経理・総務の豆知識
新リース会計基準対策とは?2027年適用に備える実務の進め方
はじめに
新リース会計基準は、2027年4月1日以後に開始する事業年度から強制適用されます。本記事では、新基準による財務・実務への影響と、適用に備えて進めるべき対策を解説します。
- 契約名称ではなく、資産を使用する権利の実態に基づいて対象を判定します。
- 使用権資産とリース負債の計上により、財務指標にも影響が及びます。
- 契約の棚卸し、影響額の試算、業務プロセスとシステムの整備を順に進めます。
新リース会計基準の全体像と2027年適用スケジュール
新基準策定の背景とIFRS第16号との関係
新リース会計基準は、国際的な会計基準との整合性を確保する流れの中で公表されました。
国際会計基準審議会は2016年1月にIFRS第16号「リース」を公表し、米国財務会計基準審議会も同年2月にTopic 842「リース」を公表しました。両基準は借手の費用配分の方法に違いはあるものの、使用権資産とリース負債を計上する使用権モデルにより、オペレーティング・リースを含むすべてのリースをオンバランス化することを求めています(参照*1)。
この国際的な流れを受け、企業会計基準委員会は財務諸表の国際的な比較可能性を高める観点から、IFRS第16号を踏まえて日本の会計基準を改正しました(参照*1)。
新基準の目的は、財務諸表の国際的な比較可能性を高めることにあります。
強制適用と早期適用の時期
新リース会計基準の適用時期は、強制適用と早期適用の2段階で整理されています。
国税庁によると、新リース会計基準は令和9年4月1日以後に開始する事業年度の期首から適用されます。令和7年4月1日以後に開始する事業年度の期首からの早期適用も認められました(参照*2)。
強制適用は2027年4月1日以後に開始する事業年度からであり、準備が整った企業は2025年4月1日以後に開始する事業年度から早期適用が可能です。適用対象は、上場企業・会社法上の大会社・連結財務諸表を作成する企業などが中心となります(参照*3)。
この二段構えにより、決算実務の負荷を平準化できます。自社の決算期と準備状況を突き合わせ、どちらの時期から適用するかを早めに判断することが対策の起点になります。
適用対象となる企業と契約範囲
適用対象は企業の属性だけでなく、契約の実態にも及びます。
適用対象は、上場企業・会社法上の大会社・連結財務諸表を作成する企業などが中心となります。加えて、契約書に「リース」と記載がなくても、特定の資産の使用を支配する権利が一定期間にわたり対価と交換に移転する契約は、リースとして識別される可能性があります(参照*3)。
そのため、契約名称ではなく実態に基づく判定が必要です。事務所の賃貸借、車両、複合機、サーバー、店舗設備などの契約についても、リースの定義に該当するかを個別に確認することが求められます。
対象範囲の洗い出しには注意が必要であり、法務・購買・経理が連携して契約を横断的に点検する体制づくりが、実務対策の入口となります。
オンバランス化がもたらす財務・実務への影響
使用権モデルと仕訳の変化
新基準では、借手のリース会計処理が単一のモデルに集約されます。
借手については、これまでのオペレーティング・リース(賃貸借取引に準じた会計処理)とファイナンス・リース(売買取引に準じた会計処理)の区分を廃止し、使用権資産とリース負債を計上する単一の会計モデルを採用しなければなりません(参照*2)。
新基準では、リース開始時に「使用権資産」と「リース負債」をB/Sに計上し、期間中は「減価償却費」と「支払利息」に分けて費用処理を行います(参照*3)。
リース負債は未払リース料の現在価値として計算され、割引率には貸手の計算利子率または借手の追加借入利子率を用います(参照*1)。
従来は賃借料として一括で処理していた費用が、減価償却費と支払利息に分かれる点が大きな違いです。仕訳の設計、勘定科目の追加、月次計算の運用まで、経理側の準備が広範囲に及びます。
B/S・P/L・CFへの主なインパクト
オンバランス化は、財務三表のすべてに影響を及ぼします。
オペレーティング・リースについても使用権資産とリース負債が新たに計上されるため、総資産と総負債が同時に増加します。自己資本の金額自体は変わらないものの、総資産の増加により自己資本比率やROA(総資産利益率)といった財務指標が低下する可能性があります(参照*3)。
P/Lでは、支払リース料ではなく「支払利息」と「減価償却費」が費用として計上されます(参照*1)。
こうした変化は、業績評価や予算管理の指標にも波及します。管理会計の設計を新基準に合わせて見直すことが、対策の中心になります。
ROAショック・自己資本比率低下と2027年問題
財務指標の変動と実務負担の増加が、いわゆる2027年問題の中身です。
新基準の下では、総資産の増加によってROA(総資産利益率)や自己資本比率が低下する可能性があります。一方、従来の支払リース料が減価償却費と支払利息に分かれるため、EBITDAは上昇する可能性があります。
新リース会計基準で特に注意が必要なのは、適用開始後に締結する新規契約だけでなく、すでに契約済みのリース取引にも適用(遡及適用)される点です。現行基準でオフバランス処理してきた既存のオペレーティング・リースも、適用開始日時点で残っている契約は使用権資産・リース負債として計上し直す必要があります(参照*3)。
PwCの調査では、回答企業の55%がIFRS第16号の導入に伴う課題は想定外だったと回答しました(参照*4)。
既存契約の洗い直しと並行して、経営陣への説明資料を整えることが対策の一部となります。
実務対策の進め方と押さえるべき論点
契約棚卸しとリース識別
対策の第一歩は、社内に散在する契約を集めてリースに該当するかを判別することです。
早期に着手すべき準備は「契約の棚卸し」「影響額の試算と会計方針の決定」「業務プロセス・システムの整備」の3つです(参照*3)。
特に全社的な契約の洗い出しと影響額の試算は工数を要する可能性があるため、早期の着手が円滑な移行につながります。
不動産、車両、機器、ITインフラなど契約の種類は多岐にわたるうえ、部門ごとに保管場所が違うことも珍しくありません。棚卸しの段階で契約書の集約先を一本化し、リース識別のチェックリストを整備しておくと、その後の作業効率が変わります。
少額リース・短期リースの例外規定と判定基準
新基準には、実務負担を軽減するための例外規定が設けられています。
少額リースは、適用指針が定める簡便的な取扱いの対象となるリースです。例えば、重要性が乏しい減価償却資産について自社が採用している費用処理基準額以下のリース、または企業の事業内容に照らして重要性が乏しく、かつリース契約1件当たりの金額にも重要性が乏しいリースが該当します。後者の方法では、従来の実務上の目安であるリース契約1件当たりのリース料総額300万円以下を踏襲する趣旨とされています。なお、後者の方法を選択した場合は、その方法を首尾一貫して適用する必要があります(参照*3)。
短期リースについては、購入オプションを含まず、リース開始日における借手のリース期間が12か月以内のリースであれば、オンバランス処理を適用しない簡便的な取り扱いが認められています(参照*5)。
国税庁は、新リース会計基準において重要性の乏しいリースにつき、借手のリース料を借手のリース期間にわたって原則として定額法により費用として計上できることを踏まえ、リース資産の賃借費用の額のうち賃借料以外の費目で損金経理をした金額についても「償却費として損金経理をした金額」に含まれることとしました(参照*2)。
税務上は、オペレーティング・リース取引の支払額について、債務が確定した部分を各事業年度の損金に算入する取り扱いが示されています。会計と税務の差異を踏まえた管理が必要です(参照*6)。
300万円の目安をどう自社に落とし込むかは、対策の分かれ道になります。判定基準の設定は監査法人との協議を経て、経理規程に明文化しておくと運用が安定します。
影響額試算と会計方針の決定
棚卸しの後は、数値で影響を見える化し、方針を確定させる段階に進みます。
洗い出した契約情報をもとに、使用権資産・リース負債の計上額を試算し、B/S・P/L・CFへの影響を数値で把握します。試算結果を踏まえたうえで、割引率の算定方法や少額リースの定量基準の選択など、自社の会計方針を決定します(参照*3)。
会計方針を明確に定義し、経理規程や職務権限規程へ反映することも欠かせません。
監査法人と事前に協議し、会計方針やシステム上の処理が基準に適合しているかを確認します。
試算結果は経営指標の変動幅を示す資料でもあり、資金調達や株主対話の準備にも直結します。
業務プロセスとシステム整備
日々の運用に対応する体制整備も必要です。
新基準に対応した業務プロセスの構築と、システムの導入・改修を進めます。リース開始時の資産・負債計上、毎月の減価償却・利息計算、契約変更時の再見積りといった処理を正確かつ継続的に行うには、手作業だけでは限界があります。固定資産管理システムやリース管理専用システムの導入を検討し、適用開始日までに運用テストを完了させるスケジュールを立てる必要があります(参照*3)。
PwCの調査では、半数以上の企業がスプレッドシートを利用しており、40%近くが今後24か月以内に新しいITソリューションの導入を予定していました(参照*4)。
リース資産管理システムの導入や、既存の会計システム・ERPの改修は早期に検討する必要があります。
日本公認会計士協会も、新リース会計基準では借手の原則的な会計処理が変更され、適用対象となる契約の把握が重要になると解説しています(参照*7)。
おわりに
新リース会計基準への対策は、契約の棚卸し、影響額の試算と会計方針の決定、業務プロセス・システムの整備という3つの段階を、2027年4月の強制適用に間に合う形で組み立てることが要になります。遡及適用により既存のオペレーティング・リースも対象となるため、契約の全体像を早期に把握し、監査法人との協議を重ねながら会計方針を固める流れが現実的です。
Excelだけに頼った運用では、月次の減価償却や再見積りに耐えづらい局面が出てきます。リース管理システムやERPの改修を検討し、日々の業務に落とし込める体制を整えることが求められます。
参照