ユーザベースCFO 村上未来氏 - 仕事に全力でコミットすることがキャリアをつくる - The Road to CFO

Yosuke Noda |

事業の急成長を実現している企業でも、会計・経理などのバックオフィス強化や間接業務のプロセス標準化が遅れると、内部崩壊の危機に陥ることがあります。成長を止めず、さらに加速させるために、企業のバックオフィスが果たす役割は想像以上に大きいものです。成長の壁を乗り越え、成果を上げ続けている企業のCFO(最高財務責任者)は、どんなキャリアを持ち、何に取り組んでいるのでしょうか。

Back Office Heroes編集部では、企業におけるバックオフィス(コーポレート部門)のトップであることが多いCFOのキャリアに焦点を当てていきます。今回は、企業・業界情報プラットフォーム「SPEEDA」やソーシャル経済メディア「NewsPicks」などを手掛ける株式会社ユーザベースの村上未来さん(経営財務企画担当専門役員 兼 CFO)に話を伺いました。

 

「経済情報で、世界を変える」ことを目指すユーザベース

――貴社の事業内容を教えてください。

村上:ユーザベースは「経済情報で、世界を変える」を企業ミッションに掲げています。2008年4月に創業してから、1,100社超が活用する企業・業界情報プラットフォーム「SPEEDA」と、ソーシャル経済メディア「NewsPicks」をコア事業として展開してきました。

 2016年には東京証券取引所マザーズに上場し、国内最大級のスタートアップデータベース「entrepedia」、B2Bマーケティングプラットフォーム「FORCAS」などの新規サービスも提供しています。現在は、2018年7月に買収した米国の経済メディア「Quartz」とNewsPicks USAを統合し、新たなサービスを提供開始するなど、グローバル市場での事業拡大を進めています。

 当社は、経済情報の在り方を変えて、世界中のビジネスパーソンの生産性を上げることに取り組んでいます。ユーザベースが大切にしている価値観である「7つのルール」の一つに、「迷ったら挑戦する道を選ぶ」というルールがあります。当社では、非連続な挑戦しか将来の成長を創り出すものはないと思っています。そのため、現状の安定や成功に満足せず、次の打ち手を常に考えている点が強みだと考えています。

 Quartzは、当時のグループ全体の売上よりも大きな金額で買収しました。メディア先進国であり、経済の中心ともなる米国に進出することは、当社のミッション達成において非常に重要な一歩となります。リスクを多面的に分析したうえで、チャレンジを大切にするという当社の文化が買収を後押しした事例といえます。

 

M&Aやスペシャルタスク、調達戦略などを統括

――現在、ご自身が所属している部門の職務内容や体制について教えてください。

村上:ユーザベースのコーポレート部門全体では約40人が在籍しています。M&Aやスペシャルタスク、調達戦略などを担う「経営財務企画」部門、経理や財務、予算統制などを行う「アカウンティング&ファイナンス」部門、法務や労務、人事、総務、情報セキュリティ、PR、コーポレートエンジニアリングなどの機能を持つ「コーポレート」部門に大きく分かれています。

 私は現在、経営財務企画部門を統括しています。このファンクションは、2018年4月に「アカウンティング&ファイナンス」部門から戦略的に切り出されたものです。それまでは、オペレーションを作り上げることで急速な成長を支えていく役割も併せて担っていましたが、会社が次の成長ステージに入り、私自身はM&Aや資金調達を手掛けることに注力することになりました。

 CFOは、会社のリスクとリターンを見て、ブレーキを踏む役割を担っています。しかし、それだけではなく、私は創業者の思いをどうやったら実現させられるかを考えることも自分の役割だと認識しています。常にバランスを取りながら、業務を遂行しています。

監査法人、投資銀行、業界特化型アドバイザリーを経験して

――どういったキャリアを経て、ユーザベースに入社されたのでしょうか。

村上:大学を卒業した年に、公認会計士の二次試験(当時)に合格しました。新卒で監査法人に入社し、「公認会計士になった以上、監査を経験すべきだ」と考え、5年間、監査業務に従事しました。ここでは事業会社の監査だけでなく、公会計の分野の部門横断型プロジェクトにも取り組みました。

 その後、監査法人内で異動し、M&Aを取り扱うトランザクションサービス部門を1年経験しました。そこでの業務を通して、「もっとM&Aについて深く知りたい、どっぷりと浸かった仕事をしたい」と考えるようになります。そして、投資銀行であるUBS証券株式会社に転職しました。

 UBS証券では、投資銀行部門のジュニアアナリストからスタート。朝早くから夜遅くまで、企業分析や調査、営業資料の作成などに携わります。実際のM&A案件に入れば、寝る間も惜しんで仕事に没頭する日々を送り、非常に密度の濃い3年間を過ごしました。

 ここでは、会計という自身のバックグラウンドに、M&Aやアドバイザリー業務の基礎知識をしっかりと学び、身に付けることができました。ここで得た知識や経験は、その後のキャリアに大きく役立っています。

 投資銀行のM&Aでは、徹底的に顧客目線に立って、きめ細かなサポート業務にチーム全体で取り組みました。M&Aプロセスを通じて出てくる、デューデリジェンス(企業の資産価値を適正に評価する手続き)や価格交渉等の様々なアレンジ業務を、緊張感を持って気を抜かずにこなしていきました。完全に裏方の泥臭い仕事でしたね。

 

――その後、KPMGヘルスケアジャパン株式会社に入社されますね。なぜ、転職されたのでしょうか。

村上:元々関心があった「ヘルスケア分野」においてM&Aやファイナンスバックグラウンドを活かして、当該分野で自分が貢献できることがあるのではと考えたからです。KPMGヘルスケアジャパンでは、医療機関や訪問介護事業などを行う介護オペレータの資金調達や、M&AのFA(ファイナンシャル・アドバイザリー)業務や経営戦略立案におけるアドバイザリー業務に従事しました。

 事業会社の資金調達と違って、ヘルスケア分野では過去事例や定石がほとんどなく、まだ型ができていませんでした。そのため、顧客のニーズや状況に応じたサービスを一から作り、提供することが求められ、難易度の高いプロジェクトが多かったです。そこでも、UBS証券在籍時代の濃い経験が活きてきました。

 

ユーザベース入社の決め手とは?

――それから3年後の2012年、これまでの経験を踏まえて独立しようと考えていた村上さんは、ユーザベースの創業者の一人である新野良介氏から「ユーザベースに来てほしい」と誘われたんですよね?

村上:新野は、UBS証券時代に寝食を共にした戦友でもあります。入社当時のユーザベースは、主要な事業はSPEEDAのみで在籍者数は40人程度。当時、会計アドバイザリー分野で独立したいと決めていた直後でもあり、正直、迷いはありました。ただ、UBS証券時代から、彼の人間的な魅力を知っていて、非常に尊敬もしていましたし、またその人が信頼しているメンバーと働けることが、自分にとって魅力的に映りました。それが入社を決めた理由です。

 また、ユーザベースについては、新機能を信じられないくらい速いスピードで次々にリリースしていたことから、入社する前から「成長が著しく速い会社」という印象を外から見て持っていました。新たにコーポレート部門を立ち上げるということで、他にはないチャレンジングな機会だと捉えました。

 

スタートアップのCFOに求められること

――ユーザベース入社後、どのような取り組みをされてきたのですか?

村上:入社後は、急拡大する会社のオペレーションづくりを必死に食らいつきながらやり遂げていきました。コーポレート部門が1~2名でありとあらゆる仕事を行っていた状態から、企業の成長を支えるだけではなく加速させるような強固なコーポレート基盤を創るべく、必要な機能を会社の拡大に応じて一つ一つ構築していきました。

 経理、労務、総務、法務といった機能をつくり、コーポレート部門を形成していきました。また、上場に向けた様々な整備にも取り組み、準備を進めました。会社の成長に必要な資金調達を行うため、その当時代表であった梅田や新野とともに、銀行や投資家を行脚したりもしてきました。

――その後の成長に最も大きな影響があったと考える取り組みは何でしょうか? 

 IPO(新規株式公開)は、会社の成長の通過点としつつも、我々の会社がより成長していくために、その準備プロセスが非常によい機会であったと考えています。IPO準備では、ガバナンスの仕組み、規定、業務フローなど、多岐にわたって、種々の整備を進めます。弊社では、IPOを自分達が将来グローバルカンパニーに成長するためのプロセスであると位置づけ、「ためのもの」つまり審査を通過するために何かを整備することは行いませんでした

 整備する規定やプロセスが実質的に必要な事か、リスクを低減するものかといった観点から関連メンバーと徹底的に話し合い、実の伴ったプロセス整備を行いました。必要性を丁寧に関連メンバーに共有していくプロセスを経て、コンプライアンスやコーポレートガバナンスの重要性に関する意識が全社にいっそう醸成されました。創業当時から変わらぬスピードで成長する会社でありながら、フロントメンバー含めて管理の重要性についての意識が非常に高い会社であると自負しています。

 また、IPOにより株式を用いたM&Aが可能となったことは、言うまでもありません。実際にQuartzの買収は株式を用いたM&Aであり、グローバルカンパニーへの機会を手に入れられたのは、まさにIPOによるものです。

 一方、会社が目指している“グローバルカンパニー”を本気で目指すという目標からすると、スタートアップがオペレーションを作っていくというフェーズは、まだ当面続くと思います。さらに、オペレーションづくりだけではなく、ある程度大きくなった組織の中で、色々なメンバーが能力を活かせる仕組みづくりや、力を発揮しやすくするための業務標準化を進めていく必要があります。

――ユーザベースでバックオフィス(コーポレート部門)のメンバーに求められる素質とは何でしょうか?

村上:例えば、一般に経理業務というと、決まった仕事を効率よくこなすことが重視されます。ユーザベースでは、日々形態が変わり新たな領域に進出しているため、会社の成長に対応した常に新しいオペレーションを作っていかなければいけません。足りないものがあれば、各メンバーが自発的に作ることが求められます。また、成長著しい会社を支えることは一人ではできませんので、チームで力を合わせることが重要となります。ですから、会社の変化とともに自らも成長したいという学習意欲やオーナーシップを重視しています。また、チームワークも重視しています。

 

仕事に全力でコミットすることがキャリアをつくる

――転職に際して、村上さんは今まで一度もエージェントを利用していないそうですね。

村上:ありがたいことに、仕事でもプライベートでも、今まで素晴らしいご縁を多くいただいてきました。転職にあたっても、尊敬する人やそこで働く方々に惹かれるなど、人軸で選んできた部分が多くあります。これまで共に働いた同僚やお客様、パートナーの方々とは、今でもビジネス上の交流を持っています。また、とにかくそのときどきの環境で目的意識を持って、仕事に全力でコミットすることが、次のキャリアを形成すると考えて取り組んできました。

――今後、ユーザベースのCFOとして取り組んでいきたいことは何ですか?

村上:キーワードは「グローバル化」です。M&Aであれ、資金調達であれ、会社のグローバル化を推進する戦略を遂行する必要があります。Quartz買収でより海外比率が高まったため、当社は現在、これまでとは全く異なるフェーズに突入しています。新しいステージに合った成長戦略や組織づくり、オペレーション、資金調達を通して、私の役割から会社の成長を担っていくつもりです。

 


 引き続き事業の急成長が期待されるユーザベース。同社が今後、さらに世の中に与えていくであろうインパクトとともに、村上氏をはじめとするコーポレート部門の活躍ぶりにも注目していきたいと思います。

 

(執筆:翁長潤/企画編集:野田洋輔)

 

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