状態になっていない」 という、「見えないデータの壁」にあります。 多くの企業がAI導入を検討する際、こ
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ここから、AIを活用して飛躍的に成長した企業の代表例として、SHEIN と Netflix をあげてご紹介していきます。 両社はまったく異なる業界に属しているにもかかわらず、「膨大なデータを整備し、AIに学ばせることで意思決定を最適化している」という共通点を持っています。成功の核心は、派手な技術そのものではなく、地道な「データマネジメントへの執念」にあるのではないでしょうか。
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