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裁量労働制とは?そのメリットやデメリット、導入手順などを詳しく解説

SAP Concur Japan |

働き方改革が進む中、柔軟な労働時間制度として注目を集める裁量労働制。しかし、その導入には慎重な検討が必要です。実際の労働時間に関係なく、あらかじめ定められた時間働いたものとみなされるこの制度は、従業員の自律性を重視する一方で、適切な労務管理も求められます。本記事では、裁量労働制の基本的な仕組みから、導入のメリット・デメリット、導入手順や注意ポイントまで詳しく解説します。

働き方改革について詳しくは「ITを活用する働き方改革とは_推進のメリットや成功事例を解説」をご覧ください。

質問:
裁量労働制とは何でしょうか?

回答:
裁量労働制とは、労働基準法38条に定められた「みなし労働時間制」の一つで、労働時間の算定を実際の勤務時間ではなく、あらかじめ企業と労働者間で決められた時間で定める制度です。

給与は実際の勤務時間に関係なく、事前に定めた「みなし労働時間」を働いたものとし、その時間分が支払われるのが特徴です。
具体例を挙げると、1日8時間と定められた場合、実際の勤務が6時間でも8時間分の給与が支払われます。反対に、10時間働いた場合でも8時間分の給与となります。ただし、健康管理の観点から、労働基準法で定められた勤務時間の上限は順守しなければなりません。

裁量労働制の目的

裁量労働制の主な目的は、従業員の働き方の自由度を高め、生産性と創造性の向上を実現することにあります。従来の時間管理による労働では測れない、専門的・創造的な業務の評価を可能にし、成果主義的な人事評価との親和性も高い制度です。また、長時間労働の抑制や働き方改革の推進といった社会的なニーズにも対応し、ワークライフバランスの実現にも寄与することが期待されています。

生産性向上について詳しくは「【激動の2025年】日本はどう変わるべきなのか?生産性向上に取り組む理由や方法を詳しく解説」をご覧ください。

フレックスタイム制や変形労働時間制との違い

フレックスタイム制や変形労働時間制との大きな違いは、労働時間の管理方法と自由度にあります。

フレックスタイム制では、コアタイムの制約の中で始業・終業時刻を従業員が選択でき、実際の労働時間に応じて給与が支払われます。
変形労働時間制は、繁閑に応じて労働時間を調整する制度で、これも実労働時間での管理が必要です。一方、裁量労働制では、先述したように実際の労働時間に関係なく定められた時間が実際の勤務時間となります。ただし、フレックスタイム制や変形労働時間制と比べて、適用できる職種や導入要件がより厳格に定められています。

労働制の表

裁量労働制のメリット

裁量労働制の導入により、企業と従業員の双方にメリットがもたらされます。

企業側のメリット

企業側の主なメリットは、成果主義による生産性の向上と労務管理の効率化です。実労働時間の管理が不要となり、人事部門の業務負担が軽減されます。また、従業員の創造性や専門性を活かした業務遂行が可能となり、より質の高い成果を期待できます。さらに、多様な働き方が可能となるため、働き方改革への対応や、優秀な人材の確保・定着にもつながり、企業の競争力向上に寄与します。

労働者側のメリット

労働者側は、自己の裁量で仕事の進め方や時間配分を決められる自由度が最大のメリットです。通勤ラッシュを避けた勤務や、集中力の高い時間帯での業務遂行が可能になります。また、育児や介護、自己啓発など個人の生活との両立がしやすくなります。実際の勤務時間に関係なく定められた時間分の給与が保証されるため、効率的な働き方を追求できます。

裁量労働制のデメリット

 裁量労働制には、制度の導入や運用において、企業と労働者の双方にデメリットが存在します。しかしデメリットを十分に理解し、適切な対策を講じることで、制度を効果的に機能させることができます。

企業側のデメリット

企業側のデメリットとして、まず導入時の厳格な要件への対応が挙げられます。労使委員会の設置・運営や、対象業務の明確な特定が必要で、これらの準備に時間とコストがかかります。また、成果の評価基準の設定が難しく、不公平感を生まないような制度設計が求められます。さらに、労働者の健康管理や長時間労働の防止のための新たな管理体制の構築も必要となります。

労働者側のデメリット

労働者側のデメリットは、実際の労働時間が長くなっても定められた時間分の給与しか支払われない点です。また、成果での評価により精神的なプレッシャーが大きくなる可能性があり、自己管理が不十分な場合は長時間労働につながるリスクがあります。ほかにも在社時間が不規則になることで、チームでの業務遂行や情報共有が難しくなる場合も考えられるでしょう。

裁量労働制の対象

裁量労働制は、「専門業務型」と「企画業務型」の2種類があり、それぞれ適用できる業務や職種が法令で定められています。いずれも、業務の性質上、その遂行方法を大幅に労働者の裁量に委ねる必要がある職種が対象となります。導入には労使協定の締結など、厳格な手続きが必要です。また、対象となる労働者本人の同意も必須条件となっており、一方的な適用は認められません。

専門業務型

専門業務型裁量労働制の対象となるのは、高度な専門知識を必要とする業務に従事する労働者です。具体的には、新商品・新技術の研究開発者、情報処理システムの分析・設計、テレビや映画のプロデューサー又はディレクター、証券アナリスト、大学教授、記者、デザイナー、コピーライター、システムエンジニア、士業など20の業務が該当します。

参考:専門業務型裁量労働制について|厚生労働省

企画業務型

企画業務型裁量労働制は、業務が所属する事業場の事業に関する企画、立案、調査、分析を行う業務が対象となります。以下の4つの要件を満たす業務になります。

  • 事業の運営に関するものであること
  • 企画、立案、調査及び分析の業務であること
  • 業務遂行の方法を労働者の裁量にゆだねる必要があると、業務の性質に照らして客観的に判断される業務であること
  • 業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し、使用者が具体的な指示をしないこととする業務であること

例えば、経営企画部門での事業戦略の立案、人事制度の企画、マーケティング戦略の策定などが該当します。

参考:企画業務型裁量労働制について|厚生労働省

裁量労働制を導入するには

裁量労働制を導入するには、どのような適用条件や手順があるのでしょうか。裁量労働制を導入するにあたり、それぞれの型で求められる適用条件や導入までの流れを解説します。

適用条件:専門業務型の場合

専門業務型裁量労働制の導入では、まず労使協定の締結を行う必要があります。協定では、制度の対象業務や対象労働者の範囲、みなし労働時間、健康・福祉を確保するための措置の具体的内容などの以下の事項を定めます。

  1. 制度の対象とする業務(省令・告示により定められた20業務)
  2. 1日の労働時間としてみなす時間(みなし労働時間)
  3. 対象業務の遂行の手段や時間配分の決定等に関し、使用者が適用労働者に具体的な指示をしな いこと
  4. 適用労働者の労働時間の状況に応じて実施する健康・福祉確保措置の具体的内容
  5. 適用労働者からの苦情処理のために実施する措置の具体的内容
  6. 制度の適用に当たって労働者本人の同意を得なければならないこと
  7. 制度の適用に労働者が同意をしなかった場合に不利益な取扱いをしてはならないこと
  8. 制度の適用に関する同意の撤回の手続
  9. 労使協定の有効期間(※3年以内とすることが望ましい)
  10. 労働時間の状況、健康・福祉確保措置の実施状況、苦情処理措置の実施状況、同意及び同意の 撤回の労働者ごとの記録を協定の有効期間中及びその期間満了後3年間保存すること

引用:専門業務型裁量労働制について|厚生労働省

締結後は労働基準監督署への届出を行い、対象労働者本人から同意を得て従業員に周知しなければなりません。

適用条件:企画業務型の場合

一方、企画業務型裁量労働制の導入はより厳格な手続きが求められます。まず労使委員会を設置・運営し、対象業務や対象労働者の範囲、みなし労働時間、健康・福祉確保措置などについて、委員の5分の4以上の多数による決議が必要です。この決議では以下のような事項を定めなければなりません。

  1. 制度の対象とする業務
  2. 対象労働者の範囲
  3. 1日の労働時間としてみなす時間(みなし労働時間)
  4. 対象労働者の労働時間の状況に応じて実施する健康・福祉確保措置の具体的内容
  5. 対象労働者からの苦情処理のために実施する措置の具体的内容
  6. 制度の適用に当たって労働者本人の同意を得なければならないこと
  7. 制度の適用に労働者が同意をしなかった場合に不利益な取扱いをしてはならないこと
  8. 制度の適用に関する同意の撤回の手続
  9. 対象労働者に適用される賃金・評価制度を変更する場合に、労使委員会に変更内容の説明を行うこと
  10. 労使委員会の決議の有効期間(※3年以内とすることが望ましい)
  11. 労働時間の状況、健康・福祉確保措置の実施状況、苦情処理措置の実施状況、同意及び同意の撤回の労働者 ごとの記録を決議の有効期間中及びその期間満了後3年間保存すること

引用:企画業務型裁量労働制について|厚生労働省

上記の決議事項は労働基準監督署への届出が必須となります。その後、対象労働者本人からの同意取得を経て導入となります。また、導入後も6カ月以内に1回、その後1年に1回の定期報告が義務付けられています。

 

どちらの制度も、一度導入したら終わりではなく、定期的な運用状況の確認や見直しが重要です。特に労働者の健康管理については、過重労働を防ぐための実効性のある措置を講じる必要があります。また、制度の趣旨や運用ルールについて、管理職を含む全従業員への周知徹底も欠かせません。

裁量労働制における残業代

裁量労働制においても時間外労働を行った場合は残業代が発生します。以下に残業代が発生する主なケースをまとめています。

みなし労働時間が法定労働時間を超える場合

裁量労働制においても、みなし労働時間が法定労働時間(1日8時間、週40時間)を超える場合は、超過分に対して残業代が発生します。例えば、みなし労働時間を1日9時間と設定した場合、1時間分は時間外労働となり、基本給から計算した時給の1.25倍の割増賃金を、みなし労働時間を9時間と契約した時点で給与に含めて支払う必要があります。

深夜労働の場合

裁量労働制であっても、深夜時間帯(午後10時から午前5時)の労働には、追加の手当が必要です。この時間帯に労働が発生した場合、会社は従業員に対して1時間当たりの基礎賃金の0.25倍の割増賃金を支払わなければなりません。これは、労働者の健康と生活リズムを守るために定められています。

休日労働の場合

法定休日(週1日または4週4日)に労働した場合、1時間当たりの基礎賃金の1.35倍の割増賃金が発生します。一方、会社が定める所定休日労働では原則として割増賃金は発生しませんが、その労働時間が週40時間を超えるか、1日8時間を超える場合は、法定労働時間を超過したものとして1.25倍の割増賃金が必要となることがあります。

裁量労働制を効果的に進めるには

企業側・労働者側にとって多くのメリットがある一方でデメリットも存在する裁量労働制。効果的に裁量労働制を進めるにはどのようなポイントに気を付けるべきでしょうか。

労働者の健康管理を十分に行う

裁量労働制では労働時間の管理が労働者に委ねられるため、健康管理が特に重要です。定期的な健康診断の実施はもちろん、疲労蓄積度のチェックや、産業医との面談機会の確保が必要です。また、労働時間の把握のため、客観的な方法でのログ記録を行い、過重労働の兆候がある場合は速やかに対応します。さらに、管理職による定期的な面談を実施し、業務の悩みや健康状態を確認することで、心身の健康維持を図ります。

業務効率化を進める

裁量労働制を効果的に運用するためには、業務効率化が不可欠です。そのためにまず必要なのが、業務の優先順位付けと、不要な作業の特定です。不要・非効率な業務は長時間労働の原因となり、裁量労働制本来の利点を損なってしまう可能性があります。

この課題を解決する有効な手段として、ペーパーレス化の推進やクラウドツールの活用があります。書類の電子化により情報共有が円滑になり、承認プロセスの簡素化によって業務のスピードが向上します。また、場所や時間に縛られない柔軟な働き方も実現できます。

このように業務効率化を進めることで、従業員は創造的で付加価値の高いコア業務により多くの時間を充てることが可能になります。結果として、裁量労働制の本来の目的である、労働者の自律的な働き方と高い生産性の両立を実現することができます。

裁量労働制を効果的に進めるには業務効率化が必須

裁量労働制は、労働者に柔軟な働き方をもたらし、企業の生産性向上にも寄与する制度です。しかし、労働者の長時間労働や企業の労務管理の難しさなど、運用面での課題も存在します。これらの課題を克服し、制度本来の利点を最大限に活かすためには、業務効率化が重要な鍵となります。

具体的には、業務の優先順位付けや不要な作業の見直し、ペーパーレス化の推進などの具体的な施策により、労働者と企業の双方が裁量労働制のメリットを十分に享受できる環境を整えることができます。

近年は業務効率化を進めるにあたり、多くの企業が最初のステップとして経費精算システムの導入を選んでいます。経費精算は社員の大多数が日常的に行う業務であり、この部分を効率化することで、全社的な業務改善の効果を得られやすいためです。

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