電子帳簿保存法・インボイス制度
電子帳簿保存法への対応が遅れる理由と対策:未対応から巻き返す要件整理と社内ルール・運用の作り方
はじめに
電子帳簿保存法への対応は2024年1月から義務化されましたが、企業規模が小さくなるほど「制度を理解できず未対応」の割合が高い状況が続いています。経理人材の不足やデジタルツールの未導入といった構造的な問題が背景にあり、対応の遅れは法令違反のリスクに直結します。
この記事では、対応が遅れる背景を実態データとともに整理したうえで、低コストで始められる改ざん防止措置や検索要件の満たし方、社内ルールの作り方といった具体的な巻き返しの手順を取り上げます。
電子帳簿保存法の基本と中小企業に求められる対応範囲
電子帳簿保存法を構成する3つの制度区分
電子帳簿保存法は、税に関する帳簿や書類をデジタルデータで保存するためのルールを定めた法律です。平成10年7月に施行され、もともと紙での保存が義務だった帳簿書類を電子データとして保存できるようにしました。保管コストや印刷コストの削減が期待されましたが、要件が厳しく、利用する企業は一部にとどまってきた経緯があります(参照*1)。
この制度は大きく3つの区分で構成されています。
電子帳簿等保存
1つ目は、会計ソフトなどで作成した帳簿や書類を印刷せずにデータのまま保存する「電子帳簿等保存」です。
スキャナ保存
2つ目は、紙の領収書などをスキャナやスマートフォンで読み取って保存する「スキャナ保存」です。
電子取引データ保存
3つ目は、メールやインターネットを通じてやり取りした取引情報をデータのまま保存する「電子取引データ保存」です(参照*2)。
中小企業がまず確認すべきは、自社の取引でどの区分が該当するかという点です。3つの区分は対応の義務・任意が異なるため、それぞれの位置づけを正しく把握することが出発点になります。
中小企業が義務として対応すべき「電子取引データ保存」の位置づけ
3つの区分のうち、対応が義務化されているのは「電子取引データ保存」のみです。「電子帳簿等保存」と「スキャナ保存」への対応は任意となっています(参照*3)。つまり、メールで受け取った請求書やウェブ上でダウンロードした領収書など、電子的にやり取りした取引データは必ずデータのまま保存しなければなりません。
国税庁は、所得税および法人税に関する保存義務者が電子取引を行った場合、一定の要件のもとで電子取引の取引情報に関する電磁的記録を保存しなければならないと定めています(参照*4)。中小企業であっても、日常的にメールで請求書を受領しているならこの義務の対象です。自社の取引の中で電子データでやり取りしている書類を洗い出す作業が、対応の第一歩となります。
中小企業の対応が遅れる背景と実態データ
日本商工会議所調査に見る企業規模別の対応格差
中小企業では、「電子取引におけるデータ保存」への対応が遅れている傾向があります。日本商工会議所が公表した調査によると、2024年1月から義務化された「電子取引におけるデータ保存」への対応状況は、企業規模が小さくなるほど「制度をよく理解できず未対応」の割合が高くなっています(参照*5)。
未対応事業者の割合
売上高1千万円以下の事業者では、未対応の割合が顕著です。同調査の同区分の回答者1,249件のうち、59.4%が制度への理解や対応が十分でない状況に置かれていることが読み取れます。規模が大きな企業と比べると、小規模事業者ほど対応の遅れが目立ちます。自社がどの規模帯に位置し、同規模の企業と比べてどの程度対応が進んでいるかを確認することが、現状把握の手がかりになります。
「制度を理解できず未対応」が最多となる改ざん防止・検索要件の現状
対応の遅れが特に顕著なのが、電子取引データ保存で求められる「改ざん防止措置要件」と「検索機能確保要件」の2つです。日本商工会議所の調査では、この2つの要件への対応について、ともに「制度を理解できず未対応」との回答が最も多い結果でした(参照*6)。
1.改ざん防止措置要件
改ざん防止措置とは、保存した電子取引データが不正に書き換えられないようにするための仕組みです。
2.検索機能確保要件
検索機能確保とは、日付や金額、取引先の名前でデータを探し出せるようにしておくことを指します。どちらも制度の中核をなす要件ですが、具体的に何をすればよいのかが分かりにくいという声が多い状況です。未対応のまま放置している要件がどちらなのかを特定し、それぞれの対応方法を確認する必要があります。
経理人材不足とデジタルツール未導入の構造的課題
対応が遅れる背景には、制度の分かりにくさだけでなく、経理を担う人材やデジタルツールに関する構造的な問題があります。日本商工会議所の調査によると、売上高1千万円以下の事業者の約9割が1人で経理事務を行っています。さらに、同区分の約8割では代表者や営業担当者などが経理事務を兼務しており、専任の経理担当がいません(参照*5)。
加えて、同調査では規模が小さくなるほど請求書等を「手書き」で作成する割合が高くなっていることも明らかになっています(参照*6)。経理専任者がおらず、業務のデジタル化も進んでいない環境では、電子帳簿保存法の要件を正しく理解し、仕組みを整備する余裕が生まれにくいといえます。経理体制が兼務中心かどうか、請求書の作成方法がデジタル化されているかどうかを棚卸しすることが、課題の把握につながります。
未対応から巻き返すための要件整理と具体的な対応手順
改ざん防止措置の選択肢と事務処理規程による低コスト対応
電子取引データ保存では、データの真実性を確保するために改ざん防止の措置を講じることが求められます。財務省は、改ざん防止のための4つの措置のうちいずれかを実施する必要があるとしたうえで、どの方法が導入しやすいかは納税者ごとに異なるとしています。そのなかで一般的に導入しやすいと考えられる方法として「不当な訂正削除の防止に関する事務処理規程を制定し、遵守する」方法を挙げています(参照*2)。
事務処理規程の整備・運用であれば、タイムスタンプの付与や専用システムの導入と異なり、システム費用をかけずに取り組むことができます。事務処理規程のサンプルも公開されています(参照*7)。費用をかけずに始められる方法があることを認識し、まず規程の整備から着手するのが現実的な手順です。
検索機能の確保を簡易な方法で満たすファイル名・索引簿運用
改ざん防止と並んで求められるのが、検索機能の確保です。専用システムを導入しなくても、この要件を満たす簡易な方法が国税庁から示されています。
1.表計算ソフト等で索引簿を作成
1つ目は、表計算ソフト等で索引簿を作成し、その索引簿を使って電子取引データを検索できるようにする方法です。
2.規則性をもったファイル名
2つ目は、規則性をもったファイル名を付ける方法で、日付・金額・取引先の順番でファイル名を表記し、特定のフォルダに集約することでデータの検索を可能にします(参照*8)。
いずれも無料の表計算ソフトやパソコンの標準機能だけで実現できます。高額なシステムが必要だと誤解して対応を先延ばしにしている場合は、まずこの2つの方法のどちらが業務に合うかを比較検討してみてください。ファイルの命名ルールを決めるだけでも、検索要件への対応は前に進みます。
猶予措置の要件と活用時の注意点
すぐにすべての要件を満たすのが難しい場合、猶予措置を活用するという選択肢があります。財務省は猶予措置が受けられる要件として2つの条件を示しました。
1.所轄税務署長が相当な理由があると認める場合
1つ目は、電子取引データ保存の一定のルールに従って保存できなかったことについて所轄税務署長が相当な理由があると認める場合で、事前申請は不要です。
2.税務調査等の際に応じられるようにしている場合
2つ目は、税務調査等の際にデータのダウンロードの求めと、そのデータをプリントアウトした書面の提示・提出の求めにそれぞれ応じられるようにしている場合です(参照*2)。
「人手不足」「システム整備の資金不足」「システム整備が間に合わない」なども相当の理由として認められます(参照*8)。
猶予措置を活用する場合は、送受信した電子取引データを消去せずに保存し、税務調査などの際にデータやデータをプリントアウトした書面を渡せるようにしておけばよいとされています(参照*7)。ただし猶予措置はあくまで移行期間のための措置であり、本格的な要件対応を並行して進める計画を立てることが欠かせません。
社内ルール策定とツール選定の判断基準
事務処理規程の作り方とサンプル活用のポイント
改ざん防止措置として事務処理規程を選ぶ場合、ゼロから文書を作る必要はありません。国税庁のホームページには事務処理規程のサンプルが掲載されており、財務省もこのサンプルを参考とすることを案内しています(参照*2)。サンプルをひな型として、業務フローや取引形態に合わせて修正すれば、短期間で規程を完成させることができます。
規程に盛り込む内容としては、
1.電子取引データの受領・保存の手順、訂正や削除を行う場合の承認フロー
2.保存場所やファイル名のルール
などが挙げられます。規程を作成した後は、経理担当者だけでなく取引データを受け取るすべての従業員に周知し、運用を徹底する体制を整えてください。制定しただけで終わらせず、実際に遵守できる仕組みにすることが制度対応の要です。
JIIMA認証ソフト・IT導入補助金を活用した導入コスト削減
事務処理規程だけではなく、将来的に会計ソフトや保存システムを導入する際の判断基準も押さえておきましょう。財務省は、市販の会計ソフトを導入する際に、そのソフトが電子帳簿保存法の要件を満たしているか確認することを推奨し、その確認手段としてJIIMA認証を挙げています。JIIMA認証とは、公益社団法人日本文書情報マネジメント協会が実施している市販ソフトの認証制度です(参照*2)。
導入コストの面では、中小機構が案内する「デジタル化・AI導入補助金」の活用が選択肢になります。この補助金は業務のデジタル化やインボイス制度対応のためにITツールを導入する事業者を対象としており、補助率が最大3/4と高い水準です。クラウドシステムやPOSレジ、電子帳簿保存対応ツールなど幅広い導入に活用できます(参照*9)。JIIMA認証の有無をチェックしたうえで、補助金の申請要件に合致するかを確認し、費用負担を抑えた導入計画を立ててみてください。
SAP ConcurももちろんJIIMA認証を取得していますので、安心してご利用いただけます。
対応を先送りした場合のリスクと失敗例
電子帳簿保存法への対応を先送りにした場合、どのようなリスクがあるのでしょうか。2024年1月1日以降の電子取引情報は、電子帳簿保存法の要件を満たして電子保存を行わないと法令違反となります(参照*10)。義務化された時点で経過措置期間は終了しているため、「知らなかった」では済まされない状況です。
さらに深刻なのは、電子取引の取引情報に関するデータを隠蔽または仮装した事実があった場合です。デジタル庁の資料によると、その事実に関して生じた申告漏れ等に課される重加算税が10%加重される措置が整備されています(参照*11)。通常の税務調査で指摘を受けるだけでなく、罰則が上乗せされる可能性がある点は見過ごせません。
一方、対応が遅れる企業に共通しがちなのが「メリットが感じられない」という意識です。日本商工会議所の調査では、電子申告に対応していない事業者の56.1%が「メリットが感じられない」と回答しています(参照*5)。しかし、法令違反や重加算税の加重というリスクを踏まえれば、メリットの有無にかかわらず対応は避けて通れません。法令順守の観点から、対応の優先順位を上げて取り組む必要があります。
おわりに
電子帳簿保存法への対応が遅れている中小企業にとって、押さえるべきポイントは3つです。まず、自社が義務の対象となる電子取引データを洗い出すこと。次に、事務処理規程の整備やファイル名ルールの設定など、コストをかけずに始められる方法から着手すること。そして、猶予措置を活用する場合でも本格対応への移行計画を並行して立てることです。
経理人材が限られ、デジタル化が進んでいない環境であっても、国税庁のサンプルや補助金制度を活用すれば対応のハードルは下げられます。法令違反のリスクを放置せず、できるところから1つずつ仕組みを整えていく行動が求められます。
参照
- (*1) J-Net21[中小企業ビジネス支援サイト] – J-Net21[中小企業ビジネス支援サイト]
- (*2) 財務省 – 令和6年1月スタート 令和5年度の税制改正により見直された 電子帳簿等保存制度の内容と中小企業の対応策 : 財務省
- (*3) 改正電子帳簿保存法
- (*4) 電子帳簿保存法の概要|国税庁
- (*5) 中小企業におけるインボイス制度、電子帳簿保存法、バックオフィス業務の実態調査結果
- (*6) 日本商工会議所 – 「中小企業におけるインボイス制度、電子帳簿保存法、バックオフィス業務の実態調査」結果について|日本商工会議所
- (*7) 経営SCOPE by みんなの会計 – 電子帳簿保存法の電子取引データ保存のルールを解説!2024年1月からの改正点は?
- (*8) 電子帳簿等保存制度特設サイト|国税庁
- (*9) 補助金活用ナビ(中小機構) – デジタル化・AI導入補助金(旧 IT導入補助金)のご案内 | 補助金活用ナビ(中小機構)
- (*10) お知らせ/JBMIA(一般社団法人 ビジネス機械・情報システム産業協会)
- (*11) 関係省庁の連携による事業者等のデジタル化の促進
