幸せに働く人を増やすパーパス・マネジメントを考える【イベントレポート - 後編】

Yuka Tanaka |

はじめましての相手とタニモクをやってみた【イベントリポート】

 

去る2019年6月10日、株式会社コンカーオフィス(東京都中央区銀座)にて、「第5回 Back Office Heroes ミートアップ 自分とみんなの仕事と幸せを考える & タニモクをやってみよう!」が開催されました。

前半の「社員の幸せを大切にする経営 - パーパス・マネジメントとは?」をテーマにした、Ideal Leaders株式会社 共同創業者/CHO(Chief Happiness Officer)丹羽真理さんのインタビューセッションのリポートはこちらです。


後半は他人に自分の目標を立ててもらうワークショップ "タニモク" についてフォーカスします。

タニモクとは、総合人材サービスのパーソルキャリア株式会社が2018年に開始した「目標設定」の考え方です。4人1組となり、1人が自分を取り巻く環境や現状を説明し、それを聞いた3人から「自分だったらこうする」と意見をもらい、目標設定します。

 

全5ステップ! タニモクをやってみよう

タニモクのやり方は実にシンプルで、5つのステップで進めます。

 

1.自分の状況をイラスト化(5分)
経歴や最近取り組んでいる仕事、注力していることなど、簡単な自己紹介を「絵」で描きます。絵で表現することで、一方的な説明を避け、質疑応答が発生しやすくするため。仕事だけではなく、プライベートのことも入れます。

2.話し手が自分の状況を説明する(5分)
短く簡潔に説明すると、他人ならではの独自の観点からこの後の質疑応答に対話が生まれます。

3.話し手が質疑応答を受ける(10分)
聞き手は話し手が描いた絵を眺めながら、興味あるポイントをどんどん質問。ただし、話し手に「今年はどうしたいのか?」と目標を直接聞かないこと。あくまで“現状”を深掘りするための時間です。

4.聞き手が話し手の「目標」を1枚に用紙に手描きする(5分)
話し手になりきり、思いっきり主観で、「私があなただったらこうします」と目標を提示。聞き手側はあなたが“芯”として持っているものがだんだん見えてきます。

5.聞き手が話し手にプレゼンテーションする(5分)

 

「自分が直面している状況を、普段意識していない領域まで、具体的に説明することになると思います。それを踏まえて他人が自分にはない視点で、目標を作ってくれる良さがあるのがタニモクです」

と語るのはコンカーでチーフ・カルチャー・オフィサー(CCO)を務める田中由香さん。

今回、ミートアップ参加者のうち2組のタニモクを実況中継!はじめましてのお相手とのタニモク、皆さんはどんな気づきを得られたのでしょうか?

 

事例1:キャパオーバーで新しい取り組みをする余裕がないことに悶々…

 

1組目の話し手は、某企業で総務部長を務める40代女性Aさん。聞き手はSIer勤務の40代女性Bさん。


(Aさんが書いた絵)

バスケやテニスなどのチーム競技、生花や習字、お茶などの個人の趣味など、さまざまな習い事を楽しんでいることが伝わってきます。海外にはプライベートだけで年4回行くほどの旅好きでもあるとか。

Aさん : 「言語の壁もありますし、慣れない場所で困ったことが起きるのも珍しくありません。でも、そんな困難を乗り切るのが楽しいし、ワクワクのほうが勝るんです。外に出ていくのは大好きですね。旅でしっかりリフレッシュすると、帰国後に仕事を思いっきりがんばれます!」

ポジティブな要素が多い反面、絵の中央に描かれたAさんと思しき女性の困り顔と、Aさんの周りにいる大勢の人の存在が気になります。ここは会社での状況のようです。

Aさん : 「ずっと ”総務の方針=会社の方針” という歴史があり、各部門の部長さんが些細なこともすべて、総務部長の私に確認を求めます。2年半前に入社したとき、今日参加しているような(編集注:コンカーが開催している)セミナーや勉強会を社内でも始めたいな、と思っていたのですが、日々ものすごい量のメールや電話対応で、新しい取り組みができる状況ではない……というのが悩みです。プロセスの改善を訴えるものの、なかなか変わっていかないのがつらいです。。。」

いろいろな部門の部長を中心に、細かな問い合わせが連日殺到、その対応に追われているというAさんに、Bさんは一つひとつ丁寧に質問を重ね、状況を明らかにしていきます。

Bさん : 「たとえば、各部門の部長さんからどういう質問が来るんですか?」
「Aさんのロール&レスポンシビリティは明確になっていますか?」
「予算の承認プロセスはどうなっていますか?」
「部長クラス以外でAさんに問い合わせをしてくる人はいますか?」
「社風や社員のタイプは?」
「現職の前はどういう業界にいましたか?」
「今の会社では新しい取り組みを推進しやすいですか?」などなど。

Bさんの質問で、Aさんの現状が見えてきました。部長だけではなく、役員陣からの問い合わせも多数寄せられること。労務管理や給与計算、その他、他部署が担うような業務もAさんが担当、明らかにキャパオーバーの実態が浮き彫りに。予算承認プロセスも非効率で、課題があることがわかってきました。

Aさんは新卒からホテル業界を3社経験、その後、人事総務にキャリアチェンジし、前職は外資系企業に身を置いていました。

「英語がそこまで得意ではなくても、いろいろなことに挑戦させてくれるし、変だなと思ったことは『これはおかしい』と伝えると、理解してもらえる環境でした」

以上を踏まえ、BさんがAさんへのプレゼンします。提案は大きく2つ。

1つめは、

Bさん :「そもそもAさんが多忙すぎる。なかでも予算配分と承認プロセスが非効率で、一刻も早く各部門に予算を配分、予算内であれば部内で承認するプロセスにすべき」


(BさんからAさんへのプレゼン)

2つめは、

Bさん :「カルチャーにメスを入れる。たとえば『うちの会社、ここが変だよプロジェクト』を社内で実施してみるのは?社内で変だなと思うこと、変えたほうがいいことを有志でディスカッションし、得られた声を経営陣に民意として示す」

Aさん : 「やってみたい!」

と目を輝かせたAさんに、Bさんは「でも、メンバー集めは慎重にしたほうがいいですね(笑)」と補足。「自分では考えてもみなかった打開策が見えてきました」と、明るい表情になったAさん。タニモクで得たものは大きかったようです。

 

事例2:興味があることをすべて仕事にしたい。でも今の働き方では難しい…

 

2組目の話し手は、IT企業で人事を担当する40代女性Cさん。聞き手は鉄道会社勤務の30代女性Dさん。


(Cさんの絵)

地球や花、アロマオイル、コスメなど、様々な要素が盛り込まれています。Cさんは本業の他にも様々な活動をしているようです。

Cさん : 「20年ほど人事の仕事をしてきましたが、息子が自立したタイミングで、1年前に上京しました。今の会社でも人事部で、コーチングやカウンセリングを担当しています。社員全員と面談し、現状を確認、カルテを作って一人ひとりケアをしています。他にも、自分が得意なアロマで、みんなのリラックス効果を高める取り組みをしています」

現職では社員の働きやすい環境を作り、離職率を下げる取り組みや人事に加え、社長秘書としての役割、さらに前職の化粧品会社の手伝いも、とても多忙な日々が浮き彫りになりました。

Cさんの説明を受け、Dさんは一つひとつ質問を重ね、状況を明らかにしていきます。

Dさん : 「社員との面談ではどんなことを聞いているんですか?」
「離職率を下げる取り組みとは具体的にどういうものですか?」
「化粧品会社のお手伝いはどういうことをしているんですか?」
「本業で担当している分野を引き継いでくれそうな後輩はいますか?」
「休みはきちんと取れていますか?」
「もし、今いろいろやっていることのうち、どれかひとつしかできないとなったら、どれを選びますか?お金とは関係なく、本当にやりたいこと基準で選ぶとしたら?」など

これらの質問で、Cさんの現状がわかってきました。

本業で「働き方を変えたい」と社長に相談すると、雇用契約を社員からフリーランスへと切り替え、Cさんが本業以外でも活躍することを、社長も望んでいました。

人事の仕事が好きで、心から楽しんでいるCさんにとって、それは願ってもない提案。ただ、フリーランスという働き方が未経験で、本業との仕事の割合に迷いがあるそうです。

以上を踏まえ、DさんからCさんへのプレゼン。提案は大きく3つ。1つめは、

Dさん : 「Cさんの“後継者”となる人材を育成すること。現在、担当している業務は、引き継ぐことで後輩もできます。ただ、育成には時間がかかるので、できるだけ早いうちに対象者を決め、人事のキーパーソンが不在となる時期をなくすことも大事です」


(DさんからCさんへプレゼン)

2つめは、

Dさん : 「今進めている大きなプロジェクトが落ち着いたタイミングで、化粧品の仕事からは一歩引く。ミーティングの頻度を減らし、関わりは完全に断つ訳でもなく、月1回の集中的な関与で、それ以外の時間は情報収集に充ててみると良いと思います。結果的に大阪、東京の移動時間も浮き、余裕も生まれるはず」

3つめは、

Dさん : 「沖縄に行く!!自然にふれたり、温暖化の影響を受けているサンゴ礁などを考え、Cさんが絵に描いた地球――関心の高い環境問題と向き合う。さらに、東京と大阪の行き来で疲れているように見えるCさんに、リフレッシュしてきてほしい」

Cさん : 「自分が思ってもみない目標を出してもらい、なんて斬新なんだろう!でも、やってみようと思えました。新たな視点を持てたのはとてもうれしい機会でした」

 

タニモクのススメ

 

他人に目標を設定してもらうタニモク。思いもよらない目標を提示され、刺激が得られるだけでなく、自分が心の底から大事にしていることを確認できる貴重な体験です。大事なのは、はじめましての相手とやること。バックオフィス・ヒーローズのミートアップで出会った他社さんとタニモク企画したり、実はコンカーにもタニモクやってみたい!という声がちらほらあります。ご一緒にいかがですか?ラブコールお待ちしています!


今回のイベントの様子は Ideal leaders 様の Web ページでも紹介されています。こちらも併せてご覧ください。

執筆:池田園子 / 撮影:池田園子 / 企画編集:田中由香