経理・総務の豆知識

経理の人材不足で悩む会社のための解決方法

SAP Concur Japan |

はじめに

経理担当の人材確保が難しいと、月次の締めが遅れる、チェックが薄くなる、制度対応が後回しになるなど、会社全体の動きに影響が出ます。また、人が足りない状態が続くと、残業や兼務が増えて離職が起きやすくなり、さらに採用もしづらくなる流れに入りがちです。

この記事では、人材不足が起きる背景を確認したうえで、配置転換も含めた現実的な打ち手として、仕事の減らし方、育て方、回し方を具体的に解説します。

経理担当の人材確保が難しくなる背景

経理担当の人材確保が難しい理由は、採用市場の状況だけではありません。仕事の中身が増え、求められるスキルが広がり、制度対応も重なります。さらに、会社側の投資不足やデジタル化の遅れが、現場の負担を押し上げます。ここでは背景を8つに分けてご紹介します。

経理職の採用難と売り手市場

採用が難しい大きな理由は、働き手より求人が多い状態が続いていることです。厚生労働省は、令和7年3月の有効求人倍率が1.26倍、正社員有効求人倍率が1.05倍だと示しました。求人が求職を上回るため、会社は採りたくても採れない局面に入りやすくなります。

地域差もあります。厚生労働省の同資料では、就業地別の有効求人倍率(季節調整値)は福井県が1.84倍、大阪府が1.04倍とされています。採用が難しい地域では、テレワーク前提での採用や、近隣拠点からの配置転換も現実的な選択肢になります。

この環境では、経理担当の人材確保も同じように難しくなります。特に中小企業は、採用担当者が専任でないことも多く、募集の作り込みや面接の回数確保が追いつかず、機会損失が起きやすいです。採用が長引くほど、既存メンバーの残業や兼務が増え、さらに辞めやすくなる悪循環も起きます。

業務高度化とDX・AI対応負荷

経理の仕事は、入力や集計だけではなく、経営判断に使う数字を早く正確に出す役割が強まっています。その一方で、仕組みづくりやデータの整え方など、DX(デジタル化)への対応も求められます。

デロイト トーマツ コンサルティングは、2025年度版「経理・財務・税務部門の課題調査」で、重要な経営課題として「DX・AI活用」が38.8%、「人材育成・人材確保」が35.7%だったと示しました。また、仕事が増えているのに、技術への対応不足や人材不足がボトルネックになり、業務をこなし切れない実情があるとしています。

現場では、締め作業を回しながら新しい仕組みも覚える必要があり、負担が二重になりがちです。結果として、経験者ほど忙しくなり、教育に時間を割けず、若手が育ちにくい状態が続きます。

全体的な労働人口の減少

人材確保が難しいのは、経理に限らず、働く人の構成そのものが変わっているからです。内閣府は、令和6年の労働力人口が6,957万人で、65歳以上の割合が13.6%だと示しました。65歳以上の就業者数は21年連続で前年を上回っている一方、70歳までの就業確保措置を実施済みは31.9%で、301人以上の企業では25.5%と低い数値です。

働く人が高齢化するほど、採用だけで穴を埋めるのは難しくなります。経理担当の人材確保では、採用に加えて、今いる人が長く働ける設計や、配置転換で仕事を回す発想が欠かせません。たとえば、締め前の残業が当たり前の体制だと、家庭の事情がある人や、体力面で負担がある人が続けにくくなります。

スキルや実務の経験を持った即戦力の激しい獲得競争

経理は、入社してすぐに任せにくい仕事が多く、経験者が求められやすい職種です。締めの手順、規定の運用、税金や証憑(領収書など)の扱いなど、会社ごとのルールも多いためです。

その結果、経験者の採用に応募が集中し、条件も上がりやすくなります。採用できたとしても、属人化したやり方のままだと、経験者に負荷が寄り、定着しにくくなります。経験者を取り合う前提で、仕事の標準化や引き継ぎのしやすさが問われます。

また、経験者ほど「リモートでも回る仕組み」や「監査対応が楽になる環境」を重視することがあります。働きやすさが見えないと、同じ条件でも選ばれにくくなります。

インボイス制度などの新しい制度・法や、その改正対応にリソースがかかる

制度対応は、経理の仕事を増やす代表例です。理由はシンプルで、税額控除や申告の前提となる「保存・突合・確認」の要件が増え、その要件を満たすための運用設計(社内ルール、業務フロー、教育)が追加で必要になるからです。

例えば、インボイス制度では、仕入税額控除のために、区分経理に対応した帳簿と、適格請求書等(電磁的記録を含む)の保存が求められます。保存年限も定められています。これだけで、請求書の形式確認、受領・保存手順の統一、例外取引の扱い整理が日常業務にプラスされます。

実際、制度導入後の負荷は“体感”としても表れています。日本商工会議所・東京商工会議所の調査(回答2,710社)では、インボイス制度の導入により73.4%が事務負担の増加を感じ、45.8%がコスト増を感じています。

専門的な業務内容が増えている

経理の仕事は、会社の成長や取引の多様化に合わせて専門性が増えます。たとえば、部門別の採算管理、海外取引の処理、内部のチェック強化など、判断が必要な場面が増えます。

専門的な仕事が増えるほど、配置転換で来た人がすぐに戦力化しにくくなります。結果として、限られた経験者に判断が集中し、確認待ちが増え、締めが遅れます。人材確保の問題は、人数だけでなく、仕事の難しさの上がり方ともセットで起きます。

専門性が高い仕事が増えると、経理担当の教育にも時間がかかります。教育の時間が取れないまま任せると、ミスの修正や再チェックが増え、さらに時間が奪われます。

経理関係の投資不足

経理は売上を直接作る部門ではないため、後回しにされやすい傾向があります。しかし投資が遅れると、紙や手入力が残り、ミスの修正や差し戻しが増えます。

投資不足の状態では、採用しても「古いやり方を覚える」負担が大きく、定着しにくくなります。人材確保を採用だけで解決しようとすると、現場の非効率が残り続け、必要人数が減らないままになります。

さらに、紙中心の運用はテレワークとの相性が悪く、出社できない日の処理が止まりやすくなります。働き方の柔軟性が低いと、採用時に候補者から避けられる要因にもなります。

デジタル化の遅れで仕事が増えている

デジタル化が遅れると、転記・照合・保管が「人の手順」と「紙の所在」に依存します。その結果、同じ情報を複数の帳票やシステムに入れ直す、証憑を探して突合する、承認のために書類を回すといった、付加価値の低い工程が残りやすくなります。

電子帳簿保存法は、一定の要件の下で紙ではなく電子データで保存でき、保存負担の軽減という観点が明記されており、制度対応が「紙のまま」だと、要件を満たすための作業が増えます。

人材不足の解決策

背景で見た課題は、採用だけで埋めようとすると行き詰まりやすいです。ここでは、配置転換を含めて人を活かしながら、仕事の量と難しさを下げ、制度対応も回る状態を作るための打ち手を8つに分けて示します。

進め方の基本は3つです。仕事を減らす、手順で回せる範囲を増やす、判断が必要な仕事に経験者の時間を残す。これを軸にすると、採用が想定より進まなくても体制が崩れにくくなります。

採用難と売り手市場への対策

採用が難しい局面では、採用人数の目標だけを置くと、現場が疲弊します。まずは「採用できない前提」で、欠員が出ても回る形を作ります。

具体的には、経理の仕事を棚卸しし、締めに直結する仕事と、後回しにできる仕事を分けます。そのうえで、後回しにできる仕事は、月次ではなく四半期に寄せるなど頻度を下げます。頻度を下げても困らないように、必要な証拠(領収書など)の集め方を整えます。

採用面では、経験者だけに絞らず、配置転換で来る人も含めて育てる前提にします。求人票には、任せる範囲を「最初はここまで」と区切って書き、入社後の不安を減らします。

加えて、経理の働き方を言葉で示します。たとえば「締めのピーク時の残業時間の目安」「テレワークの可否」「スマホで申請・承認ができるか」を具体的に書くと、候補者が働く姿を想像しやすくなります。

DX・AI対応負荷への対策

デジタル化やAIの活用は、現場にとって「追加の仕事」になりやすいです。そこで、締め作業を止めずに進めるために、対象を絞って段階的に進めます。

コンカーでは、最初は経費精算や請求書処理など、件数が多く、手作業が残りやすい領域から着手することをお勧めしています。経費精算・出張管理・請求書処理をクラウドで一元化し従業員起点のコストを単一の統合基盤で追跡・管理するものです。多くの従業員が関わる業務で、DX・AI活用の価値を感じることができ、その後の展開が容易になります。

段階導入のコツは、いきなり全社で変えないことです。まずは特定部門で試し、差し戻しが減るか、承認が早くなるかを見ます。効果が見えたら対象を広げます。

現場負担を増やさないためには、切り替え期間のやり方も決めます。たとえば、紙と電子が混在すると確認が増えやすいので、部門単位で開始日をそろえる、古い運用の受付は期限を切る、といったルールがあると混乱が減ります。

労働人口減少を前提にした体制づくり

人が増えにくい時代は、少人数でも回る体制が必要です。ポイントは、属人化を減らし、配置転換が起きても引き継げる形にすることです。

まず、担当者ごとに抱えている仕事を「見える化」します。誰が休んでも止められない仕事は、2人以上が手順を知っている状態にします。次に、締めのカレンダーを作り、いつまでに何を終えるかを固定します。固定すると、配置転換で来た人も、全体の流れをつかみやすくなります。

将来の見通しも押さえます。労働政策研究・研修機構は、2040年の見通しとして、労働力人口が6,791万人、就業者が6,734万人と示しました。人が増えない前提なら、採用計画より先に、業務の減らし方と引き継ぎの仕組みを決める必要があります。

体制づくりでは、兼務も選択肢になります。たとえば、各部門の事務担当が一次チェックを行い、経理は例外だけを見る形にすると、経理担当に集中しがちな確認作業を分散できます。

即戦力獲得競争への対策

経験者の取り合いに勝つことだけを狙うと、採用費が上がり、採れない期間も長くなります。そこで、即戦力が入っても活躍しやすい環境を整え、配置転換の人も戦力化できるようにします。

具体的には、判断が必要な仕事と、手順で回せる仕事を分けます。判断が必要な仕事は、チェック観点を短い文章で残し、過去の例を添えます。手順で回せる仕事は、入力ルールや証憑の要件を統一し、差し戻しを減らします。

加えて、承認側の負担も下げます。承認が遅いと経理の締めが遅れます。承認画面で確認できる情報をそろえ、差し戻し理由の選択肢を用意すると、承認のスピードと質が上がりやすくなります。

この整備が進むと、経験者は「整った環境で成果を出せる」状態になり、配置転換の人は「迷わず動ける」状態になります。結果として、採用で埋める人数そのものを減らせます。

制度改正対応の負担を減らす運用設計

制度対応は、担当者の頑張りで吸収すると破綻します。運用設計で、例外を減らし、確認の回数を減らします。

日本商工会議所と東京商工会議所は、インボイス制度(2023年10月開始)と、電子取引のデータ保存義務化(2024年1月開始)を受けて、「中小企業におけるインボイス制度、電子帳簿保存法、バックオフィス業務の実態調査」を取りまとめたと説明しています。制度が続く以上、対応は一時的ではなく、日常業務に組み込む必要があります。

運用設計の基本は、ルールを少なく、例外を作らないことです。たとえば、領収書の出し方、申請の締め日、差し戻しの理由の書き方を統一します。さらに、制度に関係するチェック項目を申請画面や申請手順に埋め込み、経理が後から探して確認する作業を減らします。

運用を決めたら、周知の方法も決めます。全社員向けに長い資料を配るより、よくある差し戻し理由を短い文章でまとめ、申請画面の近くに置くほうが徹底しやすくなります。

業務フローの可視化・マニュアル作成と手作業の見直し

専門的な業務内容が増えるほど、頭の中にある手順を外に出すことが必要です。配置転換で来た人が増えるほど、口頭だけの引き継ぎは難しくなります。

まず、経費精算、請求書処理、出張手配、締め作業などを、開始から完了まで矢印でつなぎ、どこで誰が何を判断するかを書きます。次に、判断が必要な箇所だけを短いマニュアルにします。長い資料は読まれにくいので、1作業1枚など小さく作ります。

手作業の見直しでは、次のような作業を優先して削ります。

  • 紙の領収書を集めて並べ、のり付けして保管する
  • 同じ金額や日付を、申請書と台帳に二重入力する
  • 差し戻し理由があいまいで、何度もやり直す

味の素株式会社は、2016年4月にグループ経理センター(アウトソーシングの拠点)を設立し、同時に経費精算業務を見直しました。Concur Expenseで領収書を電子化した結果、経費レポートの出力や拠点への送付作業が減り、領収書の添付漏れも防げ、送付のタイムラグも解消したと説明しています。年間約1,500時間の工数削減を見込むとも示しました。

この事例のように、手順を整理してからツールを定着させると、チェックの抜けや、例外処理の増加を抑えやすくなります。

こうした削減は、経験者の時間を「判断が必要な仕事」に戻します。配置転換の人には、手順で回せる仕事を任せやすくなり、経理担当の人材確保の難しさを、運用で吸収しやすくなります。

投資不足を解消する費用対効果の作り方

経理への投資は、効果が見えにくいと言われがちです。そこで、時間と件数で効果を示すと、社内で説明しやすくなります。

ネオアクシス株式会社は、約200名の社員の経費精算にConcur Expenseを採用し、経費精算業務にかかる時間を月64%削減したと説明しています。紙を減らしたことで、バックオフィス部門の在宅勤務も進み、働き方改革の推進に寄与したとも示しました。

このように、削減できた時間を金額に置き換えると、投資の説明がしやすくなります。さらに、差し戻し件数、締めの遅れ日数、保管スペースなど、数字で追える項目を決めておくと、投資の効果を継続的に確認できます。

投資判断では、監査対応の工数も見落としがちです。証憑の探索や、経費規定の逸脱チェックに時間がかかっている場合は、月次の削減時間だけでなく、監査時期の追加負担も合わせて見積もると説明しやすくなります。

業務の効率化・自動化で業務量を減らす

デジタル化の遅れで仕事が増えている場合、解決策は業務の効率化・自動化で業務量を減らすことです。人を増やす前に、増えた仕事を元から減らします。RPA(パソコンの定型作業を自動で行う仕組み)を使う場合も、まずは手順が固まっている作業から当てると失敗しにくくなります。

市光工業株式会社は、導入期間が実質2カ月半で完了し、現場の負担を最小限にしつつ短期間で実現したと説明しています。現在はConcurの利用件数が月間約1,200件に達しており、今後はConcur Travelの活用で出張規定に沿った手配を実現し、出張経費の全体管理を透明化することを期待しているとも示しました。

効率化・自動化の狙いは、経理担当の人材確保が難しい状況でも、処理を回せる状態にすることです。申請から承認、証憑の保存までを一連でつなぐと、探す、待つ、転記する作業が減ります。結果として、配置転換で来た人でも担当できる範囲が広がり、経験者は例外対応や制度対応に集中できます。

また、外部委託(アウトソーシング)を組み合わせる方法もあります。
矢野経済研究所はBPO市場(業務を外部に委託するサービス)の概要として、参入事業者の増加やサービス提供範囲の拡大などを取り上げています。経費精算の一次チェックや請求書の受領・振り分けなど、手順で回しやすい仕事は外に出し、社内の経理担当は判断や社内調整に寄せると、人材確保の負担を下げやすくなります。

おわりに

経理担当の人材確保が難しい背景には、採用市場、労働人口、制度対応、仕事の高度化、投資不足、デジタル化の遅れが重なっています。だからこそ、採用だけで埋めるのではなく、配置転換を前提に、仕事を減らし、標準化し、回る仕組みを作ることが現実的です。

経費精算や請求書処理のように件数が多い領域から効率化・自動化を進め、制度対応は運用に組み込み、判断が必要な仕事は見える化して引き継げる形にします。アウトソーシングも含めて役割分担を決めると、限られた人数でも経理の品質とスピードを保ちやすくなります。

人材確保の議論は「採る」だけで終わりません。働きやすい運用と、ミスが起きにくい仕組みが、人材の定着・採用に繋がります。ぜひ解決策を検討しましょう。

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