経理・総務の豆知識
データ分析基盤を経理に整備するには?支出を多軸で可視化する方法
はじめに
経理におけるデータ分析基盤とは、会計や経費、購買などの支出情報を集約し、目的や場所、時期といった複数の切り口で見える化する仕組みです。科目単位の集計では見えにくかった支出の実態を捉え、規定改定やコスト最適化につなげられます。
- 転送・収集から活用までの機能を経理の実務に紐づけて設計しましょう。
- 目的・場所・時期などの分析軸を先に決めてから基盤を構築しましょう。
- 経費・請求・購買のデータを統合し、単一のダッシュボードで多軸に可視化しましょう。
- 要件定義、データ品質、定着とガバナンスを段階的に整えましょう。
経理におけるデータ分析基盤の定義
データ分析基盤の全体像
データ分析基盤は、経理が扱う支出情報を集めて整え、活用できる状態にするための一連の仕組みです。
独立行政法人情報処理推進機構は、データ活用基盤に必要な機能として、転送・収集、保管、整形、蓄積、活用の五つを挙げました。転送・収集はデータ元のシステムや機器を管理し、生成されたデータを取り込む機能です。
保管は取り込んだ生のデータをそのまま保持する役割を担い、整形は扱いやすい形に加工する工程を指します。蓄積は加工済みデータを保持し、活用は分析や可視化などの目的で使う機能です(参照*1)。
経理の視点で言い換えると、会計システムや経費精算、請求書処理から出るデータを集め、勘定科目以外の項目も含めて整え、分析しやすい形に貯める流れになります。担当者は個々のツールに散らばる情報を、一つの土台の上で扱えるようになります。
会計システムとの役割の違い
会計システムとデータ分析基盤は、担う役割が異なり、互いを補い合う関係にあります。
会計システムは仕訳や集計、決算処理を正確に行うことを目的とします。会計システムが記帳と集計の正確さを守るのに対し、データ分析基盤は集計後のデータを多軸で切り分ける役目を持ちます。両者を切り分けて設計することで、経理は帳簿の正しさと経営への説明力の双方を保てます。
経理で分析基盤が必要とされる背景
科目単位集計の限界
勘定科目だけの集計では、支出の背景や意図まで読み取ることが難しくなります。
科目単位の集計は決算書の作成には欠かせませんが、同じ「旅費交通費」でも出張目的や訪問地、時期で内訳は大きく変わります。目的や場所、時期の軸を持たないままでは、規定の見直しや削減余地の判断に踏み込みにくいのが実情です。分析軸を追加することで、同じ支出データから複数の問いに答えられるようになります。
データ分断と属人化の課題
経理データが複数のシステムやファイルに散らばると、把握できる人が限られ、意思決定が滞ります。
海外の製造業向け支出管理ダッシュボード刷新の事例では、信頼できるダッシュボードを実現するために、データ環境の分断を解消する必要があったと報告されています(参照*3)。
データが分断された状態では、同じ支出でも集計方法が担当者ごとに変わり、数値の整合が取りにくくなります。分析基盤にデータを集めることで、誰が見ても同じ結果になる状態を作れます。
DX推進と経営判断の要請
経営層は支出の状況を素早く把握し、意思決定に使いたいという要請を強めています。
経済産業省は、DX銘柄企業とDX認定未取得企業とを比較し、企業間連携、DX推進・新たな挑戦を支援する仕組み、データ連携・データガバナンスにおいて大きな差が見られると分析しました(参照*4)。
PwCが公表したCFO Compass Surveyは、南東欧市場の15業種以上、150名超の財務リーダーを対象に、事業継続におけるデジタル変革と自動化の重要性を示しました(参照*5)。
経営者やCFOがリアルタイムの支出把握を求めるほど、経理は元データの整備とガバナンスに責任を持つ立場になります。分析基盤は、その責任を果たす土台になります。
支出を多軸で可視化する方法
多軸分析を支えるデータモデル
多軸で支出を捉えるには、金額や件数などの数値と、切り口となる項目を分けて設計します。
経理の実務に置き換えると、金額や件数を数える中心のテーブルに対し、目的、場所、時期、部門、プロジェクトなどを切り口として結び付ける形になります。分析軸をあらかじめ整理しておくことで、後から視点を切り替えても同じデータで説明が可能です。自社にとってどの軸が意思決定に必要かを確認することが要点です。
ダッシュボードによる可視化
整えたデータは、役割に応じて使い分けられる画面を通じて初めて意思決定に結び付きます。
独立行政法人情報処理推進機構の資料は、ビジネスインテリジェンスツール(Business Intelligence tool)を、データプリパレーションツールやETLツールで整形されたデータを可視化し、意思決定に活用するツールと定義しました(参照*1)。
ダッシュボードは、経営層向けの全社推移、部門長向けの予算対比、現場担当者向けの明細確認といった粒度の使い分けが要点になります。指標を絞り込み、明細まで追える経路を用意することで、可視化が意思決定に直結します。
経費・請求データの統合
支出の全体像を捉えるには、経費精算や請求書、購買のデータを一つの基盤に取り込みます。
経理の視点では、Concur ExpenseやConcur Invoiceなどの出張・経費管理ソリューションから出るデータを分析基盤に取り込むことで、経費と請求、購買を同じ軸で並べて比較できます。統合の効果は、勘定科目の整理や決算の短縮といった形で現れる点が特徴です。まずは自社の支出データがどこに散在しているかを棚卸しすることが出発点となります。
データ分析基盤の整備手順
要件定義と分析軸の設計
整備は、誰が何を判断するために使うのかを明確にする段階から始まります。
独立行政法人情報処理推進機構は、データ活用基盤の導入を検討する際、まずデータアーキテクチャーを定義することが重要であり、ビジネスの中心となるコアデータ、それを中心に構成されるデータモデル、データモデルで表現されるデータを活用するための基盤という3要素からなると整理しました(参照*1)。
経営、経理、現場のそれぞれで見たい粒度は異なるため、KPIと分析軸を並べてから優先順位を決めます。軸を先に決めることで、後の統合や画面設計の判断がぶれにくくなります。
データ統合と品質確保
分析の信頼性は、統合の工程と品質管理の仕組みに支えられます。
独立行政法人情報処理推進機構の資料は、ETLを抽出・変換・格納(Extract、Transform、Load)の略と定義しました(参照*1)。
抽出、変換、格納の各工程で、コード体系や単位の統一、欠損値の扱いを規定しておくと、後工程での手戻りを減らせます。技術だけでなく、データを保証する責任の所在を含め、データガバナンスの役割も同時に決めておくことが要点です。
定着とガバナンス
基盤は使われて初めて価値を生むため、定着の設計とガバナンスをあわせて整えます。
経済産業省は、ITシステムの全社最適を目指し、全社のデータ整合性を確保するとともに、事業部単位の個別最適による複雑化・ブラックボックス化を回避する仕組みがあるかを確認する必要があるとしています(参照*4)。
権限管理や監査証跡を整えつつ、利用者が迷わない導線を用意すると、内部統制と使いやすさを両立できます。
整備を進める際の注意点
整備は、目的の明確化と現場での使い勝手を欠くと途中で止まりやすくなります。
東京商工会議所は、デジタルシフト・DXの課題として「コスト負担」を挙げた企業が31.9%で最多となり、次いで「旗振り役が務まるような人材がいない」が31.0%、「従業員がITを使いこなせない」が26.4%、「業務内容に合ったデジタルツール・サービスが見つからない」が22.4%、「導入の効果が分からない、評価できない」が22.1%と続きました(参照*6)。
独立行政法人情報処理推進機構は、近年のデータ活用では、ビジネス環境変化に応じて必要なデータや分析手法が頻繁に変わること、企業全体の最適なデータ活用に向けては、基盤の提供だけでは不十分で、データ活用を組織に浸透させ統制をかけることも必要です(参照*1)。
陥りがちなのは、目的が曖昧なままツール選定に進み、現場が使えない画面が残る流れです。コスト、人材、効果評価の三つの課題を、要件定義の段階で見える形にしておくことが有効です。
SAP Concurのデータを分析基盤で活用する方法
SAP Concurの経費・出張・請求書データは、自社の分析基盤やダッシュボードと連携して活用できます。
Data Delivery Serviceは、Concur Expenseのトランザクションデータを自社のデータ分析基盤やBIツールへ連携し、他システムのデータと組み合わせた分析を支援します(参照*7)。
Intelligenceでは、経費・出張・請求書データを連携して分析し、レポートやダッシュボード、アラートを通じて支出状況を把握できます(参照*8)。
SAP Concurには、経費管理・出張管理・請求書管理に加え、データ抽出や分析に対応するソリューションがあります。整備する分析軸と更新頻度に応じて連携方法を選ぶことが重要です(参照*9)。
おわりに
データ分析基盤を経理に整備するとは、会計や経費、請求のデータを集めて整え、目的や場所、時期といった軸で支出を見える化する取り組みです。会計システムが担う記帳と集計の役割を土台にしつつ、その先の分析と意思決定を支える層を重ねます。
科目単位の集計では届かない支出の実態を捉えることで、規定改定やコスト最適化の判断材料が広がります。要件定義、データ統合、定着とガバナンスを段階的に整え、現場が使い続けられる基盤へと育てていく姿勢が求められます。
参照
- (*1) DX実現に向けた ITシステム開発手法と技術
- (*3) Data product mindset powers a new critical expense management dashboard
- (*4) デジタルトランスフォーメーション調査2025 の分析
- (*5) PwC – The biggest challenge and success factor for the CFO
- (*6) 「中小企業のデジタルシフト・DX実態調査」 集計結果 ~積極的なデジタル活用が着実に進む。取組の効果は「業務効率化」に加え「人手不足解消」も増加~
- (*7) Data Delivery Service 経費データ分析をもっと自由に、もっと効率的に
- (*8) Business Intelligence経費データ分析とレポート・ソリューション | コンカー
- (*9) コンカーの全製品:経費精算、請求書、出張管理ソリューション | コンカー