出張・経費管理トレンド

第2章:SHEIN と Netflix に学ぶ、AIによる『データドリブン成長』

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ここから、AIを活用して飛躍的に成長した企業の代表例として、SHEIN と Netflix をあげてご紹介していきます。
両社はまったく異なる業界に属しているにもかかわらず、「膨大なデータを整備し、AIに学ばせることで意思決定を最適化している」という共通点を持っています。成功の核心は、派手な技術そのものではなく、地道な「データマネジメントへの執念」にあるのではないでしょうか。

SHEIN:リアルタイムデータで市場変化を先読みする 

中国発のファッションECプラットフォームである SHEIN は、AIを活用した高速サプライチェーンにより世界的な成長を遂げた企業の1つです。
公開情報によれば、SHEIN は SNS 上の投稿、検索トレンド、購買履歴、クリックデータなどをリアルタイムに収集し、「どの商品が次に売れるのか」をAIが予測する仕組みを構築しています。

この予測結果をもとに、SHEIN は少量生産 → 反応に応じて即時再生産という柔軟な生産モデルを実現しており、従来のアパレル企業が 3〜6か月かけていた商品企画〜販売までのプロセスを、3〜5日まで短縮したそうです。

この高速性を支えているのが、製品・在庫・生産・顧客データを一元管理する独自のデータ基盤です。工場パートナーの生産状況や在庫もシステムと直結しており、現場で発生する小さな変動さえリアルタイムに本社へ共有されます。このデータ主導のオペレーションによって「何を、いつ、どれだけ作るか」という経営判断が、現場レベルで自動最適化され、過剰在庫を抑制しつつ、トレンドの波を逃さない俊敏な意思決定構造を実現しています。

つまり、SHEIN の強みは、「AIを導入したこと」ではなく、AIが学べる環境を維持し続けていることにあると言えます。
日々整えられる大量のデータこそが、AI の予測精度を支える燃料になっていると考えられます。

Netflix:パーソナライズを支える『データ学習の循環』

Netflix もまた、AI とデータを組み合わせて成長してきた企業です。
同社は2000年代初頭から、視聴履歴や評価、再生時間、視聴デバイス、時間帯、途中離脱タイミングなど、ユーザー行動データを継続的に収集・分析してきたと言われています。

これらのデータをAIモデルが統合的に学習し、ユーザーごとに「次に視聴すべき作品」を提案する仕組みを構築し、公開データによると、Netflix の視聴の 80%以上がこの推薦に基づいているとされ、AIレコメンドは同社の成長を支える中心的な機能になっていると言われています。

さらに Netflix は、単にデータを蓄積するだけではなく、社内に大規模な実験プラットフォームを構築し、A/B テストを毎週数百件の単位で実施しているようです。その結果をモデルの改善に反映し、またデータを増やし、さらに精度を上げるという 「データ → 実験 → 改善 → 再学習」 の循環を文化として根付かせています。

Netflix の真の強みは、AIモデルそのものではなく、この 継続的な学習サイクルを企業文化として成立させた点にあると言えるでしょう。

共通点 ― AIが活躍するのは“整ったデータ”の上 

SHEIN と Netflix。 
業界も規模もビジネスモデルも異なりますが、AI活用に成功した両社には次の 3つの共通構造があります。

  1. 継続的なデータ収集 ー膨大な行動データ・在庫データを、例外なく収集し続ける。 
  2. データの統一フォーマット化 ー人が入力したり、部門ごとで形式が異なったりしないよう極力ルール化する。 
  3. 分析・学習サイクルの自動化 ーSHEIN は需要予測と生産計画、Netflix はレコメンド精度の改善に自動的に循環が組み込まれている。 

この基盤があるからこそ、SHEIN はトレンドを逃さず、Netflix は顧客の嗜好変化に先回りできているのでしょう。

一方で、データが散在し、品質が揃っていない企業では、同じAIを導入しても十分な成果は期待できません。
AIの精度を決めるのは、モデルの優劣以上に、「AIに渡すデータがどれだけ信頼できるか」です。

経理・財務部門への示唆 ― データを整えない限りAIは動かない 

経理・財務の現場にも、SHEIN と Netflix の事例から大きな示唆が得られます。
経費、請求、支払、予算、キャッシュフローなど、経理財務部門には多様なデータが蓄積されていいますが、現状では以下のような状態が起きている企業も多いのではないでしょうか。

  • システムや部門ごとにフォーマットが異なる 
  • データが散在し、一元的に扱えない 
  • 入力方法によって品質にばらつきが出る 

この状態では、AIが自動仕訳や異常検知・予測を行っても精度は上がりません。

SHEIN のように「情報がリアルタイムに整う」状態、Netflix のように「データが継続的に学習される」環境がなければ、AIは正しく機能することができません。 つまり、AI導入の前に取り組むべきは、社内データを“AIが理解できる形”に整えることであり、これこそが経理DXの最初のステップです。 

第2章まとめ:AIを動かすのは“人”ではなく“整ったデータ” 

SHEIN と Netflix の成功要因が「AIを導入したこと」ではないということは、ここまででご理解いただけたのではないでしょうか。AI導入の前段として、「AIが学習できるだけのデータ環境を徹底して整備したこと」が成功の要因です。

  • SHEIN は世界中のユーザー行動データをリアルタイムに収集・分析し、超高速サプライチェーンを構築した。 
  • Netflix は膨大な視聴データを継続的に整備し、パーソナライズされた顧客体験を提供し続けている。 

これらのことからわかるように、両社は AI を「自動化ツール」ではなく、「学習する仕組み」として扱っています。

経理財務領域でも同じです。
AIによる自動仕訳、異常検知、キャッシュフロー予測を実現するためには、まず社内のデータを「きれいで一貫した形式」に整備する必要があります。 AI活用を阻む最大の障害は、このようなデータ基盤を整えることにあると言えるでしょう。

では、現実の経理財務部門ではなぜ「整ったデータ基盤」が存在しないのでしょうか。

次章では、この“見えないデータの壁”がどこに潜んでいるのか、そしてどのように乗り越えるべきかを詳しく解説していきます。

第3章はこちらから!

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参考出典(第2章関連) 

  • Wired (2023). Shein’s Secret Algorithm: How It Uses AI to Outpace Fashion Trends. 
     
  • Forbes China (2023). SHEIN’s Data-Driven Manufacturing Model. 
     
  • Netflix Tech Blog (2022). Personalized Recommendations at Netflix. 
     
  • Harvard Business Review (2021). How Netflix Uses Analytics to Make Multimillion-Dollar Decisions. 
     
  • arXiv (2019). The Netflix Experimentation Platform: A/B Testing and Causal Inference at Scale. 
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ここからは、第2章で触れた「見えないデータの壁」がどこに潜んでいるのか、そしてどのように乗り越えるべきかをご紹介しましょう。 AI活用を阻む最大の障壁は、技術の高度さではありません。 障壁は、第2章の最後でも触れた通り、データ基盤の整備が進んでいないこと=「社内データがAIの“燃料”として使える状態になっていない」 という、「見えないデータの壁」にあります。 多くの企業がAI導入を検討する際、こ
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