経理・総務の豆知識
固定資産・食事の経費基準引き上げを解説|40万円特例と食事補助7,500円非課税の実務ポイント
はじめに
物価上昇が続くなか、企業の経費処理に直結する金額基準が長年据え置かれてきたことが課題となっていました。基準が実態と合わなければ、固定資産の減価償却事務が増えたり、従業員への食事補助に想定外の課税が生じたりします。
令和8年度税制改正大綱では、少額減価償却資産の取得価額の上限を30万円未満から40万円未満へ、食事の非課税限度額を月額3,500円から7,500円へ、それぞれ見直す内容が示されています。本記事では、これらの経費基準の見直しの背景から改正内容、実務上の注意点までを順に解説します。
税制改正の背景と全体像
物価上昇と基準額見直しの経緯
固定資産の少額減価償却資産の特例や食事補助の非課税基準は、いずれも設定当初の物価水準を前提とした金額でした。しかし近年の物価上昇により、かつては基準内に収まっていたパソコンや備品が基準を超え、全額を経費にできないケースが増えていました。食事補助についても月額3,500円の上限では、実際の食事代をカバーしきれない場面が生じていました。
こうした状況を受け、令和8年度の税制改正では「物価高への対応」が大きな柱の一つに据えられました。物価上昇に連動して基礎控除等を引き上げる仕組みの創設に加え、中低所得者に配慮した所得税の課税最低限の引き上げなど、幅広い対応策が示されています(参照*1)。固定資産や食事の経費基準の見直しも、この物価対応の一環として位置付けられています。
令和8年度税制改正大綱の概要
令和8年度の税制改正大綱は、物価高への対応と「強い経済」の実現という2つの軸で構成されています。大胆な設備投資の促進に向けた税制措置の創設や、賃上げ促進税制の見直し、研究開発税制の強化等を盛り込んでいます(参照*1)。
固定資産に関しては、中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例について、対象となる取得価額を40万円未満へ引き上げるとしています(参照*2)。食事補助については、使用者からの食事の支給に係る非課税限度額を月額7,500円へ引き上げる内容が含まれています(参照*3)。いずれも経費基準の見直しとして企業の実務に直接影響するため、適用時期や要件を正確に把握しておく必要があります。
40万円特例の改正内容
取得価額上限の引き上げ
少額減価償却資産の取得価額の上限を30万円未満から40万円未満へ引き上げる点が、今回の見直しのポイントです。中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例について、対象となる減価償却資産の取得価額を40万円未満に引き上げ、所得税についても同様の扱いとなります(参照*4)。
この見直しにより、たとえば39万円のパソコンや35万円の業務用機器など、これまで複数年にわたって減価償却が必要だった資産を、取得した事業年度に全額経費として計上できるようになります。あわせて特例の適用期限も3年延長することが示されています(参照*4)。中小企業にとっては、設備投資の意思決定を行ううえで選択肢の広がる見直しといえます。
適用対象法人と従業員数要件
この特例はすべての法人が使えるわけではなく、対象となる法人の範囲に要件が設けられています。特例の対象は、中小企業者または農業協同組合等で青色申告書を提出するもののうち、常時使用する従業員の数が500人以下の法人となっています(参照*5)。
なお、通算法人や、中小企業経営強化税制において特定認定を受けた特定事業者等で、その計画に特定機械装置等が記載されているものは対象から除かれます。自社が適用対象に該当するかどうかは、法人の規模や申告形態、認定状況を個別に確認することが欠かせません。
年間合計300万円上限の据え置き
1事業年度あたりの合計限度額には注意が必要です。国税庁は、この特例について、取得価額の合計額が300万円を超えるときは300万円に達するまでの金額が限度となるとしています(参照*5)。
たとえば39万円の資産を購入する場合、1事業年度に全額経費計上できるのは7件程度が上限の目安となります。年度後半に複数の設備投資が重なると合計額を超えてしまう可能性があるため、取得時期と金額の計画的な管理が求められます。
40万円特例の実務ポイント
適用開始日と経過措置
改正後の40万円基準は、適用開始日以後に取得等または事業の用に供した資産から適用されます。適用開始日をまたぐ取得・使用開始のタイミングによって取り扱いが変わるため、適用時期は税制改正に関する法令等で確認が必要です。
この区切りは、年度末をまたぐ設備投資の判断に影響します。決算期との関係も踏まえ、取得と使用開始のタイミングを慎重に見極めましょう。
10万円・20万円基準との使い分け
40万円特例は中小企業者等に限定された制度であり、法人規模や資産の金額帯に応じて10万円・20万円の基準と使い分けることになります。国税庁は、取得価額が10万円未満か20万円未満かの判定について、通常1単位として取引される単位ごとに行っています。具体的には、機械及び装置は1台または1基ごと、工具・器具及び備品は1個・1組または1そろいごとに判定します(参照*6)。
取得価額が10万円未満であればどの法人でも全額損金に算入でき、20万円未満であれば一括償却資産として3年間で均等に償却できます。40万円特例はこれらの基準を超えた資産について、中小企業者等が全額即時の経費計上を選べる仕組みです。資産ごとに取得価額と自社の法人区分を確認し、どの基準を適用するかを判断する流れとなります。
リース資産への適用可否
国税庁は、売買があったものとされるリース資産についても本制度の適用対象になるとしています。ただし、取得価額が10万円以上30万円未満であるなどの一定の要件を満たす必要があります(参照*7)。
今回の見直しで取得価額の上限が40万円未満へ引き上げられる場合、リース資産についても適用範囲が変わる可能性があります。ただし、リース契約の形態によって「売買があったもの」とみなされるかどうかが異なるため、契約内容を個別に精査したうえで適用の可否を判断する必要があります。
食事補助の非課税基準の改正内容
月額7,500円への引き上げ
使用者が負担する食事の非課税限度額は、月額3,500円から月額7,500円へ引き上げられました。税制改正大綱では、使用者からの食事の支給により受ける経済的利益について所得税が非課税とされる使用者の負担額の上限を月額7,500円に引き上げるとしています(参照*2)。
国税庁は令和8年3月31日に法令解釈通達の改正を行い、引き上げ後の非課税限度額7,500円は令和8年4月1日以後に支給する食事について適用されることになりました(参照*8)。これにより、企業が従業員へ提供する食事補助の金額設計を見直す余地が大きく広がりました。たとえば社員食堂の補助額や弁当の支給額を増額しても、要件を満たせば従業員に所得税の負担が生じません。
深夜勤務の夜食代650円への引き上げ
深夜勤務に伴う夜食代についても、経費基準の引き上げが行われました。税制改正大綱では、使用者が深夜勤務に伴う夜食の現物支給に代えて支給する金銭について、所得税が非課税とされる1回あたりの支給額を650円以下に引き上げるとしています。改正前の基準は300円以下でした(参照*2)。
深夜勤務では現物の夜食を用意できないケースも多く、金銭で代替支給する場面が実務上は少なくありません。1回300円では実際の食事代に見合わなかったところ、650円への引き上げにより、コンビニエンスストアでの購入など現実的な食事を非課税の範囲で補助しやすくなります。
食事補助の非課税要件と注意点
2つの非課税要件の詳細
食事の非課税限度額が引き上げられても、非課税の扱いを受けるには2つの要件をどちらも満たす必要があります。役員や使用人に支給する食事について、次の2つの要件を両方満たしていれば給与として課税されません(参照*9)。
- 役員や使用人が食事の価額の半分以上を負担していること
- 食事の価額から役員や使用人が負担している金額を差し引いた額が、1か月あたり7,500円(消費税および地方消費税の額を除く)以下であること
この要件を満たさない場合は、食事の価額から従業員の負担額を差し引いた残額が給与として課税されます。つまり、会社の負担額だけでなく従業員本人の負担割合も管理する必要があり、経理担当者は毎月の集計を正確に行うことが求められます。
現金支給・電子食券の落とし穴
現金や電子食券での支給には、取り扱いに注意が必要です。食事を支給するのではなく現金で食事代の補助をする場合には、深夜勤務者に夜食の支給ができないために1食あたり650円以下の金額を支給する場合を除き、補助する全額が給与として課税されます(参照*9)。
電子食券についても注意が必要です。食券使用時の釣銭を受け取れる場合や、書籍・酒類等の食事以外の商品に利用できる場合は課税対象となります。さらに、勤務日以外の利用や従業員以外の食事代への利用が制限されていない場合も同様に課税されます(参照*10)。電子食券を導入する際は、用途制限や利用日の管理機能が備わっているかを事前に確認しておくことが欠かせません。
おわりに
令和8年度税制改正大綱では、固定資産の少額減価償却資産の経費基準を40万円未満へ見直すことや、食事補助の非課税基準を月額7,500円へ引き上げることが示されています。深夜勤務の夜食代も1回650円以下に拡充されています。
食事の非課税限度額(7,500円)と深夜勤務の夜食代(650円以下)は、令和8年4月1日以後に支給する食事等から適用されます。経費規定や福利厚生制度を改正内容に合わせて見直し、適用要件を満たしているか確認することで、税務リスクを抑えながら制度を運用できます。
参照
(*1) 財務省 – 令和8年度税制改正の大綱の概要 : 財務省
(*2) 令和8年度税制改正の大綱
(*3) 令和8年度税制改正の大綱(令和7年 12 月 26 日閣議決定)(抄)
(*4) 財務省 – 令和8年度税制改正の大綱(3/9) : 財務省
(*5) No.5408 中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例
(*6) 第2款 少額の減価償却資産等|国税庁
(*7) 中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例(措法67の5)の適用対象資産の範囲について(リース資産)|国税庁
(*8) 食事の現物支給に係る所得税の非課税限度額の引上げについて|国税庁
(*9) No.2594 食事を支給したとき
(*10) 経済産業省:従業員に対して行う食事支給に係る税務上の取扱いについて