経理・総務の豆知識

給与計算に影響大の法改正とは?支援金と社会保険拡大を解説

SAP Concur Japan |

はじめに

2026年は、給与計算の実務に大きな影響を与える法改正が相次ぐ年です。5月支給分の給与から子ども・子育て支援金の控除が始まり、10月には社会保険の適用拡大によって対象者が大幅に広がります。

いずれも企業が負担する人件費に直結するため、早い段階でスケジュールと具体的な変更内容を把握しておくことが欠かせません。この記事では、給与計算担当者が押さえるべき二大テーマを中心に、制度の仕組みと実務上の対応ポイントを整理します。

2026年の給与計算に影響する法改正の全体像

2026年度は、給与計算に関わる法改正が複数の時期に発生します(参照*1)。

子ども・子育て支援金

4月施行の子ども・子育て支援金は、健康保険料と合わせた形で徴収され、給与からの控除は5月支給分から始まります。

在職老齢年金の支給停止となる収入基準額の変更

在職老齢年金の支給停止となる収入基準額が月51万円から月65万円に引き上げられます。これにより、基準額を超えた分の年金が支給停止となる対象者の範囲が縮小します。給与計算システムへの直接的な設定変更は原則不要ですが、対象となるシニア人材から問い合わせを受けるケースが想定されるため、制度変更の概要を把握しておくとよいでしょう。

短時間労働者の社会保険料負担を軽減できる措置

10月には社会保険の適用拡大に伴い、短時間労働者の社会保険料負担を軽減できる措置が創設される予定です。

このように2026年度は年間を通じて対応が必要な法改正が続くため、施行月ごとにスケジュールを整理し、給与計算システムの設定変更や届出の準備を段階的に進めることが求められます。

給与計算担当者が押さえるべき二大テーマ

給与計算の実務負荷とキャッシュフローへの影響が特に大きいのは、子ども・子育て支援金と社会保険の適用拡大の2つです。支援金制度は2026年度に創設され、医療保険料とあわせて拠出する仕組みで、2028年度までに段階的に導入されます(参照*2)。

一方、社会保険の適用拡大では、賃金要件の撤廃が予定されており、週20時間以上働く短時間労働者については賃金要件を意識する必要がなくなる見込みです(参照*3)。企業負担の具体的な試算や軽減措置については、後述の「会社負担増のシミュレーションと財務計画への影響」で詳しく解説します。

給与計算担当者は、この2つのテーマについて改正の内容と施行時期を正確に把握し、対象者の特定やシステム設定の変更手順を洗い出しておく必要があります。

子ども・子育て支援金の仕組みと企業負担

支援金制度の目的と徴収の流れ

子ども・子育て支援金制度は、こども未来戦略(2023年12月策定)の「加速化プラン」における少子化対策を強化するために設けられた仕組みです。全世代・全経済主体で子育て世帯を支えることを目的としており、予算規模3.6兆円のうち支援金で1兆円をまかなう計画となっています(参照*5)。

こども家庭庁は、支援金制度を2026年度に創設し、2028年度までに段階的に導入するとしています。歳出改革と賃上げによって実質的な社会保険負担軽減の効果を生じさせ、その範囲内で構築する方針です(参照*2)。

徴収は健康保険料と合わせた形で行われるため、給与計算の控除項目に新たな費目が加わります。事業主にも負担が発生することから、人件費の予算枠を事前に見直しておく作業が必要です。

保険種別・年収別にみる負担額の目安

支援金の負担額は加入する保険の種類によって異なり、年度ごとに段階的に引き上げられます。被保険者(従業員)1人あたりの月額と、事業主の同額負担を合わせた目安は以下のとおりです(参照*5)。

保険の種類 2026年度 2027年度 2028年度
協会けんぽ(中小企業) 400円 550円 700円
健保組合(大企業) 500円 700円 850円
共済組合(公務員) 550円 750円 950円

※上記は被保険者1人あたりの月額です。事業主は同額を別途負担します。加入者(被扶養者を含む)1人あたりの金額とは異なりますのでご注意ください。

給与計算担当者は、加入する保険の種類ごとに年度別の負担額を一覧にまとめ、翌年度以降の人件費増を事前に試算しておくとよいでしょう。

被用者保険の2026年度の料率は0.23%で、2028年度にかけて0.4%程度まで段階的に上がることが想定されています(参照*1)。給与計算担当者は、加入する保険の種類ごとに年度別の負担額を一覧にまとめ、翌年度以降の人件費増を試算しておくとよいでしょう。

給与計算実務での控除開始時期と従業員周知

控除の開始は5月支給分の給与からです。4月分の保険料から支援金が上乗せされるため、翌月徴収の企業では5月の給与明細に初めて支援金が反映されます。給与計算システムの控除項目設定を事前に確認し、テスト計算を済ませておく必要があります。

従業員への周知も欠かせません。5月支給分の給与から控除額が変わるため、事前に支援金の趣旨や控除額について説明しておくことが求められます(参照*1)。

給与明細の表示項目を追加する場合は、明細の様式変更や印刷レイアウトの調整も必要です。従業員から問い合わせがあった際に説明できるよう、制度の概要を簡潔にまとめた案内文を準備しておくと実務がスムーズに進みます。

社会保険の適用拡大と賃金要件・企業規模要件の撤廃

適用拡大の経緯と2026年10月の変更点

社会保険の適用拡大は、短時間労働者の処遇改善と年金保障の充実を目的として、段階的に進められてきました。これまで短時間労働者が社会保険に加入するには、月額賃金8.8万円以上という賃金要件を満たす必要がありました。しかし、全ての都道府県で2025年度の地域別最低賃金が時給1,016円を超えたことにより、週20時間以上働く方は、賃金要件を意識する必要がなくなります(企業規模要件や学生要件など、他の要件も満たす必要があります。)。

この状況を踏まえ、厚生労働省は2025年の年金制度改正法に基づき、2026年10月に賃金要件を撤廃する予定としています(参照*3)。これにより、いわゆる「106万円の壁」がなくなり、週20時間以上働く短時間労働者は、賃金要件を問わず社会保険の加入対象となります(参照*1)。

対象者が大幅に広がるため、パートやアルバイトを多く雇用している企業では、加入手続きの準備を早期に始める必要があります。

企業規模要件の段階的撤廃スケジュール

企業規模要件も2027年10月から2035年10月にかけて段階的に縮小・撤廃されます。厚生労働省は年金制度改正法に基づき、次のスケジュールを示しました。

1.2027年10月から従業員36人以上へ引き下げ
2.2029年10月から従業員21人以上へ引き下げ
3.2032年10月から従業員11人以上へ引き下げ
4.2035年10月には従業員10人以下の企業にも適用

との予定です(参照*3)。

現在は従業員51人以上の企業が適用対象ですが、今後は規模の小さい企業にも段階的に義務が及びます。自社の従業員数がどの時期に基準を超えるかを確認し、該当する年度の前に体制を整えておくことが大切です。

とりわけ、従業員数が各基準の境界にある企業では、新規採用や退職による人数の変動で適用時期が前後する可能性があるため、月ごとの従業員数の推移を継続的に確認する作業が欠かせません。

会社負担増のシミュレーションと財務計画への影響

社会保険の適用拡大による企業側の負担増を具体的に見てみましょう。社会保険料は労使折半のため、新たに加入する短時間労働者1人あたりの企業負担が発生します。月額88,000円の従業員の場合、約13,000円の企業負担が生じるとの試算があります。給与計算や手続き業務も複雑化するため、特に中小企業ではアウトソーシングの活用も選択肢に入ります(参照*4)。

一方、新たに社会保険の加入対象となる短時間労働者を支援する措置も設けられています。従業員数50人以下の企業などで働き、企業規模要件の見直しにより新たに加入対象となる短時間労働者のうち、標準報酬月額が12.6万円以下である方に対しては、特例的・時限的に3年間の保険料負担軽減措置がとられます(参照*1)。

財務計画を見直す際は、対象となる短時間労働者の人数と報酬月額を洗い出し、年間の社会保険料増加額を算出したうえで、軽減措置の適用可否も含めてシミュレーションを行う手順が求められます。

実務で失敗しないための注意点と対応手順

対象者の洗い出しと労働時間管理の徹底

適用拡大への対応では、まず社会保険の加入対象となる短時間労働者を正確に洗い出す作業が出発点です。週の所定労働時間が20時間以上かどうかを、労働契約書やシフト表と突き合わせて確認します。

従業員数のカウントにも注意が必要です。月ごとに従業員数をカウントし、直近12か月のうち6か月で基準を上回ると社会保険の適用対象となります。法人事業所の場合は同一の法人番号を有する全事業所の合計で判定し、個人事業所の場合は個々の事業所ごとに行います(参照*6)。

複数の事業所を持つ法人は、拠点ごとではなく法人全体の従業員数で判定される点を見落とさないようにしてください。日常的に勤怠データを集計し、週20時間を超える労働者の把握を仕組み化しておくことで、届出漏れを防ぐことができます。

年収の壁と被扶養者認定ルールの変更への対応

社会保険の適用拡大にあわせて、被扶養者の認定ルールにも変更があります。厚生労働省は2025年10月に通知を発出し、被扶養者認定の判定は労働条件通知書等で規定される基本給・諸手当・賞与を基準とし、労働契約に明確な規定がない時間外・休日労働に対する賃金は年間収入に含まないとしました。この取り扱いは2026年4月1日から適用されます(参照*7)。

また、税と社会保険では対象とする収入の範囲が異なる点にも留意が必要です。税では課税収入のみが対象で、通勤手当等の非課税収入は含みません。一方、社会保険では通勤手当等の非課税収入や健康保険・雇用保険の給付金も含まれます。たとえば、130万円の収入のうち課税収入が103万円で、通勤手当が27万円の場合、税では103万円で非課税ですが、社会保険では130万円として扶養の対象外となります(参照*8)。

従業員から「扶養に入れるかどうか」の相談を受ける場面は増えると考えられます。税と社会保険で判定基準が違うことを案内資料にまとめ、従業員本人が自分の収入構成で判断できるように準備しておく対応が実務上有効です。

おわりに

2026年は、子ども・子育て支援金の控除開始(5月)と社会保険の適用拡大(10月)という2つの法改正が、給与計算の実務を大きく変える年です。いずれも企業の人件費に直結し、対応が遅れると届出漏れや計算ミスに直結するリスクがあります。

今すぐ着手できる準備として、次の3点を起点にするとよいでしょう。

  1. 施行スケジュールの時系列整理:5月・10月それぞれの対応期限を社内カレンダーに落とし込む
  2. 対象者リストの作成:週20時間以上勤務の短時間労働者を労働契約書・シフト表で洗い出す
  3. 給与計算システムの設定確認:支援金の控除項目追加とテスト計算を4月末までに完了させる

法改正への対応は、準備を始めるタイミングが早いほど現場の混乱を小さくできます。本記事を参考に、自社の対応状況を今一度確認してみてください。

参照

経理・総務の豆知識
IFRS対応は「連結決算だけ」で終わりません。海外子会社のGAAP差異や取引消去、為替管理に加え、内部統制の展開、人材確保、海外M&A(PPA・のれん)の注意点まで実務の勘所をまとめます。
もっと見る
経理・総務の豆知識
経理担当の人材確保が難しいと、月次の締めが遅れる、チェックが薄くなる、制度対応が後回しになるなど、会社全体の動きに影響が出ます。また、人が足りない状態が続くと、残業や兼務が増えて離職が起きやすくなり、さらに採用もしづらくなる流れに入りがちです。 この記事では、人材不足が起きる背景を確認したうえで、配置転換も含めた現実的な打ち手として、仕事の減らし方、育て方、回し方を具体的に解説します。
もっと見る
経理・総務の豆知識
2024年4月から労働条件明示に関するルールの改正が適用されました。これにより、労働条件通知書に記載すべき内容がいくつか増えています。企業はこれに対応し、現在の労働条件通知書を修正しなければなりません。コンプライアンスを順守し、労働者と話し合いを行うことが必要です。
もっと見る